リック達の奮闘もむなしく、多勢に無勢の奴隷を操るイムホテップによって
エヴリンは連れていかれてしまう。
はこの元凶を作った邪悪な大神官より、傭兵のくせにリックを二重に裏切った
ベニーの方を噛み付くように睨みつけた。
リックはピストルを今にもぶっ放しそうな勢いで構えたが、冷静沈着なアーデスがこれをなだめた。
リックとエヴリンはしばし無言で見つめあった。
それが二人の間で育まれつつある愛情の証であった。
「すぐにお前を迎えに行ってやるぞ」
リックは松明を突き出し、不適な笑みを浮かべるイムホテップを挑発した。
「おい、それは僕の・・」
「ああ、悪いね。ありがたく貰うよ」
「この薄汚いこそ泥、今に天罰が下るわ!」
ジョナサンの白い上着のポケットからパズルボックスを抜き取った
ベニーには拳を振り上げた。
ジョナサンが今にも彼に殴りかからんばかりの彼女の腕を押さえた。
(残りは殺せ!)
エヴリンの肩を抱いたイムホテップは、古代エジプト語で声高らかに命じた。
「嘘つき!ひどいわ!」
エヴリンはその意味を悟って、むなしく悲鳴を上げ続けた。
「あばよ、リック」
「ベニー、この薄汚い野郎!」
「今度顔を見せたら八つ裂きにしてやるからね!」
「よく覚えときなさいよ!」
元部下の仕打ちに我慢ならないリックは、アーデスの腕を振り解き、ベニーに向かって拳を挙げ、
は呪詛の言葉を吐き散らした。
だが、嘆いている暇はなかった。
松明を掲げた何十人もの奴隷たちが達目掛けて迫ってきたからである。
リックは、松明をぶんと放り投げると、足元にあったマンホールの蓋をこじ開けた。
「中に入れ!」
「ちょ、ちょっと待てよ!僕の妹はどうなるんだ!?」
「分かってる。お前は先に入って待ってろ!」
リックは酷く動揺しているジョナサンの襟首をつかんで、マンホールの中に押し込んだ。
「!」
リックは間髪いれずに、彼女の手を掴むとマンホールの中に突っ込んだ。
「次はお前だ!」
彼は荒々しくアーデスの襟首をつかんで押し込んだ。
館長は三日月刀を抜くと、勇ましく奴隷の群れに切りかかっていった。
「何してる、早く来い!」
リックが腕を差し出して呼びかけたが、館長はわき目も振らず奴隷達を叩き切っていた。
彼はやむなくマンホールに飛び込み、館長はあえなく群集に袋叩きにされて壮絶な死を遂げたのである。
それからのリックの行動力は目を見張るものがあった。
彼はまず、砂漠の民が暮らしているイギリス空軍のギザ基地を訪ねた。
そして、昔なじみの今は優雅な引退生活を送っているウィンストン大佐を頼った。
冒険が大好きな彼は快く承知し、リック達に飛行機を手配し、自らパイロットの役を買って出た。
だが、この冒険で勇敢な空軍の大佐は帰らぬ人となり、リック、、ジョナサン、アーデスも
さんざんな目にあわされ、着の身着のままで墜落した飛行機から脱出していた。
リックは軍人らしく、勇敢に戦って散った友人に最大の敬意を表した。
そして彼らはハムナプトラ目指してあてどもなく歩き出した。
ようやくハムナプトラにたどり着いた彼らは、入り口を塞いでいる瓦礫の山をよりわけて
取り崩しているところだった。
「まず大きな石からやるんだよ」
「あ〜もう、上から取らないと崩壊するぞ!」
「何やってんだよ、もっと頭を使えよ!」
その言葉にカチンと来た三人は、瓦礫の発掘作業をやめて
いっせいに振り返ると忌々しげにジョナサンをにらみつけた。
「あ〜諸君、その・・どうぞ続けたまえ」
発掘者の三人の凍りつくような視線にジョナサンは言葉を濁すと、すごすごと立ち去った。
「へ〜い!こりゃ何だ?」
暇をもてあましたジョナサンは、古代エジプト文字が描かれた石盤に埋め込まれた
サファイア色の昆虫の化石を引き抜いていた。
「三人とも来てみろよ、こいつはいったい何だろな?」
「ジョナサン、それ触っちゃだめよ!」
がぎくりとして、金切り声を上げて止めたときは遅かった。
死んだと思われていた色鮮やかな化石がパカッと割れ、中から元気一杯の
肉食スカラベがささっと飛び出し、ジョナサンの皮膚に穴を開けて侵入した。
ジョナサンは悲鳴を上げ、リック、アーデスは何事かと振り返った。
「リック、何とかして!スカラベが彼の体内に!」
はジョナサンの腕にしがみつき、半泣き状態で叫んだ。
「オコンネル、助けてくれ!奴が・・奴が僕の腕に!」
リックは落ち着きはらった様子で、ジョナサンの上着を引きちぎると、スカラベがどこにいるか確認した。
「じっとしてろ!」
「二人とも、押さえててくれ!」
アーデスとが錯乱しているジョナサンを取り押さえると、リックは優れた執刀医のごとく、ぺティナイフでジョナサンの表皮を抉り出し、
スカラベをすくって放り出した。
ジョナサンがやらかしたしょうもない騒ぎが収まると、リックは光の差さない大広間に鎮座する青銅製の鏡目掛けてピストルを発砲し、鏡を裏返しにし
て太陽光が当たるように仕向けた。
次の瞬間、皆、あまりにも眩しい光景に目がくらんだ。
そこには歴代のファラオが貯め込んだ金銀財宝が山と積まれていたのであった。
リック達は息を呑んで、ゆっくりと石段を降りていった。
「こんなの見たことない・・」
「信じられない・・」
ジョナサンが感嘆の声を上げたが、リックは無愛想に頷いただけだった。
「なあ、一個だけ貰っても・・」
「やめろ、何も触るな」
ジョナサンが生唾を飲み、おそるおそる歴代ファラオの神々しい装飾品に手を伸ばそうとしたが
リックは厳しい声で制した。
その時だ。背後で奇妙なうめき声が上がった。
四人の背にさっと緊張が走った。
リック、アーデスは振り返ってウィンチェスター銃と軽装機関銃を構え、は肩にかけていた漆黒の長弓を下ろし、
矢嚢から矢を引き抜いて番えた。
実は彼女の武器は、カイロ古代博物館から黙って拝借してきたものであったが。
足元の砂がうねり、噴出し、中から世にもおぞましいミイラが這い出してくる。
「こいつらは何だ?」
リックがいぶかしそうに言った。
「神官だ」
「イムホテップの手下どもだ」
アーデス・ベイが余裕綽々で答えた。
「よし分かった」
リックはにんまりとして、軽装機関銃の引き金を遠慮なく引いた。
それを合図に、アーデス・ベイはウィンチェスター銃を激しくぶっ放し、
は漆黒の長弓に電光石火のごとく矢を番え、機関銃の射撃を逃れた遠くの方の
神官目掛けて放った。
この場の雰囲気に浮かされたジョナサンも、従妹に負けるかとばかりに
リックの吊バンドから二丁のピストルを抜き取ると、二体のミイラ目掛けてぶっ放した。
それでも迫る神官の数は知れず、リック達はやむなく退却した。
土壁の遺跡内に機関銃の銃創音がこだました。
リック、アーデスは追いかけてくる敵に機関銃をぶっ放しながら後ずさり、、ジョナサンは
前を向いてこけつまろびつ走っていた。
「見つけた、ホラスの像だ!」
松明を掲げて走っていたジョナサンが、狭い通路を抜け出て叫んだ。
そこにはどっしりとした石像が鎮座していた。
リックは軽装機関銃の引き金をがむしゃらに引きながら後ずさり、も彼を助けるべく
弓に矢を番え、援護射撃を繰り返していた。