石段から舗道へ次々と落下していくテルマール人やナルニア人達。
ピーターはそれらを上手く避けながら石段を駆け上って行った。
遂に一頭のミノタウロスがピーターよりも早く、三階のバルコニーから
中庭の激しい戦闘を見物していたミラースの元にたどり着いた。
雄牛のような唸り声を上げ、バルコニーをよじ登ってきたミノタウロスの
気配に微塵も気づかなかったミラースは後ずさり、湾曲した短剣を投げつけようとした
ミノタウロスは間一髪、バルコニーにボーガンを携えて現れたグローゼル将軍の
黒い矢の元に倒れた。
ミラースは右胸に矢を受けて苦しむミノタウロスを、凍りつくような笑みを浮かべて一瞥すると
情け容赦なく敵をバルコニーから突き落としたのである。
ピーターの目の前を瀕死のミノタウロスが、城のスレート瓦に激突し、ごろごろと
転げ落ちていった。
ピーターは怒りに鼻腔を膨らませ、油断していたテルマールの兵士を一刀両断の元、
斬り殺した。
「城門を閉じろ」
一方、足元をすくわれる所だったミラースは体勢を立て直し、自らの命を救った忠実な侍従武官にてきぱきと命じていた。
「ミラースの私室はどこにあるの?言いなさい!」
その頃、中庭を通り抜け、無事、城内へと潜入したと合流したトランプキンは
ほの暗い城内の隅で一人の下級武官を捕まえ、テルマールの最高司令官の居場所を聞き出そうとしていた。
「お前、いったい何者だ?」
の手中から放たれた炎のスピレットが左足に突き刺さって、身動き取れぬ下級武官は
火傷に苦しみながら問いかけた。
「様、奴らが迫っているらしいですぞ!」
トランプキンは短い弓を油断なく構え、回廊をばたばた駆けてくる慌しい足音に気づいて警告した。
「言いなさい!早く!」
明らかに時間がないと感じたは、荒々しく相手の鎖帷子をつかんで揺さぶった。
その時だ。
トランプキンとが閂を差し込んで足止めしていた板戸がバリバリと破られ、そこへ長剣と盾を手にした四人の兵が乱入した。
はすっくと立ち上がると、足元に倒れていた下級武官の
左足に突き刺さっていたスピレットを引き抜いて、真っ先に目に付いた兵士目掛けて投げつけた。
その兵士は防ぐ間もなく、あっけなく倒れ、残された三人の兵がとその影にいた
トランプキンにじりじりと迫った。
背丈の低いトランプキンはぎゅっと眉根を寄せると、の背後から短い矢を放って、一人の兵士をひっくり返らせた。
はスピレットと黄金の杓杖を構えると、兵士の長剣の一振りを杓杖で止め、
一瞬の隙をついて、下方からスピレットを突き上げ、敵の額を十字に切り裂いた。
兵士が断末魔の叫びを上げて、仰向けにくずれ落ちるのと、大理石の円柱の近くで弓を引き絞ろうとしていたトランプキンが
矢を放つ間もなく、走ってきたもう一人の兵士に盾でどつかれて中庭へと転落したのはほぼ同時だった。