結局、エドマンドの懐中電灯が点かないので、業を煮やしたは
夜空にフェニックスの形をした緊急信号用の火矢を一矢放った。
ここでようやく遅ればせながら、妖精女王とその一行に何かあったと感づいた
ナルニアの住人達が数ある城門の一つから城内へと突入した。
長い石畳の橋を駆け抜け、破竹の勢いで迫るナルニアの住人達に、二人の番兵は腰を抜かした。
それでも二人の番兵は、ありったけの勇気をかき集めて、忍び返しのついた城門の中で
長剣を抜き、戦闘の構えを取ることを忘れていなかった。
しかし、四面楚歌の番兵二人は雄牛のような唸り声をあげて斧を振り上げた
ミノタウロスにあっけなく吹っ飛ばされて絶命した。
この勢いに乗じたナルニアの住人達は城門を軽々と突破し、やカスピアンの
待つ城内へと向かった。
「ナルニアの為に!」
ここで別の城門を開けようとしていたピーターの戦いの叫びのもと、スーザン、
カスピアンは弓や長剣を手に取り、走り出した。
最初はナルニアの住人達に追い風が吹いた。
寝首をかかれたテルマール人達は、カスピアン王子、セントール、ミノタウロス、ピー
ター王の長剣や斧の餌食となり、バタバタと倒れていった。
もちろん、黒小人やリーピーチープら体躯の小さい者達も暗躍していた。
男性陣だけではない。人間であり、唯一の女性君主であるスーザン女王の弓矢も放たれ、
三人の屈強な軍人達をひっくり返らせていた。
緊急用信号を打ち上げたも、エドマンドがあっと叫んだかと思うと高さ数十メートル
の塔の上から身を乗り出して飛び降りた。
そして、城の石屋根をよじ登ろうとしていた若いフォーンの男性やチーター達の間をすり抜けて
最も激しい戦闘が行われている中庭へと降り立った。
早速、手中から放たれたオレンジ色の炎を帯びたスティレット(十字架の様な形状で先端が尖っている短剣)。
テルマールの屈強な軍人達は目の前で、次々と喉を掻き切られていく同僚達の様を見て震え上がった。
その炎の短剣の持ち主である妖精女王は、行く先に長剣を振り上げる相手がいれば、嘲笑うかのごとく軽々と飛び越し、
後方から頭部を蹴り飛ばして、黒い影のごとく、城の石屋根の上をよじ登り、城内を疾走した。
「射手用意!」
スーザンの顔がさっと青ざめた。
ナルニアの住人達に押されまくりの戦況を不利と判断したテルマール人の弓隊が
漆黒のボーガン片手にぞろぞろと城の二階部分から出てきたのだ。
「構え!」
テルマール人の弓隊の長の掛け声が飛んだ。
ここで先ほどから背後にそびえるスレート瓦をよじ登っていたエドマンドは
中庭で戦っている仲間を救おうと大胆な攻撃に出た。
スレート瓦を上りきってしまうと、彼は一人の射手に目をつけ、そのまま豪快に
つるつるとした瓦の上を滑走した。
中庭ばかりに気を取られていた哀れな射手は、エドマンドの捨て身の攻撃を受けた後、悲痛な叫びを上げてまっさかさまに
城の二階部分から転落したのだった。
「エド!後ろだ!」
中庭で長剣を奮っていたピーターは弟の大胆不敵な犯行に、驚きながらも警告した。
後先考えずに行動してしまったエドマンドはぎょっとし、慌てて飛んでくる無数のボーガンの矢から
逃れようと近くにあった木戸を開けて横っ飛びに避けた。
一方、七世は長年の政敵であるミラース卿を探して暗い城内を疾走していた。
それはピーター王も同じだった。
彼は中庭から城内へと続く外階段をひとっとびで駆け上ると、向かってくる軍人達を次々と斬り殺していった。