時刻は夜の11時を回った。

やはり の意識は戻らず、彼女は夢と現実の境目をうとうととさ迷っていた。

天文学の塔にグリフィンドール生は集合し、望遠鏡片手に恒星や惑星の動きを観察し、試験羊皮紙に

せっせと書き込んでいた。


ハリーは本来、自分の隣にいるはずの彼女の席を酷く落ち着かない気分で眺めた。

マグゴナガルからハリー、ロン、ハーマイオニーの三人はここに来る途中で「 が占い学の試験後、北塔の階段から転落した」

と聞かされた。


「大丈夫かしら?腰を強く打ったみたいなんですって。ああ、早くこの試験終わらないかしら!!」

ハーマイオニーは動揺を隠せない顔で、横のハリーやロンに告げ、何度も望遠鏡をのぞいて猛烈な勢いで試験羊皮紙を埋めていた。






階段から転落した真の原因についてロン、ハーマイオニーは気づいてはいなかったが、

ハリーはすぐにピンときていた。

「たぶん、また血が足りなくなったんだ。脱吸血薬の効き目が弱くなったんだろうな・・。」


三年の時、吸血鬼のことについて防衛術で学んだ時、彼は授業以外で学ぶ内容以外のことも

本で調べ(彼女のことがあるから)いろいろと二人以上に知っていた。



翌朝、まだ彼女の見舞いへ行けず(朝食後、すぐに天文学の筆記試験があるので)

ハリーは天文学のノート片手に、ぼんやりと重要事項を暗記しなおしていた。




一方、医務室では の意識はやっと戻り、彼女は寝台に横になって

マダム・ポンフリーに「ドクター・ウッカリーの軟膏薬」を肋骨の周囲に何度も刷り込んでもらっていた。



ちょっと体を動かすだけで強打した肋骨が痛んだ。ぶつけた顔や頭も痛んだ。




昨日からマダム・ポンフリーが、この打撲によく効く軟膏薬を刷り込んでくれたおかげで

だいぶん痛みは緩和していたのにである。




「朝食は食べられそうなの?」


卵三つ分のかき卵、バターを塗った小ぶりのパン、ポットにたっぷりと入ったコーヒーを載せた

お盆を奥の部屋からささげもってきたマダム・ポンフリーがやさしく尋ねた。


「はい、ありがとうございます。いただきます。」


は痛む腰を抑えながら、ポンフリー先生にヘッドボードにクッションをあてがってもらい、

そこに体を起こした。


泡立つ新鮮な生クリームを、ピッチャーから取り出し、彼女は静かにコーヒーカップに注いだ。


「あなたが受験できなかった天文学ですがー普段の授業や小テストの

 成績を換算して評価するとシニストラ先生がおっしゃってましたよ。」


ポンフリー先生は旺盛な食欲で朝食をたいらげる彼女に、嬉しそうに目を細めながら告げた。





「それからーこれはあなたの崇拝者からの贈り物ですよ。今朝届いたんです。」


ポンフリーは彼女が朝食を食べ終えた後、ベッド脇に置かれた大きな花束と、お菓子の箱を持ってきてくれた。




花束にはそれぞれに二枚のカードがついていた。


一つは今がもっとも満開の野山に咲き乱れるオニユリ、もう一つはみずみずしくかぐわしい香りのスズランだった。



やあ、これが届く頃には試験は終わっているかな?

休暇にはスナッフルズやハリー達と一緒に、屋敷の裏庭で

のんびりと過ごそうか。

じゃあ、体調には十分気をつけて。いい成績が出せるよう祈ってるよ。




試験が終わったら、こっちへ帰ってきてパーッと遊ぼうな。ジェニファーが上手いケーキを焼いて待ってるぞ。

今朝方、例のご婦人(わかるだろ?)が来たのでこの花束をことづけてきたんだ。

君が帰ってこないとすごく退屈だ。

家の中が火が消えたようだ。

今度帰ってきたら、私の君が前から乗りたがっていた黒馬に乗せてあげよう。

じゃあ、その時まで。






「ルーピン先生、シリウス、ジェーン、伯母さん・・。」


彼女は胸がギュッとつまって、涙があふれてきた。


「いつもありがとう。私が元気ないときに側にいてくれて。ほんとに

 ありがとう。大好き・・。」



彼女の涙が二枚のカードを濡らした。


「先生、早く逢いたい。逢いたいよ・・。」


彼女は花束を強く抱きしめ頭を垂れて、くぐもった声で何度も呟いた。











試験終了時刻からゆうに一時間は経過しているのに、病室にまだ、ハリーやハーマイオニー、ロンの姿は

現れなかった。


「遅い!遅すぎる。何やってるんだろ。ポンフリー先生が、マグゴナガル先生が

 三人に伝えたって、確かにおっしゃったのに!」



彼女はむっつりとして腕を組んで、舌打ちした。



。具合はどうかね。」


彼女がぶつぶつ呟いていると、ベッドのカーテンがひかれ、いつもより機嫌がいいスネイプが

入ってきた。


「大丈夫です。まだ少し腰が痛みますけど。」


「そうか。これを飲みなさい。」



スネイプの声には普段はないやさしさがかすかに含まれていた。


彼が手渡してくれた脱吸血薬を一気に飲み干すと、彼女はスネイプとゆっくりと向き合った。


「先生。一つ質問してもよろしいですか?」

「何かね?」


スネイプはひそかに唇をほころばせながら言った。

「どうしてーグリフィンドールの私にこんなに親切にしてくれるんですか?」


一瞬、気まずい沈黙が流れた。


「それは・・・」

スネイプの土気色の頬に赤みがさした。


「お前がーマルフォイ同様、骨のある生徒だからだ。我輩は

 グリフィンドールの骨なしの連中はどうも好かん。だが、お前だけは

 奴らとは常に一線をひいている。ポッターのように傲慢でなく、

 グレンジャーのようにでしゃばりでもなくーー要するにお前はーー

 どちらかといえばスリザリン寮の性質を多く備え持っているからだ。

 だからーーどうしても目をかけたくなる。」



スネイプは自分自身でも驚くほどに、彼女の前で素直になれていた。


だが、その真の自分の秘められた思いについては心の奥に

深く隠蔽されてしまった。



「我輩からも一つ質問してもよいかね?」


スネイプは彼女の濁りに染まらぬブラウン・アイを覗き込んで言った。

「どうぞ。」


「なぜ、スリザリンに来なかった?」



窓から差し込む太陽の光が、彼女の髪を黄金色に輝かした。


「それはーー」


「それはーー私が光にあこがれたからです。」


「何だと?」

スネイプは理解できぬという顔で、彼女を見つめた。


「私はーこれ以上、闇に染まりたくなかったんです。ルーマニアで外の恐怖に

 怯えながら暮らしていた時、誰も友達も何もいなかったときー

 夜、窓を開けると青白く輝く月を見ました。

 ほっとすると同時にいつも悲しくなりました。

 私の友達は月だけなのだということがーー朝が来て太陽が昇ると友達が消えてしまう

 ことに恐れ、泣きました。でも、同時に光にあこがれと希望の念を抱きました。

 いつかーきっと自由になるって。

 この学校に最初に脚を踏み入れた時、一番初めに何が目に入ったと思います?

 大広間にひどく緊張しながら入った時、中央にダンブルドア先生が座ってらっしゃいました。

 その時、私は見たんです。彼の後ろに光輝く真っ赤なグリフィンのオーラを!!

 私はホッとすると同時に、先生がいつも私を見守ってくださると奇妙な安心感を覚えました。

 ここに入ろう。そう、その時決意したんです。どの寮が優れているのか?

 そういう基準で私は決めたのではないのです。ただ、光、光が欲しかっただけなのです。」




話を聞き終わったスネイプは、何も言うことが出来ずに黙って


腕を組み合わせ座っていた。


「彼女らしい理由といえばそうだが・・・。」


スネイプは彼女が欲しがっていたものを与えてやれなかった自分に、後悔の念を抱いていた。






スネイプが病室を去ってから数時間後、ハリー達はまだ現れなかった。


彼女はいいしれぬ不安と怒りに揺れると同時に、定期的に軟膏を刷り込みに来る

ポンフリー先生に気遣ってそういうそぶりは見せないように努力していた。



グリフィンドールで何か事件でも勃発したのだろうか?


しまいめには彼らが来れないのはそういう理由だと決めつける始末だった。


病室からは出られないし、ここからじゃ誰かに連絡をとることも出来ない。


ああ、誰か!!


グリフィンドール生なら誰でもいい!!


彼らに何があったか知っているはずだ!!




「ポンフリー先生!僕、ちょっと指を切ってしまったので・・・。」


やきもきして両手を組み合わせ、気が狂ったように窓の外に目をやったその時、

医務室のドアが開かれ、可愛らしい声が聞こえた。


「コリン!!」


彼女は途端にパッとベッドから起き上がって叫んだ。


「わあ、 !! ですよね?こんなとこで何してるんですか?」


その声にコリン・クリービーは、ポンフリー先生に軟膏を塗ってもらうと、一目散に彼女のところへ駆け寄ってきた。


「あ、あのねーあなたに聞きたいことがあるの。」

は高まる胸の動悸を抑えながら言った。


「僕にですか!?何ですか?何でも聞いてくださいよ!!」


コリンは有名人にじかに声をかけられたことに、ひどく感激して声が上ずった。


「ここへ来る途中、ハリーを見かけなかった?」


「え?あ、見かけたのも、何も、大変なことになってましたよ!!

 僕も遠くから見ただけなので何も分かりませんが、アンブリッジ先生の部屋で

 一騒ぎが持ち上がったらしいんです。その前にアンブリッジ先生の部屋から

 少し離れた廊下でジニーと、えーともう一人、グリフィンドールの生徒じゃないと

 思うんですけどー「あそこで誰かが首絞めガスを流したから近づくな」

 って皆に警告してたんです。僕はー首絞めガスが何のことか分かりませんが

 何か大変な騒ぎが起こってるって直感したんです。

 それで、これはチャンスとばかりにー僕はカメラを抱えてうまいぐあいに空き教室に隠れこみました。

 そしたらー思ったとおり、すごい形相のアンブリッジ先生とスリザリンの生徒達がハリーの友達、ロンの

 首を掴んで、廊下を歩いてくるのが見えました。

 彼女が何かわめいて、スリザリン生に命令してました。

 離れてたのでよく聞き取れなかったんですけどね。僕は空き教室のドアの

 隙間から恐々、全部見てました。ジニーと砂色の髪の生徒がスリザリン生に捕まって

 ひったてられ、彼女の部屋の入り口近くでアンブリッジ先生が誰かを掴んでいました。

 その人が「ハリーッ!」って叫んでたので、彼が中にいたと思いますよ!

 ええ、絶対に!!」




そう興奮気味に早口で語り終えると、コリンは「見てください!!僕がこっそり撮ったんです!!」

と戸の隙間からスクープした写真を得意げに彼女に突き出した。



ポロライド・カメラの写真には派手にもみあいながら、アンブリッジの部屋に

ひったてられていくジニー、ルーナ、ロンそして、ドラコ・マルフォイ、アンブリッジ

その他のスリザリンの生徒ー尋問官親衛隊がぞろぞろと廊下を歩いていく様子が

鮮明に映し出されていた。




「ありがとうコリン!!恩に着るわ!!」


は大慌てでベッドから飛び降り、肩に黒いローブをひっかけながら早口で礼を言った。


彼女は殺伐とした瞬間に、ブロンド巻き毛のコリンが幸運をもたらす天使のように思えた。




「コリン、ほんとにありがとう。はいこれ!今回だけね!」


彼女は写真の裏にサインして欲しいとせがむ、彼に気前よくサインしてやると、

つむじ風のごとく医務室を飛び出した。


「ありがとう、 。大事にします〜〜〜!!」


医務室のドアからコリンの嬉しそうな声が聞こえてきた。






慌てて階段をかけのぼろうとすると、嫌というほどくるぶしを踏み違え、つまずいた。


「アイタッ!」

おまけに踊り場の開け放たれた窓から、大きなカラスがバサーっと飛んできて

の後頭部をチョンと突っついた。

「もう、急いでるときに何するのよ!!」

はかんかんに怒って後ろを振り返った。

カラスはカァカァ鳴きながら、すうーっと彼女の肩に止まり、その手に手紙を落とした。

「この場で読めっていうの?」

カラスが催促するようにカァカァやかましく鳴き喚いたので、 はもどかしげに羊皮紙を広げた。


「ハリー マホウショウヘムカッタ カレノコトハワタシタチガタスケル キケンダカラ アナタハゼッタイニキテハイケナイ 」


羊皮紙には短くこれだけの言葉が書かれていた。




「彼が!彼が今、魔法省に??どういうこと?」



は状況を理解できずに頭をかかえて叫んだ。


それにこのことを知らせにきたのは誰だろう?



「よし、お前を連れて行こう。」


数秒後、 は肩に乗ったカラスに話しかけ、階段を決然とした足取りで降りていった。


今は信じるしかないんだ。




だが、今、飛び出したところでロンドンまでどうやって行くのか!?


玄関ホールまでひとっ走りし、途方にくれたように辺りを見渡していると


その気持ちを見透かしたように、カラスがしわがれごえでカァカァ鳴き、


ついてこいというように彼女の肩から離れて、すーっと森のほうへむかって飛んだ。




カラスはハグリッドの丸木小屋までくると、その横の

厩舎へと入っていった。



は必死に走って追いつき、厩舎の前へとすっとんでいった。



中には光沢のある美しい白い鬣に、大きな翼を持つ馬ーペガサスが

じれったそうに脚で地面をひっかき、いななきをあげた。


「ペガサス??」


は目をぱちくりさせた。







カラスがそれに供応するように鳴いた。




数秒後、彼女はペガサスに飛び乗り、手綱をひいて、ギャロップを命じた。


馬は鼻息荒く、脚を力強く蹴り上げ、狂ったように大空に向かって急上昇した。









風が髪を乱し、彼女は「もっと早く!」と馬に命じて

脚でわき腹を蹴った。



あっというまにペガサスは校庭、野を越え、山を越え、ホグズミード村を跳び越し、

ロンドンのさびれた路地へと突っ込んでいった。


彼女が、はやる気持ちを抑えながら馬から降り立った時、日がとっぷりと暮れ、街頭のガスの光が、黄色い玉のようににぶく輝いていた。




は感謝の気持ち一杯で、素早くペガサスの鬣にキスをし、大急ぎで古ぼけた電話ボックスへと

ダッシュした。


前にここに来たことがあるからー使い方はわかる。


は赤色のボックスの扉をばたーんと閉め、狂ったように受話器をつかみ、紅い電話を

回し始めた。








そのころ、グリモールド・プレイスに一台の赤いスポーツカーが止った。



「緊急事態よ!!」


ドアを乱暴にこじあけ、シャープなリーディンググラスをかけた、赤茶色の髪の毛の婦人が大声でわめいた。


「スネイプから伝言よ!学校を抜け出してハリー、 ハーマイオニー、ジニー、ロン、ネビル、ルーナが

 魔法省へ向かったわ。敵の罠だと知らずにね。」



「何だって?ハリー、 が!!」


玄関ホールへばたばたと駆けてきたシリウス・ブラックは真っ青な顔で叫んだ。


は?本当に一緒なのか?」

ルーピンは信じられぬ顔だったが、冷静に尋ねた。


「そうよ。」


フェリシティーは疲れきった顔でテーブルに座り込んだ。


「助けに行こう。」


騎士団本部で、ルーピン、シリウス、それから知らせを聞きつけて慌てて二階から飛び降りてきた

マッド・アイ、トンクス、キングスリー、ミナ達が即答した。





「私も行きます!!」

この時、厨房の扉が吹っ飛ぶような勢いで開かれ、シリウスの妹が入ってきた。

「駄目だ!お前はここにいろ!!いいな?一歩も外に出てはいけない!!」

シリウスはマントを羽織ながら、早口でまくしたてた。


「そうだ。ジェーン。君はここにいるんだ。絶対にきてはいけない。」


ルーピンまでもがきつい口調で彼女に警告した。


「ジェーン、お願いだからここにいてね。」


最後にミナがきつく警告し、マントを羽織って、駆け出していった。





「早く、乗って!!」

フェリシティーが魔法でスポーツカーを二台出現させ、皆をせきたてていた。

「キーはどこだ?」

「シリウス、ここよ。」


「誰か車を運転できる人は?」

「私だ。」


あっというまにエンジンがかけられ、ブルルルという音を立てて、弾丸のような速さで二台の車は

通りを飛び出した。








家に一人取り残されたジェニファーは、憤懣やるかたない気持ちで

急いで二階に駆け上がり、衣装箪笥の引き出しをそっと開けると

ラスベガスからこっそりと持ってきた、重い拳銃を取り出した。


彼女は銀メッキの箱をこじ開けて、弾丸を取り出した。

そして震える手でそれを拳銃に詰めた。



彼女はテキサス州で射撃を何度もやったことがあり、しかもその腕前はなかなかのものだった。

兄を、兄の命の恩人、お嬢さんを今こそ、助けに行かなくてはーーー。

二丁の六連発銃をしっかりと羊皮のジャケットのポケットにしまいこみ、

彼女は「最悪の場合、人殺しをする覚悟で」この家を後にした。














 
 

 

 
 














 


















































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