「しくじっただと?この大間抜け!絶好のチャンスだったのに!!」
べラトリックスは怒りのあまり、バシッとテーブルを叩いた。
ここはスピナーズ・エンドと呼ばれる廃墟になった製糸工場の通りだ。
昼間でも薄暗くじめじめとしたこの地区に住む人間はセブルス・スネイプぐらいだろう。
ひび割れた赤煉瓦のみすぼらしい家が立ち並び、近くから風に乗って運ばれてくるドブ川の臭気は
まともな人間なら耐えられそうもなかった。
この住宅街は世間から完全に見捨てられていたのは明らかである。
「落ち着け・・まだチャンスはある」
板を応急処置にうちつけた、割れた窓の向こうには二人の客がいた。
一人はブラック兄妹殺しで追われているべラトリックス・レストレンジ。
もう一人は夫がアズカバンに収監されているナルシッサ・マルフォイ。
ゆらゆらとゆれるろうそくランプが、輝くような金髪とカラスのような黒髪の頭を見下ろしていた。
ナルシッサはある重大な相談があって、彼の家を訪れたのだった。
さきほどからスネイプはムッとしながらも、抑制した声で興奮しているベラトリックスを鎮めていた。
彼女は彼の言葉を傲然と無視し、冷たい三角テーブルにあったカットグラスのワインを飲み干した。
「闇の帝王からフェリシティー・チェンが戻り次第、始末しろと言われていたのに、
何なのさ―このありさまは?おや、私に反論する気かい?私はこのとおり、ちゃーんと始末したよ。
ヤン牧師、フェリシティーの弟をね!まったく、私達の周りをこそこそかぎまわって
目障りなやつだった!!逃亡先で悠々と牧師をしてりゃぁ、殺されずにすんだのにねぇ・・」
そういうとベラトリックスは勝ち誇ったように笑い、右手に持っていた六連発銃を
くるくると回した。
この銃はかつて自分を狙撃した女が所持していた遺品だった。
「本当なの?べラ・・ヤン牧師が死んだって・・ああ!よかった!これで夫も安心することが出来るわ」
今まで一言も喋らなかったナルシッサ・マルフォイは嬉しそうに言った。
「ねぇ、セブルス、私はあなたを信じていますわ。誰にだって失敗はありますものね。それより、あの下品な赤毛の女を必ず始末して下さいね。あの女がうろつ
いてると
私、怖くて夜も眠れませんわ・・それはドラコも同じことです。
ドラコは今、闇の帝王から重大な任務をまかされているのに・・それに・・息子の任務遂行を手助けをして下さるあなたにも・・こんな時に
あの女が現れて邪魔立てでもしたら・・大変なことになりますもの」
それから、いくらか元気の出たナルシッサ・マルフォイは、黒い睫をは蝶のようにばたかせ、
誘うような視線を送るとセブルスの肩に細く長い手を這わせた。
「分かっている。あなたやドラコに危害が及ばぬよう、必ずあの女を始末しよう・・破れぬ誓いにかけて」
スネイプは少し赤みを増した頬で、美しいマルフォイの細君の顔を見つめて言った。
と同時に
・
がどんな顔をするかと考えると、胸がきりきりと締め付けるように痛くなった。
一方、イギリスのの屋敷では、泊まりに来ていたリーマス・ルーピンが真っ白なグランドピアノ
を弾き、「Love Song」を歌い上げているところだった。
彼の甘く透き通った歌声は、どっしりした古いオーク材の椅子に腰掛けているフェリシティー、
の疲れきった心に
優しくしみこんだ。
「♪Ask me who try dream on・・When I dream of you・・」
歌の後半のところで、ルーピンはちらりとを見た。
前はそうしただけで、特別な彼だけのために用意した笑みが返ってきたものだったが、
今はそれがなかった。
「♪Oh〜 My Darin you can't high〜to love you were step for me・・」
彼女は本当に私のことを忘れてしまったのだろうか?
ルーピンはつらい気持ちを胸にぎりぎりとねじこんで、さっきよりもっと情感をこめて歌った。
「♪La・・La・・La・・La・・」
最後の箇所を伯母とともに熱唱しながら
はルーピンの投げかける視線に
胸がちくちくと痛んでいた。
あの人はどうしてあんなに悲しそうな顔をしてるのだろう?
どうして私ばかり見るのだろう?
「よくお見舞いに来てくれる人がいるんだけど・・ルーピンさんって
どんな人なの。教えてくれない?」
病院で初めてハリーに問いかけた時、彼はひどく狼狽していた。
「三年生の時のDAの先生だよ、狼人間でスネイプのせいで放校され
たんだ」と言っていたが、それ以上のことは尋ねても教えてくれなかった。
いったい、なぜだろう?
ロンやハーマイオニーに尋ねても、皆、おしのように黙って詳しいことは教えてくれなかった。
三人が、私から隠したがっている事実があるような気がしてしょうがなかった。
唯一、真実を知っている伯母とジェニファーはもうこの世にいない。
何とかして思い出してあげたい・・
はルーピンのやつれた横顔を見つめながら切実に思った。