「今日の授業の褒美として、君たちにフェリックス・フェリシスの小瓶一本を提供しよう」

皆はスラグホーンが発した言葉に目を疑った。

実は先ほどまで、スラグホーン先生は黒い鍋に入った黄金色に焼けたビスケットの色をした

液体について説明をしていたところだった。

この魔法薬は「幸運の液体」と呼ばれるもので、これを飲んだ者は完全無欠な至福の時間を

過ごすことが出来る。だが、大量に服用するとこの薬は逆効果となり、危険な結果を

招くことになるのだ。


「この分量は十二時間分の幸福に値する。つまり、明け方から夕暮れまで何をやってもラッキーな結果を招く」

スラグホーン先生はポケットから取り出した瑠璃色の瓶を掲げて言った。


「だが、一つ警告しておくことがある。この薬は組織的な競技や競争では禁止されている。

例えば、スポーツ競技、試験、選挙などだ。これを獲得した者は通常の日のみ使用すること。

そして、そのすばらしい効能をとくとご覧あれ!」


皆はごくりと生唾を飲んだ。


「さて、今からこの素晴らしい試供品をどうやって獲得するか?君たちはそう考えているだろう。

方法はただ一つ。あと一時間少々の時間で「生ける屍の水薬」に取り組んでいただこう。

この薬は調合が複雑なことは知ってのとおり、ので、誰にも完璧な出来栄えはきたいしていない!

しかし、最も良い状態の薬を完成させた者にこの瓶を差し上げよう!では、始め!」


教授の言葉が言い終わるか、言い終わらないかのうちに一斉に皆が大鍋に覆いかぶさる音がして、作業は開始された。


皆、優勝商品に目の色が変わっており、あっというまに室内は静かになった。



とハーマイオニーは教科書に一瞥もくれず、先を争うように材料棚に走っていった。

ハリー、ロンははまだ教科書に目を近づけて材料を読み取っている段階だ。


やがて、二人の女の子が目にも止まらない刃物さばきでカノコソウの根を刻んでいるのが

男の子たちの目に入ってきた。


は癒者であるフェリシティー伯母の手ほどきのおかげで、プロの料理人並みの

見事な腕前で薬草の根を綺麗に切り刻むことが出来た。

その早いこと、早いこと、ハリーやロンの目には彼女の腕が三本、四本にも

見えたほどだ。


ハーマイオニーも充分に修練を積んでいたが、彼女の腕にはやはりひけをとった。


さらに三人は休暇中に、 が確実に魔法薬の腕を上げたことを

認めざるを得なかった。




彼女は飛ぶように切ったり、煮たり、計ったりの作業を繰り返し、汗だくになりながら、教科書に書かれている

作業の中間段階に入っていた。



どうやら、彼女とハーマイオニーがクラス中で薬の調合が一番進んでいるようだった。


ロンとハリーは逐一、彼女たちのやっている事と教科書をにらめっこしながら

作業をしていた。


今、ハリーは困惑していた。


から遅れること数分、薬の色ををクロスグリ色の状態に変化させることが出来たが

次の段階の「催眠豆」を切る作業に悪戦苦闘するはめになってしまった。



銀のぺティナイフで一生懸命、ピーグリーンの萎びた豆を刻んでいるのだが、刻みにくい上、

抽出されるはずのエキスが出てこない。


これには流石の 、ハーマイオニーも悪戦苦闘していた。


しかし、しばらくして隣の彼を見ると、彼は先ほどのまでの苦心していた様子はどこへやら、まことに信じがたいことに、鍋に刻み終わった催眠豆の汁をとっく に入れ、

かき混ぜて、ライラック色の液体に変えているところだった。


はわけがわからない顔をした。


おかしい、彼は私より、ずっと作業が遅れていたはずなのに――。


あいもかわらず彼女の催眠豆の汁は教科書に明記されている量に達していない。


ハーマイオニーやロンのもそうだ。


なぜ、彼だけが――そう不思議に思った瞬間、彼女は休暇中、屋敷の台所でフェリシティー伯母が調理中に


包丁で大きな牛肉の塊をひっくり返したり、元に戻したりして、叩いたりしているのを何度も見かけた。


叩く。叩くと牛肉の身が引き締まり、旨みが充分に出る。ひょっとして――と彼女は急いで思考をめぐらせた。


この至極厄介な豆も叩けば、出にくい汁が出てくるかもしれない。


は途端に切り刻むのをやめ、銀のぺティナイフを持ち上げると、まるで牛肉を叩くようにナイフの平たい面で

豆をガンガン叩き始めた。

すると思惑どおり、たちまち大量の汁が豆からあふれんばかりに出てきた。




彼女は驚愕して、あふれ出た汁を全部すくって鍋に注ぎ込んだ。


ライラック色!

彼女は思わず声を上げそうになり、口に手を当てた。

これこそ教科書が指示している理想の段階だ。


料理がこんなところで役に立つなんて!


は隣のハーマイオニーが首を振って、ぶつぶつ呟きながら豆を刻んでいるのを目に留め、急に嬉しくなった。




「さあ、時間終了だ。はい、やめ!」


複雑な薬の攪拌に全員が取りかかった頃、スラグホーン先生の声が響き渡った。


彼はゆっくりと歩き回り、全員の鍋を視察した。


ハッフルパフのマクミランの濃紺の調合物は素通りされ、ロンのコールタール状の物質は見事に無視された。

ハーマイオニーのにはよしよしと頷き、 のには「おしい!あと一歩だ」と言いたげな残念そうな顔をした。

だが、ハリーのを見た途端、歓喜の表情が彼の顔に浮き上がった。



「うむ、これは―なんと、彼は完璧だ。紛れもない勝利者だ!」

スラグホーン先生は息も出来ないほど喜んでおり、次の瞬間、ワッハッハと高笑いした。


「いや、実に素晴らしい、ハリー、ハリーよ、君は明らかに母親の才能を受け継いでいる。

彼女、リリーは魔法薬の名人だった。さぁ、さぁ、受け取りたまえ!

これはフェリックス・フェリシスの瓶だ。上手に使いなさい!」


スラグホーンは上ずった声で彼の手腕を賞賛すると、瑠璃色の瓶を手渡した。


はぎゅっと眉根を寄せていた。ハーマイオニーはがっかりしていた。


ロンは口をぽかんと開けていた。


ハリーは女の子たちに対するいくばくかの罪悪感とともに、気持ちがこんなに高ぶったことはないと感じた。



























































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