その後、幽助、桑原、の三人は二の角、三の角と呼ばれる妖怪集団の強力な手下達を協力して倒し、

いよいよ地下室に続く螺旋階段を駆け下りていた。


「あいつが最後のボスか」

「けっ、ほとんど妖気を感じねーぜ」

今、幽助、桑原、、ぼたんの四人は小ホール上の闘技場に足を踏み入れていた。

目の前にはがたいのいい戸愚呂兄弟、後ろのずらりと並んだモニターには

暇な金持ちどもがこぞってこの一大スペクタクルを見物しにきていた。

さらにその上の、録音スタジオと同じぐらいの大きさの分厚いガラス張りのスペースには、両脇をボディガードにがっちりと

固められた雪菜、革張りの椅子に座って葉巻をふかす垂金がいた。


「おおっ!あれに見えるは雪菜さん!!待ってろ、すぐに助けてやるぜ!!」

さっきから桑原のテンションも上がりっぱなしなのも頷ける。

だが、救いの手が差し伸べられているというのにそれを見守る雪菜の表情は硬かった。

「よく来たねぇ・・ま、お手やらわかに頼みますよ」

オリーブグリーンのタンクトップの戸愚呂弟は日なたに寝そべる虎の

ように穏やかな声だったが、雰囲気は危険そのものだった。

「左京さん・・やはりあなたもグルだったのね」

は後ろのモニターで一際若い男性を見止めてがっくりと呟いた。

「こんなことだろうとは一応予測していたけど・・」

画面越しの左京は余裕綽々でセブンスターを吸っていたが、桑原の横に佇むの姿を見止めて少し驚いていた。


は下がってろ、ここは俺と桑原二人でやる」

幽助はあきらかに戸愚呂兄弟の危険な香りを感じ取ったらしい。

彼は厳しい顔で背の高い桑原とともに戸愚呂兄弟の前に進み出た。

「ぼたんさん・・黙って聞いて頂戴。今から隙を見てここを脱出して上の雪菜ちゃんを助けてきます」

戸愚呂兄弟と早くも戦闘を開始した二人を見ながら、はひそひそと霊界案内人の耳元で

囁いた。

「この峨嵋刺に私の冷気を通せば、あの後ろのドアぐらい簡単に破ることが出来るわ」

「ええっ!?無茶だよ!もし、あいつに気づかれたらどうするんだい?あんた、めったうちにされちゃうよぉ・・」

の奇想天外な提案にぼたんは泣きそうな声で反対した。

「あいつは確かに強いけど、あの二人の相手をするのに精一杯なはず。いちかばちかやってみる」

「それに、私が危なくなったら南野君やあの黒い服の人も必ず助けに来てくれるはず」

ぼたんとちらちら目配せしながら話すも、それはとても危険な賭けだということは分かっていたが、

人質さえ取り返してしまえばもうこちらのものだということもよく分かっていた。


ぼたんとの簡単な打ち合わせが終わってしまうと、は彼女の背に隠れてデニムジャケットのポケットに

そろそろと冷気を通した手を突っ込むと、隠していた峨嵋刺をふわりと浮上させ、背後の閉じられたドア

目掛けて向かわせた。

そして、冷気を巧みに操り、固く閉じられたドアの隅に峨嵋刺を突き刺し、それをドリル上に回転させて削り取りながら

子供一人が通れるぐらいの小さな脱出口を作り始めた。


「うわあっ・・」

戸愚呂兄弟にさんざんぶちのめされて宙を舞った幽助が吹っ飛ばされて

床に叩きつけられた。

桑原はとっくに壁に叩きつけられてぐったりとしていた。

「ん?一人いないねぇ・・」

戸愚呂弟は床にはいつくばって動けない幽助をつかみ起こそうとした時、初めて異変に気づいた。

闘技場の隅で桑原と幽助の死闘を見守っていた二人の女のうち、が忽然と姿を消しており、

よくよく目をこらすと自動ドアに子供一人が通れるぐらいの穴が開いていた。

「仲間を見捨て、気配を隠して逃げたか・・ま、それも生き延びる一つの選択肢だろうねぇ」

戸愚呂弟は幽助の胸倉をつかむと、にやりとほくそえんだ。


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