その日の薬草学の帰り道、アーニー・マクミランがハリー、
に話しかけてきた。
「すっごいなぁ・・君達、あの現場にいたんだろう?」
彼は二人が昨日の騒然とした修羅場にいたことに驚愕し、是非、直に話を聞かせて欲しいとせがんできた。
「スパイの女って何者何だろうな?いや〜知らなかったなぁ。ダンブルドアお抱えのスパイがいたなんて・・・。」
アーニーは興奮冷めやらぬまましゃべっている。
「だけど・・ダンブルドアはすぐに戻ってくる。うん、僕はそう確信している!」
全て二人から昨晩の話を聞いた後、アーニーはもったいぶって胸を張って言い張った。
「あ、そうそう君達、知ってるかい?朝食の時、太った修道士が話してくれたんだけどね・・・アンブリッジが昨日の晩、
城内や校庭を探索した後、校長室に戻ろうとしたんだ。そしたらね校長室は自動封鎖されてて中に入れなかったんだってさ。」
彼はそこで腕を組み、にやにやと笑った。
「どうやら、あの女、酷い癇癪を起こしたらしい」
この話を同じく側で聞いていたロン、ハーマイオニーはもちろんのこと、ハリー、
は可笑しくてげらげら笑った。
「あの女、きっと他の先生より偉いんだぞっていう優越感に浸りたいために、校長室に入って椅子にふんぞりかえって
みたかったんだと思うわ。」
玄関ホールに続く階段を上りながら、ハーマイオニーがにやにやしながら言った。
「そうそう、校長に必要な人望も何もないのにね。夢だけは人一倍あるんだわ。あの糞忌々しい・・・」
とハーマイオニーが調子に乗って二人合わせてアンブリッジについて悪態をはき始めた時ーーー
「おやおやーこいつは見逃せないね。ちょっと減点して頭を冷やしてもらわなきゃ。」
するりと樫の扉の影からいけ好かないプラチナ・ブロンドが現れた。
取り巻き二人も一緒だ。
「グリフィンドール、ハッフルパフ減点だ。」
マルフォイがふふんと嘲った顔で得意そうに言い放った。
「おい、待てよ。監督生同士は減点出来ないぞ。」
後ろから階段を駆け上ってきたアーニーがすかさず突っ込んだ。
「誰が監督生だと言った?僕の今の身分は「尋問官親衛隊」という特別な地位なんだよ。」
「フン、何よ、それ?」
この上なく不機嫌な
が馬鹿にしたように壁にもたれて腕組みしながら聞いた。
「尋問官親衛隊だよ。
。」
マルフォイは、胸の監督生バッジのすぐ下に留めた「I」の小さな銀バッジを得意げに指差した。
「魔法省を支持する少数の学生のグループでね。アンブリッジ先生じきじきに選抜したメンバーで構成されている。
このグループは減点する力を持っている。そこでグレンジャー、
、新しい校長に対する暴言で五点減点。
マクミラン、僕に逆らったから五点、ポッター、お前が気に食わないから五点、ウィーズリー、シャツがはみ出しているから
五点。ああ、そうだ忘れていた。お前は穢れた血だ、グレンジャー、だから五点減点。」
「ふざけんじゃないわよ!」
が切れて杖をポケットから引き抜き、ぴたりとマルフォイの顎に突きつけた。
ロンもカンカンに怒って同時に杖を抜いていた。
「おっと、怖いなぁ。僕を攻撃すりゃー君らからまた点を引くよ。」
マルフォイは彼女のブラウンの憎しみに満ちた目に負けないように声を励まして言った。
「覚えてろ。」ロンがくやしそうに小さい声で言った。
「何であの時、お前をバラバラにしてやらなかったのかしらね・・」
もぶつくさ言いながらスッと杖を下に置いた。
「あ〜、あれは面白かったなぁ〜」
マルフォイらが意気揚々と階段を上り、消えてしまうとそれと入れ違いに燃えるような赤毛の双子が連れ立って降りてきた。
「おいおい、弟よ、嬢さんーーどうしたんだ?そんなぶっそうなもん持って・・。」
フレッド&ジョージがちょっと青ざめた顔で、未だ理不尽な怒りと憎しみの炎でめらめらと燃えている
とロンに尋ねた。
「マルフォイがーーとんでもない理由で私達から減点したのよ。」
がぶすっと膨れて説明した。
「うん、モンタギューのやつ、休み時間に俺達からも減点しようとしやがった。」
ジョージが「よしよし」と
の髪の毛をなでながら言った。
「しようとしたってどういうこと?」
ハリーが素早く突っ込んだ。
「出来なかったのさ。俺らが二階の「姿をくらます飾り棚」にざっくりと頭から突っ込んでやったのさ。」
「あいつがな、「お前らの相棒の女に伝えとけ。よくも俺に呪いをかけやがったなって。」そうわけの分かんない
ことを叫んでわめいたもんだから。ブチンと切れてな、やっちまった。」
フレッドとジョージは実にすがすがしい顔で彼女達に説明してやった。
「あなた、モンタギューに呪いをかけたの?」
ハーマイオニーがショックを受けた顔で言った。
「ううん、かけたのは別の人。あとで詳しく説明するけど。」
「ああ、でもあなたたち、大変なことになるわ!!」
のどこ吹く風の発言とともに、ハーマイオニーはフレッド&ジョージの悪戯に度肝をぬかれたようだった。
「そりゃ大丈夫さ。奴が現れるまで数週間もかかる。奴をどこに送っちまったのかも分かんないしな。じゃぁな、
俺ら、これからちょいと一騒動やらかそうと思ってるんだ。ダンブルドアのためにな。」
フレッド&ジョージはその後、「バーイ」と
に手を振ってから楽しそうに大広間へと駆け込んで行った。
その日の放課後、ハリーは「閉心術」、
は「脱吸血薬」の授業のため、スネイプの地下牢教室にいた。
は汗だくで大きな金属製のなべをかき回し、ハリーはハリーでスネイプと「では行くぞー1、2」のかけ声とともに
バタン、バタンと机や椅子が倒れる音にまじって、訓練を行っていた。
「何だ?」
が危険動物のトビズムカデ、猛毒のセアカゴケグモの血を鍋に加え、一息ついたとき、
隣のハリーとスネイプのいる部屋でぴたりとがたごとという物音がやんだのに気づいた。
「フム、すぐに行こう。ポッター、この授業は明日の夕方行う。
にも伝えておけ。」
「マルフォイだったの?」
数分後、厚苦しい黒のローブを脱ぎ捨て、ネクタイを少しゆるめてカッターシャツとスカートだけになって、
机の上に座って足をぶらぶらとさせながら
はハリーに聞いた。
「うん、モンタギューが五階のトイレに詰まっていたんだって。」
「うわ、汚い・・。」
「当然の報いだろう。」
「まあ、そうね。」
彼は袖を捲り上げた状態で彼女と同じように机に腰掛けていた。
「スネイプはさ、いつもこれに何かを隠してるんだ。」
ひとしきりモンタギューの話題で爆笑した後、ハリーはつと立ち上がり、つかつかと教卓の前に歩いていき
銀色の小さな盆らしきものを覗き込んだ。
「何かって?」
「分からない。僕に隠したい何かだ。」
「ところでこれは何?」
「何かー自分の記憶をしまっておくものらしい。ダンブルドアの部屋にもこれと同じものがあった。」
いつのまにか
も興味をそそられて教卓の前に来ていた。
「これは面白そうだな・・・ねえ、ちょっとだけ見てみないか?」
ハリーが彼女のブラウン・アイを覗き込んでにやりとした。
「うーーん、そう・・ね・・でもこれはプライバシーの侵害じゃ・・ねえ・・」
はどうも好奇心のはざまと、スネイプに対する申し訳ない思いの間で決めかねているようだった。
だが迷いあげく数分後、彼女は彼とともに「銀色の盆」に頭を突っ込み、スネイプの記憶の世界へと旅立っていた。
「ここはどこ?」
「さあ?」
、ハリーは数分後、スネイプの記憶の中にダイブし、大広間の真ん中につくねんと立ち尽くしていた。
長いトレッセル・テーブルが大広間にずらりと並べられ、そこで沢山の生徒達が何か一心不乱に羊皮紙に向かっている。
二人は生徒の一人の後ろ側に周り、羊皮紙に書かれている題名を呼んだ。
「闇の魔術に対する防衛術ー普通レベルー」
その見知らぬ生徒は端正な顔立ち、憂いを含んだ青い目、黒髪の魅力的な男の子だった。
彼は首を少し傾け、口元にかすかな笑みをたたえ、すらすらと羊皮紙を綴っている。
なかなか綺麗な笑顔の持ち主だ。
だが、この独特の雰囲気は誰かに似ている。
そう、彼女に!
ハリーはちらりと横にいる
を振り返った。
「お父さん、お父さんだわ!間違いない。この人、お父さんだわ!!」
もその時、同じことを考えていたらしく頭の先からつま先まで感激に打ち震えていた。