それでさぁ、奴らは僕に襲いかかってぶちのめした後、ぐるぐるに縛り上げたんだ」

「やろうと思えば、いつでも馬鹿水中人なんかやっつけられたんだ〜♪」


「あら?それで、いったいどうやるつもりだったの?その奴らにいびきでも吹っかけてやるつもりだった??」


「いや・・あの・・」


第二の課題終了後、ロンは聞かれれば誰でも嬉しそうに水中人が自分を人質にしたいきさつを語っていた。

ハーマイオニ―はビクトール・クラムの人質が自分だったことを、皆にさんざんからかわれたのでちょっと機嫌が悪く、

ピリッと彼の冒険談を皮肉ってやった。




三月、金曜日の朝、シリウスから梟便が届いた。

「土曜日の午後二時、ホグズミードから出る道に柵が立っている。そこに食べるものを持てるだけ持ってきてくれ。」

ハリーが羊皮紙を小声で三人に読み聞かせた。

「マジで?ホ、ホグズミードに帰ってきたのか??」

ロンが口をポカンと開けて言った。

「なんて危ないことを・・もし、もし、誰かに見つかって通報されたらどうするのよ?」

がやきもきしながら言った。

「まったく、あの人ったら・・・」

ハーマイオニ―が呆れて呟いた。

「で、でもさあ、もう、ホグズミード村に吸魂鬼はいないし、大丈夫だよ」

ハリーはそういうと手紙をポケットにしまいこんだ。

その後、ハリーは にだけ、耳元でコソッと「彼に、彼にまた会えるんだ・・・こんなに嬉しいことはないよ。例え、次の時間が魔法薬学でもね」

と嬉しそうに囁いた。



彼はその言葉どおり、心は軽く地下牢へと足を運んだ。

は彼の後をついて歩きながら、前、シリウスが自分に向けて発した言葉を思い出していた。



「私は君が好きだ」


「こんなこと言うの・・実はすごく苦手なんだ」


「他の男にはチャンスもくれないのか?」




あの時、 は雷に打たれたような衝撃を受け、わけがわからないままその場を立ち去ったのだった。


(あんなことを言うなんて・・・)


彼女はその思いに困惑した。





「来た、来た!!」


そのとき、ちょうど彼女の憂鬱を吹っ飛ばすいや〜な声がした。


「グレンジャー、 、あなたの関心のありそうな記事が載ってるわよ〜〜」


地下牢教室の手前で塊っていたスリザリンの女子学生の群れがゲラゲラと笑っている。


パンジーが二人に向かって雑誌を投げてよこした。


「な、なによこれ?」

雑誌をキャッチした は首を傾げた。

「読めば分かるわ〜どのページか教えてあげましょうか〜〜」

パンジーがクスクスと笑ってからかった。


「いらないわよ!!」

ハーマイオニ―が言い返した。


ハリー、ロン、ハーマイオニ―、 はいつもどおり、地下牢教室の一番後ろに向かった。

スネイプが黒板に魔法薬の材料を書くのを見計らって、 は大急ぎで雑誌をめくった。



ハリー、ロン、ハーマイオニ―も横から覗き込んだ。


ほかの少年とは違う―――そうかもしれない。だが、やはり少年だ。とリータ・スキーターは書いている。

ホグワーツで二人のガールフレンドを得て安らぎを見出していたハリー・ポッターはやがて、また一つの痛手を味わうこととなった。

ガール・フレンドの一人、ミス・グレンジャーは美しいとは言いがたいが、有名な魔法使いがお好みの野心家で、ハリーだけでは満足できないらしい。

ブルガリアのシーカー、ビクトール・クラムがホグワ―ツにやってきて以来、ミス・グレンジャーは二人の少年の愛情を弄んできた。

クラムは、このすれっからしのミス・グレンジャーに首ったけで夏休みにブルガリアに来てくれとすでに招待している。

クラムは、「こんな気持ちを他の女の子に感じたことはない」とはっきり言った。


一方のミス・ は数々の男性のハートを盗んで、騒がれている魅惑的な少女だが、驚いたことに浮いた噂一つないのが

現事実である。

しばらくの間、ハリーの応援団としては彼女との進展を願うばかりである。


「よくこんな馬鹿げた記事を書けるわね〜ほんっと、尊敬しちゃう。あの婆さん。」

がせせら笑って、雑誌を空いた椅子に放り投げた。

「あいつ、ハーマイオニ―のことを、なんというか、緋色のおべべ扱いだ―――」

ロンが歯軋りしながら言った。

「緋色のおべべ?」

愕然としていた女の子達の表情が崩れ、プッと噴出した。


「なにそれ?」

がげらげら笑いながら聞いた。

「ママがそう呼ぶんだ、その手の女の人のことを」

ロンがボソッと呟いた。

「せいぜいこの程度の記事しか書けないなんて、リータなんて、たいしたことないわね」

ハーマイオニ―はクスクス笑いながら に言った。

「あ〜ばっかばっかしい〜読むだけ損したわ〜♪」

ハーマイオニ―はスリザリンの方を見た。

スリザリン生は皆、記事の嫌がらせ効果はどうかと教室の向こうから、ハーマイオニ―、 、ハリーの様子を興味津々に

窺っていた。

ハーマイオニ―は皮肉っぽく微笑んで手を振った。

も実ににこやかに微笑んで大げさに手を振ってみせた。

途中、ドラコ・マルフォイと目が合うと、彼女の笑みはたちまち冷笑に変わり、彼を芯から震え上がらせた。

(あ〜スッキリした〜♪♪あの坊ちゃん、本気で怖がってたし〜)

は満足すると、ハーマイオニ―、ロン、ハリーとともに冴え薬に必要な材料を広げ始めた。

(ロンがなぜか怖がっていたが)

「だけど、リータ・スキータはどうして知ってるのかしら?」

ハーマイオニ―がコガネムシを乳棒でつぶしながら呟いた。

「クラムがハーマイオニ―に言ったこと?」

が聞き返した。

「え〜〜〜っ!!」ガチャン!ロンが乳棒を取り落とした。

「湖から引き上げてくれた後にそう言ったの。夏休みに計画がないなら、来ないかって――そして、たしかに言ったわよ。

 こんな気持ちを他の人に感じたことはないって」

ハーマイオニ―は燃えるように赤くなった。

「あらら・・ちょっとしたロマンスね。これは・・・。」

がポツリと呟いた。


「だけど、リータはどうやってあの人のいうことを聞いたわけ?あそこにはいなかったわ・・・それともいたのかしら?

 もしかしたら透明マントを着用していたのかもしれない。」

「それで、何て答えたんだ??」

ロンの手元は狂い、乳棒でコガネムシをつぶさずに、机をゴンゴンと叩き、へこませた。

「それは・・私・・・ハリーやあなた、 が無事かどうか見るほうが忙しくてとても―」


「ミス・グレンジャーの個人生活のお話は確かに目眩むようであるが、我輩の授業ではそういう話はご遠慮願いたいものだーグリフィンドール、

 十点減点」

スネイプが音もなく四人の机のところに近づき、パッと目についた、 が隣りの椅子に放り投げた雑誌を取り上げた。

「あっ・・」

が、やばいという顔をした。


「ふむ・・その上、授業中に雑誌を読んでいたのか?」

スネイプは週刊魔女の例の記事が載ってる部分に目を通した。

「グリフィンドール、もう十点減点、ふむ、しかしなるほど」

「ポッターは自分の記事を読むのに忙しいようだな」

スネイプの薄い唇が歪み、不快な笑いが浮かんだ。

「他の少年とは違うーそうかもしれない。・・・(中略)ハリーの応援団としては彼女との進展を・・望むばかりである。

 感動的ではないか」

ハリー、 が怒るのを尻目に、スネイプは声を出して記事を読んだ。彼が読むと十倍も酷い記事に聞こえた。

最後の言葉を言う段階ではスネイプの顔は歪みに歪んでいた。


「さて、四人を別々に座らせたほうがよさそうだ。ウィ―ズリ―、ここに残れ。ミス・グレンジャー、ミス・パーキンソンの横に

 ポッター、我輩の机の前のテーブルに、ミス・ 、ロングボトムの横に移動だ。さあ。」


スネイプは雑誌を丸めながら、命令した。


はさっさと材料をまとめて大鍋の中に放り込むと、ネビルの席へと移動した。

彼女が怒りに満ちた表情で席につくと、ネビルはあまりの怖さに恐ろしくなったが、それでもなんとか彼女に

「あんな馬鹿な記事、気にしないほうがいいよ」と勇気を振り絞って言うのだけは忘れなかった。


翌日、四人は正午に城を出、シリウスの指定した場所へと向かった。

昼食のテーブルから三人は持てるだけ食料をくすね、それぞれ とハリーのカバンに詰め込んだ。

中身は、骨付きチキン12本、大きなトウモロコシパンの塊、かぼちゃジュース一瓶だ。


「なんか久しぶりの休日ってかんじ〜〜最近、いろいろ嫌なことがあったじゃない〜日曜じゃないけど

 今日は安息日だわ〜〜」

がう〜〜んと気持ちよさそうに伸びをしながら言った。

ったらまるで猫みたい。」

ハーマイオニ―が彼女の微笑ましい姿にクスリと笑った。

「あっ、この店を曲がって、奥のロッジに入るんだって。」

ハリーがホグズミードの地図を見ながら言った。


四人は山道に向かってずんずん進んだ。

途中、住宅がまばらになったところに朽ち果てた柵があった。


「シリウス!」

ハリーが叫んだ。


柵の向こうに大きな黒犬が、口に新聞紙をくわえ、四人を待っていた。

「ワン!」

黒犬は短く吠えると、くるりと背を向けついてこいと合図をした。

四人は柵をよいしょっと乗り越えて進んだ。

辺り一面岩石で覆われている岩場を四人はひぃひぃ言いながら歩いた。


約三十分、険しい山場を歩きつづけ、四人と黒犬は中が空洞の、狭い岩の裂け目がある場所に出た。

裂け目に体を押し込むようにして入ると、中は薄暗くひんやりとしていた。

一番奥にヒッポグリフのバック、ビークの二羽がいた。

バック、ビークに丁寧に四人はお辞儀をすると、ヒッポグリフはゆっくりとお辞儀を返してきた。

「バック、ビーク、会いたかったよ!!」

は大喜びで駆け寄って、二羽の嘴を撫でてやり、太い首に抱きついた。



「チキン!!」


いつのまにかシリウスが、人間の姿に戻り、くわえていた新聞をポトリと落とした。

ハリーと は、その声にカバンをパッと開け、骨付きチキンを一掴みとトウモロコシパンの大きな塊を渡した。

「ありがとう」

「前は、ネズミばかり食べて生きていた。ホグズミードからあまり沢山の食べ物を盗むわけにもいかないしね。

 だが、最近はある親切なご婦人からのささやかな差し入れが届くようになってね、それで食いつないでいる。」


そこでシリウスは意味ありげに に目配せした。

ロン、ハーマイオニ―はバックとビークを撫ぜていた。

「そのご婦人と言うのは?」

ハリーはシリウスが に目配せしたのを見逃さなかった。

「心配するな。変な人じゃない。我が愛しの妹君のことさ」

シリウスは鳥の骨をかじりながら、二人ににっこりした。

「妹?あなたに妹がいるんですか?全然知らなかった!」

ハリーが驚いて言った。

「残念ながら、今は逃亡中の身なので彼女には会えないがね・・」

シリウスはそこでハーマイオニ―とロンが近づいてきたので、フッと話を打ち切った。

「ところで、シリウス。どうしてこんなとこにいるの?」

ハリーが聞いた。

「名づけ親としての役目を果たしている」

シリウスはまた鳥の骨をかじった。


「そんな心配そうな顔をするな。大丈夫だ。ここでは愛すべき野良犬のふりをしてるから」

彼は微笑んだが、ハリー、 の心配そうな表情を見て、言葉を続けた。

「最近、巷では悪い噂が飛び交っている。いや噂ではない、新聞を見てごらんー記事を読めば、心配したくなるのは

 私だけではない」


彼は顎をしゃくって、洞窟の床に積んである新聞を拾い上げて広げた。



「バーテミウス・クラウチ―不可解な病気」「魔法省の職員、バーサ・ジョーキンズ行方不明、魔法省大臣自ら乗り出す」

「十一月以来、公の場には現れず、家に人影なし、聖マンゴ病院はコメント拒否、魔法省は重症の噂を拒否」


「確かに、雲行きがどことなく怪しいわね」

が新聞を速読し終え、呟いた。

「クラウチは死にかけてるのかな?」

ハリーが言った。

「僕の兄貴、パーシーがクラウチの秘書官なんだ。パーシーはクラウチが働きすぎなんじゃないかって言ってる。

 だけど、あの人、最後に僕が見たときはほんとうに病気みたいだった。」

ロンが言った。



ハリーはそれから、クィディッチ・ワールドカップの折、「闇の印」が現れたこと、クラウチの屋敷しもべ妖精のウィンキーが

自分の杖を握り締めたまま発見されたこと、クラウチ氏が激怒したことを話した。

「彼のことはよく知っている。クラウチは私をアズカバンに送った張本人だ。裁判もせずにね」

ハリーの話を聞き終えると、彼は静かに言った。

「えっーー?嘘でしょう!?」

四人は叫んだ。

「彼は当時、魔法警察の執行部の部長だった。素晴らしい権力欲と強力な魔法力の持ち主でね。次期、魔法大臣と噂されていた。

 ああ、彼は闇の陣営ではない。あっちにはっきりと対抗していたからね。彼は魔法省でたちまち頭角を表し始め、

 ヴォルデモートに従う者には極めて厳しい措置を取り始めた。暴力には暴力を持って立ち向かい、疑わしい者に対して

 許されざる呪文を使うことを許可した。一時は多くの魔法使いがあいつを魔法大臣にせよと叫んでいた。

 だが、その時、不幸な事件が起こった。奴の息子がデス・イーターの一味とともに捕まった。

 クラウチは相当なショックを受けて、息子を裁判にかけた。クラウチは魔法省大臣になることに一生をかけた男だ。

 少しでも自分の評判を傷つけるものには―例え、息子でも容赦しない。

 裁判にかけたのも息子をどんなに憎んでいるかを、公に見せるための口実に過ぎなかった。

 それから、クラウチは息子をアズカバン送りにした。」


「息子はまもなくして死んだ。クラウチの奥方はそれがもとで、ずっと後にショック死したらしい。そして、クラウチ氏は

 全てを失った。代わりにコーネリウス・ファッジが大臣職につき、クラウチは魔法省の隅の役職に追いやられた。」

シリウスはそこで、大きなトウモロコシパンの塊をガブリとかじった。


「そんな悲しい出来事があの人にはあったんだ・・・」

ハリーはしんみりと言った。

「そういや、ダームストラングのカルカロフ校長も元「死喰い人」だったんだよねぇ・・・」 が急に思い出して言った。

「ああ、そうだが・・何か思い当たることがあるのか?」

シリウスはピタッとトウモロコシパンをかじるのをやめ、彼女のほうを見た。

「私の勘違いかもしれないんだけど・・ダンス・パーティの日、私、靴のヒールが折れて、寮に戻って直そうとしたら

 スネイプ先生に声をかけられて、外で靴を直してもらったんです。その時、茂みから「セブルス」って誰かが彼のことを

 呼んで、その時は誰だか、気にせずにすぐに会場に戻ったんだけど、あとから考えてみたらそれがカルカロフ校長の声にすごく似てたんです。

 ゴメンなさい・・こんな馬鹿げた信憑性のない話・・・してしまって」


「いや、信憑性のない話ではない。明白たる事実だ。その時、聞いた声は紛れもなくカルカロフ校長の声だろう」

シリウスは言った。

「じゃあ、あの二人は知り合いなんですか?」 の顔がスーッと青くなった。

「お察しのとおり。彼らは元「死喰い人」仲間だ」

「な、なんだって?い、今、彼らと言ったよね?」

ハリーが驚いて聞いた。

「言ったよ。だから、私は叫びの屋敷でスネイプがホグワーツで教えていると知って、ダンブルドアがあいつをどうして

 雇ったか不思議に思っていた。彼は学校に入った時、もう七年生の大半より多くの呪いを知っていた。

 スネイプはスリザリン生の中で、後にほとんど全員がデス・イーターになったグループがあり、彼はその一員だった。」


はショックのあまり、顔が引きつっていた。


「しかし、彼はデス・イーターだと一度も非難されたことがない。それだからどうというのではないが、

 デス・イーターの多くが一度も捕まっていない。スネイプ、及び、その他のデス・イータ達は狡猾さを備えている」



「そんな奴をダンブルドアは学校に入れてるのか?信じらんないぜ!」

ロンが悲鳴を上げた。

「それでも、ダンブルドアがスネイプを信用しているんだ。他の者なら信用しない場合でも彼なら、信用するということも

 わかっている。しかし、もしもスネイプがヴォルデモートのために働いたことがあるのなら、ホグワーツでダンブルドア

 が彼が授業を受け持つのを許すはずはない」


シリウスは複雑な表情で語った。



この楽しみにしていた時間が、四人にはかえって、重い時間になった。


「村境まで送っていこうーあ、それから大切なことが一つ、君たちの間で私の話をする時は必ず、「スナッフルズ」と呼びなさい。いいね」

彼はそういうと空になった空き瓶とパンを包んでいたナプキンをハリー、 に返した。


ナプキンを返す時、彼は にこっそりと「我が妹によろしく」と小声で囁いたが彼女はあんまり聞いていなかった。


それでもなんとか四人は柵のところで、代わる代わる黒犬を撫ぜ、笑顔でさよならを言った。


「スネイプがデス・イーターだったなんて」

ハリーが憂鬱そうに言った。

「大丈夫かよ。ダンブルドアはあんな奴信用して」

ロンがあっきれたという調子で言った。

「ダンブルドア先生が間違ってたなんてことはこれまでにないわ!シリウスの時もそうだったし」

ハーマイオニ―が言った。

「そうだといいんだけどね」

はぼんやりと言った。





 



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