姫が朔の夜を迎えた日、神楽は密かに奈落の支配から逃れようとことを企て

それを神無からつてで聞き、自らもうすうす感づいていた奈落は城の地下牢に彼女を監禁し、

こっぴどく痛めつけたらしい。


「そろそろこの城を離れる潮時かもね。でも、下手したら、私も奈落に

 閉じ込められてしまうかも」


姫は以前にもまして、自分に邪悪な欲望を抱く奈落の視線に

つけまわされ、つくづく嫌気が差していたのであった。


「奈落は何を考えているのかまったく分からない。しかし、あの危険極まりない目は、私の

 勝手な逃亡を絶対に許さないといっているようなものだし・・全くどうしたらいいものか・・。

 殺生丸様、(こんな時になんて厚顔無恥なとお考えでしょうが)助けて・・」


姫は陰鬱な空気が立ち込める部屋の格子窓を、ぎゅっと握り締め、むなしく心の中で叫んだ。


「何を考えておられるのかな?」


突然、ふすまがさっと開き、神無を従えた奈落が現れた。


「別に何も。それより神楽はどこです?何度呼んでも来ないのだけれど」


彼女はぎょっとし、巧みによからぬ表情を押し隠したが、間に合わなかった。


「もしや、この城から立ち去るとお考えですか?お忘れですかな、姫殿。

 あなたが四魂の欠片を持っている限り、どこまでも犬夜叉たちは追いますぞ」


彼はさっと、彼女の目の前に移動すると、苦々しく言い放った。


「そして、あなたは法師を毒虫で苦しめ、犬夜叉に治癒の遅い凍傷を負わせ、かごめに魑魅魍魎(ちみもうりょう)の妖怪

 をけしかけたのですぞ。それだけでもあなたは相当な恨みを彼らから買っているはずですが」


彼は、そろそろとあとずさりする彼女の手をがしっとつかむとせまった。



「この城におとどまり下さい。そして、ゆくゆくは私とともにこの四魂の玉を使って

 面白おかしく暮らしましょうぞ」



「無礼な!何をするのです!!」


彼の薄気味悪い笑みが彼女の美しい口元まで近づいてきたので、彼女は

ぞっとしてのけぞった。



「どちらが無礼ですかな、姫殿。重傷を負ったあなたを助けたのはこの奈落でございますが・・。

 今、そのあなたはこの私から受けた恩を忘れ、一言の断りもなく私のもとを去ろうとしているのですからな」



その言葉にはっとした姫は、恐ろしい勢いで体を密着させてくる奈落に抵抗するのをぴたりとやめてしまった。


「いつか、あなた様のその汚れなきお体とお心をこの奈落が手にする日も近いですな」


彼は彼女の首筋に舌を這わせると、へたりこんで動けなくなった姫を尻目に

そそくさと立ち去った。











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