「君、いったい今までどこに行っていたんだ?それに――なんだ――その格好は?」

レイブンクロー戦の数日前、がロンに魔法薬学の宿題を一生懸命に解説していたところに、全身血まみれでぐしょ濡れの

ハリーが談話室に帰ってきた。

さいわい、一日のうちで最も忙しい時間だったので、悲鳴をあげたのは二人だけだったが。

「ロン、君の魔法薬学の本――」

ハリーはぜいぜいあえぎながら言った。

「早く――僕に貸してくれ」

「でも、あなたにはプリンスの本があるんじゃ――」

「あとで説明するから!」

が言いかけたのをさえぎって、彼は叫んだ。

次の瞬間、ロンは自分のカバンからえいっとプリンスの本を引っ張り出して、ハリーに渡した。

「ありがと!」

「ちょっと待って!」

が教科書をひっつかんで、つむじ風のようにかけていく彼を引き止めた。

「何だよ?」

ハリーがイライラして叫んだ。

「ここ、ローニル・ワズリブと書いてあるわよ」

が猫のような素早さで、ロンの魔法薬の教科書の裏表紙を指差した。

そこにはフレッド&ジョージの店から買ったペンで、意味不明の

名前が書かれてあった。

「げっ、ヤバイ」

の冷静なる指摘に、ハリーはぎょっとした。

「ほら、こっち、持って行って」

彼女は手際よく、今しがた机に置いていた魔法薬の教科書を手渡した。



「トイレで決闘なんて――ほんと、しゃれにもならないわね」

「ほっとけよ、

一時間後、談話室でがため息まじりに言った。

ロンはカンカンに腹を立てていた。

ハーマイオニーは哀れみの目でハリーを見ていた。

一時間前、ハリーは嘆きのマートルのトイレでマルフォイと決闘し、そこで

プリンスの切り裂き呪文を使ったことが、駆けつけてきたスネイプにばれて、その疑いのある魔法薬の教科書を

徹底的に調べられ、この闇の魔術はどこで習ったのかと延々と絞られたところだった。

その時は、の偶然の機転で「ローニル・ワズリブ」と書かれた教科書を持っていかなくて

よかったと感謝の思いでいたハリーだったが、今となってはそのような淡い思いでさえ吹っ飛んでいた。


「だから言ったでしょう?あのプリンスって人物は、いつかあなたの足を引っ張るはめになるって」

ハーマイオニーはそう言わずにはいられなかった。

「いいや、そうは思わないさ」

ハリーは頑固に言い張った。

「もう少しで、スネイプ先生にあの本の秘密に気づかれるとこだったのに、何でまだあの本に深入りするのよ?」

がここぞとばかりに突っ込んだ。

「あんな人を殺傷出来る呪文が書いてあるなんて――」

「いいかげんに――あの本を批判するのはやめてくれ!」

ハーマイオニーの言いかけた言葉をさえぎって、ハリーは叫んだ。


「プリンスはあれを書き写しただけだ!誰かに使えって勧めていたのとは違う!そりゃ、確信してるわけじゃないけど

 プリンスは自分に対して使われたやつを書きとめていただけなんだ!」

「あきれた――あなたが事実上弁護してることって――」

ハーマイオニーが食い下がって言った。

「ところで、今、そのプリンスの教科書はどこにあるの?」

が鋭い視線で、彼のあいていたカバンに問題の教科書がつっこんでいないのを確認して言った。

「必要の部屋に隠してやった。スネイプは君の貸してくれた教科書を僕のだと信じてなかった。きっと、これから蛇のようなしつこさで、僕の教科書の行方を追うだろ?

 だから、あいつが絶対に知らない場所に隠してやったんだ」

ハリーはそのことかと得意げに説明してやった。

「セクタムセンプラ(切り裂き)の呪文はいい切り札だったと思うわ。あなた達の話をさっきからずっと聞いていたんだけど

 マルフォイがハリーに向けて許されざる呪文を使おうとしたみたいね?悪いのは当然、あいつのほうじゃない。

 ハリーは自己防衛しただけよ!正当な行為だったと思うわ」

この不穏な空気を打ち破るかのような、澄んだ声がした。

ジニーだ。彼女はずっと彼らの後ろの席で話の一部始終を聞いていたのだった。

ハリーは驚きと感謝のあまり、つい、目をあげた。

「ええ、ハリーが攻撃されなかったのは嬉しいわ。でも、切り裂き呪文がいい切り札だとは言えないわ!

 結局、ハリーはひどいお説教を受けて、土曜日罰則でレイブンクロー戦に出場出来ないじゃない?」

ハーマイオニーが傷ついたような表情をして、食ってかかった。

「あら、いまさらクィディッチのことがわかるみたいな言い方をしないで」

ジニーが切り裂くような声で言った。

「自分が面子を失うだけよ」

「二人とも、やめなさいってば!これ以上ぐたぐた言っても悪循環になるだけだわ!」

がたまりかねて間に入った。

ハリーもロンも目を見張った。

ハーマイオニーとジニーはこれまでずっと仲がよかった。

いまや、二人ともおろおろするをはさんで、互いにフーンと顎をそらして立っている。


次の日からは大変な試練が続いた。

グリフィンドールチームのキャプテンとあろうものが、シーズン最後の試合に出場禁止になるようなヘマをしたというので

同寮生の怒りは激しかった。

そればかりか敵方のチームからの嘲りもよりいっそう酷くなった。

はザカリアスの後釜の解説者の、心底がっかりした表情のルーナに「ハリーは何をしでかしたの」と

聞かれたが、とてもじゃないが言える気にはなれなかった。

はドラコやスネイプの勝ち誇った表情を見るたびに、顔面に何か投げつけてやりたくなった。

大嫌いな連中に格好の餌を与えてしまったことに、心底むかついていた。



「勝ったぞ!」

だが、その心配もする必要がなかったぐらいにグリフィンドールはレイブンクローに快勝した。

ロン・ウィーズリーは手に銀色の優勝杯を握り締めて、勝利の叫びをあげていた。

「勝ったのよ、キャプテン!400対140でね!」

スネイプとの腸が煮えくり返る罰則から、帰ってきたハリーにが両手をあげて駆け寄ってきた。


決然とした燃えるような表情で、はハリーの首に腕を回した。

ハリーは何のためらいもなしに、五十人の寮生の前でにキスした。


どのぐらいたったのだろう?二人が抱擁を解いたとき、

ロミルダ・ベインやその仲間たちの嫉妬に狂った顔、ハーマイオニーのにっこりした顔、

ロンのニヤけた顔が、彼の目に映った。


はびっくりして息もつけないようだった。

ハリーはその驚愕の表情を見て、してやったりと笑った。

彼女もピーピー口笛を吹いたり、歓声を上げる寮生に交じって笑い出した。






















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