その後、は「フェリシティー伯母さんとの約束があるから」と言って
夜間外出禁止時間三十分前に談話室を飛び出して言った。
彼女が迎えに来た伯母のバギーで、大空高く飛び去るのを見送ってから
ハリーもその場を後にした。
夜間外出禁止時間まであと十五分しかなかった。
彼は息せき切って走った。
彼もダンブルドアとの個別授業という約束があったのだ。
「あら、ハリー」
途中の廊下で彼は、若干泥酔気味のシビル・トレローニーにばったり出会った。
「さきほど・にお会いしましたわ。なんだか――とても急いでいる様子で」
「あなたも彼女を追っているのかしら?でしたら――彼女は右側の角を――」
「いいえ、僕は校長先生に会いにいくんです。約束があって――」
ハリーは途中で先生の言葉をさえぎった。
「あら、まぁ、それでしたら、私も校長先生に会いにいくところですのよ」
トレローニー先生はとても喜んだようだった。
「ハリー、それにあなたのお友達のが私のクラスにいないと、寂しいですわ」
一緒に歩きながら、先生はとても感傷的に言った。
「は隠された素質を持った予見者でしたが――まぁ、なぜ、あの子が私のクラスに残らなかったか不思議ですわ。
彼女のような惜しい生徒が、まさか――落第するなど――考えもしませんでしたわ。
きっと試験の時は、緊張の余り上手く予言が出来なかったのでしょう。可愛そうな子!
あなたもですよ。ハリー。あなたは大した予見者ではありませんでいたが――でも、素晴らしい対象者でしたわ」
ハリーはのことはともかく、黙っていた。絶えず、彼女の宿命予言の対象にされていたことなど思い出したくもなかったのだ。
「残念ながら、あの駄馬さんは私の手腕を過小評価しているようでございますの。
トランプ占いを知っているか――とお尋ねしますとね――」
シェリー酒の酔いが強烈に回ってきたのか、トレローニー先生の声がヒステリー気味になった。
「ダンブルドア先生が私を面接なさったことは、昨日のことのように覚えていますの。
ホッグズ・ヘッドで校長先生は――正直申し上げますと、占い学をお気に召さないようでしたわ。
二、三、質問したところ、そう感じましたもの。それから、あたくし、なんだか妙な気分になりましてね。
その日はあまり――食べてませんでしたの」
ハリーはさっきからさんざん聞き逃していた長話を、今、ピクリと耳を立ててまじめに聞こうとした。
なぜなら、このトレローニー先生こそ、ハリーとヴォルデモートに関する予言をし、
彼の運命を大きく変えてしまった人物なのだ。
「でも、その時、セブルス・スネイプが、無礼にも面接の邪魔をしたのです!」
トレローニー先生は大きくしゃっくりすると、声を張り上げた。
「ドアの外で騒ぎがありましてね、パッとドアが開いたかと思うと、あの若者は、バーテンに襟ぐりをつかまれて立っていましたわ。
スネイプは部屋を間違えたんだと戯言を言っておりましたわ。でも、あたくしはむしろ彼は、面接のコツを探り出そうと
盗み聞きしていたんだと察しましたわ。だって、あなた――あの時、スネイプはまさに職を求めていましたの!
そう、そのあとはおわかりでございましょ?校長先生は私を採用なさることにずっと乗り気になりましたの」
ハリーはがっくりと膝をついた。
「ハリー?」
トレローニー先生がやっと我に帰って、心配そうに声をかけた。
彼の顔は蒼白で、血の気が失せるほど両手の拳をきつく握りしめていた。
ついに長年、なりを潜めていた真実が明らかになった。
胸が怒りと衝撃と悲しみで波打った。
予言を盗み聞きした犯人は、スネイプだったのだ。
そして、忠実なる僕よろしく、その予言をヴォルデモートに報告した。
スネイプはピーター・ぺディグリューとグルだったのだ。
自分の両親、彼女の両親とそれぞれの息子、娘を追跡するようにあいつらが仕組んだのだ。
だとしたら、スネイプがに近づいたのは彼女の特殊能力に目をつけて、闇陣営に引き込むか、彼女を殺すためだったのかもしれない。
それに、彼女のフェリシティー伯母を消そうとしたのはその計画の為に、邪魔だったのかもしれない。
「あなたでしょう?素敵なプレゼントを持ってきたのは?」
「何のことかさっぱり分かりませんな」
素敵なプレゼント・・それはつまり、聖マンゴ病院での暗殺に使われた「蛇毒入り注射器」のことだったのだ。
彼女の伯母が、ドラコ・マルフォイの罠から助け出し、校門まで送ってくれた時に、
憎しみをこめてスネイプに言ったのは、このことだったのか!
ハリーの頭は恐ろしいほど、さえきって回転した。
その頃、はディアヌ・クラウン・レコード店の居心地のよいカウチに腰掛けていた。
「よくお聞き。」
フェリシティー伯母が真剣な目つきで言った。
「あなたは、今日、ダンブルドア先生から重要な任務を任されたの」
「それは何ですか?」
はごくっと唾を飲み込んだ。
「ホークラックスの破壊よ」
「ホークラックス!?じゃぁ、隠されていた七つの箱のうちのどれかが見つかったのですね?」
は喜びと驚きの入り混じった声を上げた。
「お話ではダンブルドア先生は、この数ヶ月、あちこち飛び回って、隠された場所を探し当てたの。
蛇のナギニじゃないことは確かよ。おそらく、レイブンクローの品だろうと思うけど」
伯母は落ち着かなさそうに、薄くマニキュアを塗った爪でテーブルをトントンと叩きながら言った。
「極めて危険な任務だということを教えといて欲しいと、ダンブルドアはおっしゃったわ」
そこで、フェリシティーは綺麗に整えられた巻き毛のしたから、彼女の顔をしっかりと見据えた。
「もちろん、伯母さんもこの任務に参加しますよね?だって、今まで危険な任務には
ダンブルドア先生の片腕として、常にあなたが――」
はなんとかこの重苦しい時間をぶち破ろうと笑ってみた。
「いいえ。今回はパスよ」
だが、予想に反して伯母は怖い顔で言った。
「どうして――」
「ダンブルドアはこの任務には、私ではなく、あなたが適任だとおっしゃったの」