「じゃあ俺達はあいつの行方を突き止めるから、お前は無理するな」
「何かあったらすぐ連絡をよこすんだ、いいな?」
「分かった。皆も気をつけて。あの呪いの札は要注意よ」
「何たって美咲ちゃんの為だもんな!」
「馬鹿・・」
「頑張るぜ!」とガッツポーズを取ったお調子者のヒカルの頭を最後に
はたいてから、ハヤテはに念押しして駆け出した。
サヤにそっくりのアイドル、星野美咲の控え室では左足に包帯を巻いた
本人、それと綺麗にメイクを施され、撮影用の衣装をまとったサヤが大きな姿見の前で
見違えるほど美しくなった自分に見惚れているところだった。
「何かいつもの私じゃないみたい・・」
「可愛いよ、サヤちゃん。ばっちり決まってる」
「本人顔負けってところかな?これじゃ誰も気付かないわよ」
男性マネージャ、それに同じ女戦士ののお褒めの言葉も預かって、サヤは
ほくほくした顔をしていた。
「美咲ちゃんの足もたいしたことないらしいし、今日の撮影だけ出ればいいからね」
「よし、じゃさっそく現場に行こう」
「はいっ!」
「あ、ああ〜っ、美咲ちゃんは控え室から出ないでね!」
「安心してゆっくり休んでて。私、頑張るから」
男性マネージャーは雑誌を読みふけるアイドルに釘を刺し、サヤは
彼女に優しく声をかけた。
「よし、じゃ、行こう!」
「はいっ」
男性マネージャに背中を押されるようにサヤが出て行ってしまい、最後にはちらりと
後ろ手にドアを閉めながらくつろぐアイドルを見た。
「何よ」
「いえ、別に・・」
の目に浮かぶ疑惑の色に戸惑ったアイドルは、むっとして上目遣いに
この精霊を睨みつけた。
幾つもの照明が浮かび上がる薄暗いスタジオ。
「はい、じゃあ美咲ちゃんが恋人の事務所にやってくるシーン行きます」
「はい、よ〜い!」
大勢のスタッフと監督が見守る中、撮影は着々と進められていた。
夕暮れのオフィスを背景に、背の高いすらりとした男性の下にやってきたサヤ。
しかし、あまりにもぎくしゃくした動きに監督からダメ出しを食らってしまった。
「すみません・・」
サヤの申し訳なさそうに頭を下げている姿を、オフィスの扉からこっそりと
覗いたアイドルはくすくすと忍び笑いをもらした。
「こらっ、何でここにいるの?」
いきなり気配を消して近づいてきたはこのわがまま娘を一喝した。
そして彼女は「キャッ!」と悲鳴を上げるアイドルの口を塞ぎ、ブラインドのかかった
ドアの前から連れ出した。
「何すんのよ、もう!」
アイドルが今にも大声で騒ぎ出しそうになったので、は慌てて彼女の口を押さえていた手を放した。
「安静にしてなきゃ駄目なんじゃないの?」
「あんまり動き回ると、あなたのマネージャーに言いつけるわよ」
「何よ、あんた偉っそうに!言いつけるんだったら言いつけなさいよ。あの人、今は撮影中で出れないもの」
疑念と心配の色を浮かべるに、サヤそっくりのアイドルは持ち前の鼻っ柱の強さで言い返した。
「分かったわよ。言いつけないから」
は心優しいサヤとは正反対のわがまま娘に辟易し、もう何も言うまいと思った。
「でも、サヤは素人でしょ?笑うなんてあまりにも失礼じゃない?」
だが、は忘れずに別の方向からアイドルを攻めた。
「そ、そんなこと分かってるよ・・つい・・」
アイドルは自分にズバズバ意見を述べるに、むかっ腹を立てたが、
元はといえばずる休みした自分にも落ち度があったので、その場は押し黙った。
そんなこんなで二人が言い争っている間に、撮影は再び進められていた。
「あの・・これ、読んでください」
朱色のカーディガンにオフホワイトの花模様のスカートをまとったサヤは
気を取り直して真剣に撮影に挑んでいた。
彼女が、恋人のデスクに手紙を置いて、恥ずかしそうに窓枠に駆け寄った時、事件は起こった。
沈み行く夕日を満喫していたサヤの左肩に、男優の手がそっと置かれたのだ。
すかさず、サヤは条件反射で男優の手首をひねり、左足をなぎ払うと豪快に投げ飛ばした。
「ああっ、ごめんなさい〜!」
サヤはひたすら平謝りするわ、セットの一部が壊れるわ、男性マネージャーは気を失いかけるわ
で現場は騒然となった。
「ついいつもどおりの癖が・・大丈夫ですか!?」
サヤは叩きつけられた男優の下に走っていった。
「すごいじゃん。さすがギンガピンクって感じ。ねえ、あんたの仲間、マジでカッコいいってば!」
先ほどとはうってかわってはしゃぐわがまま娘に肩をこづかれ、はやれやれとため息をつく始末だった。