うら寂しい洋館の長い廊下をは逆戻りしていた。
「待て〜!!」
「逃亡者、生きては帰さんぞ!!」
すぐさま、垂金が念のため、使用人部屋で最低限待機させていた残りのボディガードに
追っかけられてしまう。
だが、曲がり角に差し掛かり、廊下のつきあたりに走りこむと、
はピストルを手に手に駆けてくる黒服の男達を待ち構えた。
「はっ!」
は峨嵋刺を大きく振り下ろすと行く手に氷水晶の防御壁を次々と繰り出した。
「うわっ!」
「どわっ!」
黒服にサングラスをかけたボディガード達はペルシャ絨毯の床を突き破って、突如
現れた巨大水晶壁に吹っ飛ばされたり、怯んだりして行く手を阻まれた。
「もう時間がない!」
はドミノ倒しのように廊下の向こうまで現れた氷水晶の防御壁に背を向けると、
つづれ織りのかかったドアを開けて走り出した。
途中で何人か出会ったボディガード達も峨嵋刺でバシッ、バシッと
腹や首の後ろを殴って気絶させると廊下に転がした。
「雪菜ちゃん!!」
「あなたは!」
「お前は・・」
録音スタジオくらいの大きさの分厚いガラス張りスペースに通じる
ドアを開けるとそこには先客がいた。
かつて警官に追われていたを助けてくれた飛影、驚きのあまり大きな二重の瞳を見開いた雪菜、
そして、金と権力で肥え太った垂金とその周りを泡を吹いて倒れている数名のボディガード達。
「お前だけは絶対に許さない。同族の彼女をよくもこんな目に・・」
「お、お前は・・先ほど闘技場から消えた侵入者の仲間か!?た、頼む・・助けてくれ・・見逃してくれ・・金ならいくらでも・・」
紫色の派手なスーツを着た垂金は焦った。全身からすさまじい冷気のオーラを発して
峨嵋刺を手に近づいてくるがいるのだから。
「うるさいっ!何でもそれで解決出来ると思うな!」
の冷気の通った峨嵋刺がシャッと放たれ、垂金の頬をかすめて分厚いガラスに突き刺さったのは
その刹那だった。
垂金は冷や汗だらだらでその威力に腰をぬかした。
「氷女の力をあまり見くびらぬ方がいい。この女の今の力ではお前の呪札とやらもきかんぞ」
飛影はふんと鼻で笑うと、がたがた震えている垂金に教えてやった。
「こ、氷女?こ、この娘がか・・」
垂金は飛影の背に隠れている雪菜を、それからどう見ても普通の人間の少女にしか
見えぬ濡れたような長い黒髪を垂らしたを見比べた。
「貴様、覚悟は出来ているだろうな・・」
飛影はあいもかわらず反省の色がない金の亡者めがけて、素早い右フックを繰り出した。
そして、そのまま彼の上に馬乗りになって立て続けに殴り始めた。
「やめて!!もう、やめて下さい・・」
飛影が垂金に渾身の一撃を食らわしてやろうとした時、その腕をか細い腕で
つかんだのは雪菜だった。
彼女は血の涙を流していた。
「もう、沢山なんです・・私、誰かがこれ以上憎しみあったり、傷つけあったりするのは見たくありません!」
「たとえ、私を傷つけた人でも・・」
「雪菜ちゃん・・本当に・・一人でよく頑張ったね・・」
涙にかきくれた顔を背けた彼女をはそっと抱きしめてやった。
飛影はそこに暖かな家族の絆を見たような気がした。
「分かった・・こんな下種な奴のことでお前が苦しむ必要はない」
彼はフッと穏やかな微笑みを浮かべ、雪菜を優しい眼差しで見下ろした。
「ありがとうございます」
その瞬間、雪菜の顔がぱっと輝いた。