「さあ、ポッター、
。時間です。代表選手は競技場に集合せねばなりません。
第一の課題の準備をするのです。」
大広間で食事を取っているとマグゴナガル教授が二人のもとへやってきた。
「落ち着いて。ベストを尽くすのですよ。」
マグゴナガル教授とハリー、
は一緒に大広間を出た。
「頑張ってね!」
後ろからハーマイオニ―の心配そうな声が飛んできた。
十一月の午後は手足が凍りそうなぐらい寒かった。
「大丈夫?何か対策は考えてある?」
選手が集まっているテントに着くまでの道すがら、ハリーが聞いてきた。
「うん・・なんとかね。でも、いちかばちかのかけになるかも。」
は手に息をハ―ハー吹きかけて暖かくしながら答えた。
「ハリ―は?」
「僕も君と似たりよったりの状況かな」
彼はがちがちと唇を震わせながら答えた。
「ここに入って代表選手たちと中にいなさい。」
マグゴナガルは二人をテントの中へと案内した。
「そして、ポッター、
。あなたがたの出番を待つのです。
あとのことはバグマン氏が説明してくれます。頑張りなさい」
マグゴナガルは二人をバグマン氏に引き渡すと、テントから去った。
フラー・デラクールが入り口の近くに座っていた。
落ち着きがなく、いつもより青ざめている。
クラムはむっつりしていた。
セドリックはあてもなくテントの中を歩いていた。
が側を通過する時、セドリックはにっこりと微笑んだ。
が、彼女は微笑み返さずに、黙って隅のあいている椅子に座り込んだ。
「全員集合したようだな!では説明しよう!」
バグマンが陽気に言った。
「観衆が集まったら、私は諸君一人にこの袋を渡し、その中から、諸君はこれから直面するものの
小さな模型を選び取る。
それからー諸君の課題は金の卵を取ることだ!!」
その後、テントの側を何千人もの観客の足音が側を通り過ぎた。
「さて、そろそろ引きましょうかな。」
バグマンは「レディー・ファースト」だと言って、フラー、続いて
に袋を差し出した。
「何を引いた?」
最後にセドリックが袋から模型を引き出すのを待って、ハリーが聞いてきた。
「5番、アンカーよ。しかもノルウェー・リッジバック種。」
が大きな溜息をついた。
「ノルウェー・リッジバック種って確か一年の頃・・」
ハリーがハッと、ハグリッドが見せてくれたノーバードのことを思い出した。
赤ん坊であれだけ凶暴だったんだから・・・成長したやつはどれだけ凶暴極まりないのかわかるはずだ。
「ハリーは?何を引いたの?」
彼女は冷や汗をかきながら聞いた。
「ハンガリー・ホーンテール」彼は答えた。
「うえ〜ほんとに〜あれ確か一番タチが悪い奴だよ〜」
は真っ青になった。
彼女はハンガリーに住んでいた頃、この種類を見た事があったからだ。
「さあ、これでよーし!番号はドラゴンと対決する順番だ。
いいか?さて、トップバッターはディゴリ―君だよ。
ホイッスルが聞こえたらまっすぐに囲い地に行きたまえ。いいね?」
バグマンは最後にそういい残すと、慌ててテントから出て行った。
どこかでホイッスルが鳴った。
セドリックがテントから出て行った。
十五分後、耳をつんざく大声援がしてセドリックが金の卵を取った。
その次、フラー、クラムと出て行き・・・テントの中には
とハリーだけが残された。
彼女はこれから使う呪文を忘れまいと口の中でモゴモゴと唱えていた。
「おー、これはどうもよくない!!」
「なんと大胆な!」
「さあ、慎重に、ああ、今度こそやられてしまったかと・・」
テントの外では観衆の大声援や、バグマンの実況解説が聞こえてくる。
「いい度胸だ!そして、卵を取りました!ビクトール・クラム!!」
バグマンが熱烈な実況を送った。
いよいよハリーの出番が来た。
「落ち着いて、ベストを尽くすのよ・・・」
は幸運のジェスチャーを両手で示し、彼に微笑みかけた。
「君もね」
ハリーはかすかに震えている彼女を励ますように言った。
本当に彼女はテントに一人取り残されてしまった。
これ以上ない恐怖が襲う。
彼女は半開きのテントの中から彼の様子を伺った。
囲い地の向こうにひと胎の卵を抱えたー巨大な真っ黒のハンガリー・ホーンテール。
刺だらけの尾を激しく地面に叩きつけ、ハリーを威嚇している。
「アクシオ ファイアボルト!!」
彼が叫んだ。
彼女はテントの中で両手を組み合わせ、一心に祈った。
あれは呼び寄せ呪文だ―彼はこれが苦手で最後の日まで、ハーマイオニ―と一緒に猛特訓してたっけ・・・。
どうか上手くいきますように・・・・。
ハリーと
は同時に祈った。
「あっ!」
その時だ――
二人は同時に箒が物凄いスピードから疾走してくる音を聞いた。
「コングラジュレイション!!」
はテントの中でガッツポーズをした。
彼はファイアボルトに跨り、上空をグングン飛行している。
ホーンテールは炎を吐いた。
彼はそれをブラッジャ―をよけるのと同じ要領で、ヒョイヒョイと交わした。
「よし!あとはクィディッチと状況は同じ!手早く卵を取ることだけよ!」
は手に汗かきながら、じっと試合の行方を見守った。
「うわっ"やられた〜〜〜」
彼女は見てられないととっさに額で顔を覆った。
ホーンテールの尻尾が鞭のように飛んできてハリーを狙った。
彼は避けそこない、長い刺が肩を掠めた。幸い、軽い怪我のようだが、なるべくハンデは避けたいものだ。
ホーンテールは飛び立とうとはしない。卵を必死で護ろうとしている。
ハリーはホーンテールの頭上を急旋回している。
「早く!懐に飛び込み、急降下するのよ!」
彼女がイライラしながら叫んだ。
ホーンテールがまた炎を吹いた。
ハリーは間一髪でよけた。
「さあ、来い!」
彼はホーンテールの頭上を飛行しながら叫んだ。
ホーンテールは後足で立った。
両翼を広げきった。するとハリーは箒の柄を下に下げ、急降下した。
彼は全速力で突っ込んだ。
鍵爪のある前足が離れ、その下の卵目がけて―ファイアボルトから両手を離し、サッと金の卵をかすめとった。
猛烈なスパートを駆け、ハリーはその場を離れた。
上空に卵を抱え、一気に飛翔した。
観衆がいっせいに拍手喝采した。
「エクセレント!最年少の代表選手が短時間で卵を取ったぁ!これでポッター君の優勝確立が高くなるでしょう!」
バグマンが大声で叫んだ!
そして、いよいよアンカー。
の番だ。
観客はハリーと同じ最年少の選手にいっせいに注目した。
「あら、ミセス・ブラド。こんなとこにいらしたのですか?」
スタンドの教職員、来賓用の一番端の席にマグゴナガル教授がやってきた。
「ええ、ダンブルドア校長が招待して下さって・・。」
の伯母、ミナは答えた。
「えーと、そちらの方もダンブルドア先生からご招待を受けましたの?」
マグゴナガルは茶色の山高帽を目深に被った、かなり身なりのいい男性を眺めていった。
その男性は教職員、来賓席をくまなく見回すと、マグゴナガルにしか聞こえない小声で囁いた。
「私ですよ・・マグゴナガル先生・・お久しぶりです。」
「ああ!まあ・・お久しぶりですこと。ルーピン・・あら、違った・・ここでは・・ジョナサン・グレー男爵ですよね?」
マグゴナガルはにやりとミナと意味ありげな笑いを浮かべ、その男性と握手をし、隣に座った。
はスーッと息を吹き込み、真っ赤な比翼を広げ、囲い地の向こうはしに卵を抱えているドラゴンを眺めた。
ドラゴンはプスプスと鼻から、炎の粉が噴出している。
凶暴さはハンガリー・ホーンテールといい勝負だ。
かなり気が立っている。持久戦に持ち込むとやばそうだ。手っ取り早く片付けなければ・・・。
彼女はスッと懐から杖を取り出した。
杖を構え、目を閉じ、神経を集中させた。考えるのだ・・今まで感じた憎しみの気持ちを・・・。
ノルウェー・リッジバック種はさっきから地面を踏み鳴らしている。
乳白色の杖から黒い煙がスー――ッと出始めた。
もくもくとその黒い煙は噴出し、彼女の周りを包み始めた。
「お〜これは今までと打って変わったやり方です!煙幕でしょうか?
彼女の周りをどんどん、どんどん包んでいます。あ〜まもなく
選手の姿が見えなくなる!見えなくなる!
おお・・完全に見えなくなった!!」
バグマンの解説はかなり力が入っている。
スタンドの観客はガヤガヤと騒ぎ始めた。
「
が見えなくなったわよ!」
ハーマイオニ―が隣りに座っていたロンを小突いた。
「どこだ?どこだよ?」
ロンは双眼鏡片手に必死に彼女を探した。
「ほう・・なかなか面白い呪文だな」
教職員席の真中ではスネイプがにやりとほくそえんでいた。
真っ黒な煙はついに彼女を完全に覆い隠し、離れたドラゴンのほうにも立ち上ってきた。
ドラゴンは煙を吸い込み、たちまちクシャミをし始めた。
次の瞬間、煙の中からぼーっと巨大な影が浮かび上がった。
「おお、
選手が出てきました。と、ちょっと待ってください。
後ろに控えているのは・・なんと!ブラック・ドラゴン(黒龍)だ!!」
バグマンはマイク片手に大声で叫んだ。
観客は急に現れた巨大な珍しいもう一頭のドラゴンを見られて、これ以上ない盛大な拍手と大歓声を送った。
「なんと・・なんとこれは驚くべきこと・・
選手自ら、ドラゴンを召還しました。
いや・・これは凄い・・私も初めて見ました!!」
バグマンは興奮して席を飛び出した。
黒龍は囲い地の向こうにいるドラゴンを見つけて、たちまち興奮しだした。
龍はひとっとびにノルウェー・リッジバッグ種の前に飛んでいった。
「相手をひきつけておいて!なるべく長く」
は煙幕に包まれている時に黒龍にこっそりと命令したのだ。
ノルウェー・リッジバック種の炎が黒龍を直撃した。
龍は怒って、すぐに黄緑色の炎を相手目掛けて吐いた。
「さあ、これは面白くなってきた!!」
バグマンの声だ。
二頭のドラゴンはお互い激しく火花を散らし、炎を吐きまくった。
さあ、早くーそのドラゴンを卵から遠ざけて・・・。
は祈った。
言葉どおり、黒龍は炎を吐きまくり、リッジバッグ種を追っかけ始めた。
リッジバッグ種は束の間卵を守るのを忘れ、プイと持ち場から離れて、黒龍のはく炎を避けた。
リッジバッグ種は上空へと飛びあがった。
負けじと黒龍は飛び上がり、再び炎を吐き散らした。
卵を置いてある場所はがらあきとなった。
は急いで、その場所へと直行し金の卵をサッと掠め取った。
「取ったわよ!!」
は金の卵を掲げ、バグマンに示した。
「いやあー何たる華麗なる技!見事ドラゴンの気を反らしました!ポッター君といい勝負です。最短時間獲得!やりました!
オッとー危ない!!」
ボオオオッ!!
「いやっ!」
上空から黄緑色の炎と真っ赤な炎が同時に振ってきた。
はとっさに地面に身を伏せ、炎を避けた。
上空から凄い勢いで二頭のドラゴンが争いながら落ちてくる。
二頭はそのまま地面に激突し、ぴたりと動かなくなった。
「あち、あち!」
彼女のローブに火の粉が燃え移った。
はとっさに近くにあった地面に体をこすりつけ、火を消した。
「あつっ!火傷しちゃった・・・」
彼女は左足と右足の皮が赤くめくれているのに気づいた。
「万歳〜!」
スタンドからマグゴナガル、ムーディ、が降りてきた。
「すばらしかったですよ〜あなたもポッターも!」
マグゴナガルは最高の褒め言葉を彼女に送った。
「あの難易度の高い技をよく短期間で習得できたな・・」
ムーディの魔法の目が眼窩の中で踊っていた。とても嬉しそうだった。
救急テントに彼女が行くと、ハリー、セドリックが手当てを受けていた。
「まったく去年はディメンター、今年はドラゴン、次は何ですかね?
まあ、あなたがたは運がよかったですよ〜傷も浅いようだし」
マダム・ポンフリーは
とハリーの傷口を紫色の液体で
消毒した。
「いたっ!」
はうめいた。
ハリーは彼女が生き残ったことに感謝し、ちょっと微笑んだ。
テントの出口へ二人が一緒に向かうとハーマイオニ―、ロンが二人に飛びついてきた。
「
、あなたすんごく素晴らしかったわ〜〜私達に内緒であんな切り札を持ってたなんて!
もう言うことは何もないわ!あなたって最高よ!」
ハーマイオニ―はぎゅーっと彼女を抱きしめてぐるぐる回りだした。
「悪かったな・・本当に疑って悪かったよ〜君があんなに真剣に戦ってるのを見て、
僕、自分を物凄く責めたんだ。君の名前をゴブレットに入れた奴が誰にしろ
僕ーやつらが君を殺そうとしてるんだと思う。」
ロンはしっかりとハリーを抱きしめながら言った。
「気が付いたってわけかい。」
ハリーは冷たく言った。
ハーマイオニ―と
が間に立って二人の顔を交互に見ていた。
「
、ハリー、僕、もっと早く―」
ロンが口を開きかけた。
「いいんだ」ハリーが笑った。
「気にしないで・・分かってくれればそれでいいのよ」
は微笑んで、ロンに片手を差し出した。
彼はしっかりと彼女の手を握った。
ハーマイオニ―は泣き出した。
「馬鹿、馬鹿!大馬鹿!」
ハーマイオニ―はぼろぼろと涙を流し、叫ぶように言った。
彼女は三人を抱きしめ、今度はワンワン泣き声を上げて、スタンドへと走り去ってしまった。
「じゃあ、点数を見に行こうか・・彼女、狂ってるよな」
ロンがやれやれと首を振った。
「セドリックは岩を変身させて犬に変えたんだ。でもドラゴンの気が途中で変わっちゃった。
セドリックは火傷して危うく卵をさらった。フラーは魅惑呪文をかけたんだ。
恍惚状態にしてーーうんそれもまあ上手くいったけど、ドラゴンがいびきをかいて
スカートに炎がついてね・・・」
ロンは止めどもなく囲い地の端につくまでしゃべりまくった。
審査員席からハリーの点数を各校長やクラウチ、バグマン氏が上げているのが見えた。
マダム・マクシームー8、クラウチー9、ダンブルドアー9、バグマンー10、カルカロフ―4
「四点!?あいつだけ四点??クラムには10やったくせに!」
ロンが怒って喚いた。
「でもなかなかの高得点ークラムと並んだわ!一位よ!」
がおおはしゃぎで手を叩いて喜んだ。
「次、
の点数がでる!」
ハリーが叫んだ。
マクシームー5、クラウチー9、ダンブルドアー9、バグマンー10、カルカロフー7
「今度はマダム・マクシームが5だよ!何でだ?フラーには10だったじゃん!」
ロンがうめいた。
「いいじゃない、見てよ信じられない!1位が三人も!」
がにっこりと笑ってロンに言った。
その後、ハリー、
はテントに戻り、バグマン、セドリックから歓迎を受けた。
二人はバグマンから次の課題を聞き、解散の合図の後、ロン、ハーマイオニ―と共に禁じられた森の端を沿って
帰った。
しばらく歩くと、木陰から例の身なりのいい背の高い男性が出てきた。
彼は丁寧に帽子を取り、お辞儀をした。
「どなたですか?」
はいぶかしそうに聞いた。
「ジョナサン・グレーと言います。失礼ですが、ミス・
とお話したいのですが・・・」
彼は三人を困ったように見渡した。
「いいですよ・・ゴメン、先帰ってくれるかな・・」
は彼らに言った。
「え?誰なの・・」
「いいから・・じゃあね」
ハーマイオニ―はロンとハリーの背中を押し、すたすたと歩いていった。
三人の姿が完全に見えなくなってから彼女は彼に一歩歩み寄った。真っ暗で彼の顔は近づいてもよく見えない。
だが、誰だろう・・とても懐かしい感じがする。鳶色の髪の毛、眼鏡の奥の青い澄んだ瞳。
優しい物腰・・そう、私はこの瞳に見覚えがある。
「リーマス、リーマスなのね・・何で今まで雲隠れしてたの?」
は最後まで言い終わらないうちに彼の胸に飛び込んだ。
「 悪かった・・こんなに苦しめて・・」
ルーピンはきつく彼女を抱きしめた。
「とても君に逢いたかった・・でもまた逢えば君をつらい目に合わせてしまうのが怖かったんだ。許してくれ・・」
彼は苦しそうに言った。
「もう苦しまなくてもいいんです・・何も言わないで!今はどうかこのまま・・」
彼女は涙にかきくれた顔で彼を見上げた。
「もう・・どこにも行かないと約束して下さい!」
は目から涙をはらはらとこぼしながら、くぐもった声で言った。
「分ったよ。前のこと許してくれるんだね・・」
ルーピンは優しく言った。
彼はさらに彼女を強く抱きしめて耳元でこう甘く、囁いた。
「もう君を放さない・・絶対に君を放さない・・・」
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はい、第一の課題が終了しましたね。次回からは下巻のドリームになります。