かくして邪悪な大神官は滅びた。
エヴリンの読み上げたアムン・ラーの書に書かれてあった言葉が光となり、
イムホテップは不死身ではなくなったのだ。
形勢逆転したリックは迷わず、戦神の剣で彼のわき腹を刺し抜いた。
イムホテップは最後の最後まで自らの敗北を認められず、恨みに満ちた目で
リック達を睨みつけながら、ずぶずと死者の沼に沈んで姿が見えなくなってしまった。
「死は始まりにすぎない」
その後、リック達は音を立てて倒壊し始めた遺跡からほうほうのていで
脱出するはめになった。
一方、「天罰が下る」とのの予言どおり、お宝に目が眩んで逃げ遅れた
ベニは倒壊した遺跡内に閉じ込められたあげく、肉食性スカラベの餌食になり、
悲惨な最期を遂げたのだった。
今、四人はぜいぜい息を弾ませながらからくも遺跡の外へと逃れていた。
遺跡の倒壊を察知して遠くまで逃げ延びたラクダ達の元まで走ってしまうと四人は
改めて振り返って、もうもうと砂埃を上げて崩れ落ちる遺跡の成れの果てを見守った。
ほっとしたのも束の間、「ギャーッ!!」「うわぁ〜っ!!」と
一組の男女の悲鳴が上がった。
「ああ、びっくりした!あんたか・・本当に何といっていいか分からないが
ありがとう!!」
ジョナサンは自身の右肩にそっと置かれた右手の持ち主に向かって酷く
驚きながらも礼を言った。
「君達に私の部族の民からの心からの敬意と感謝を伝えよう」
その包帯の巻かれた右腕の持ち主――アーデス・ベイは深い慈愛に満ちた表情で告げた。
彼はアラーのご加護のせいか、大勢のミイラ達と素手で戦いながらも
奇跡的に生還を遂げたのだった。
「そんな、よせって・・礼なんかさ・・」
ジョナサンは若干照れていたが、エヴリン、リック、は
彼を見上げてにこやかに微笑んだ。
「君達にアラーの恩恵があらんことを」
アーデスは唇に軽く手を当て、それを額に持っていくと
イスラム教式の祝福の言葉を送った。
「ああ、そうだね。あんたにも神のご加護を」
ジョナサンもカトリック式に額の前で十字を切ると彼に言葉を返した。
「その・・本当にいろいろありがとう。私、今まであなたの国の人に偏見を抱いてた。
でも、またご縁があればお会い出来るかも・・ないかもしれないけど」
は砂漠の乾ききった風にたなびく彼の黒髪を見つめながら呟いた。
「それは神がご存知だ。それに君が来たければいつでも来ればいい。では」
アーデス・ベイはしばらく彼女の艶やかな黒髪に取り囲まれた顔を
見つめていたが、ふっと口元に笑みを浮かべるとくるりと背を翻してラクダを操って
去っていった。
「またな、あんたならいつでも大歓迎だ!」
「元気でな!」
がセンチメンタルな気分に浸っているもおかまいなしに、ジョナサン、リック
は口々に別れの言葉を投げて見送った。
「それで・・振り出しに戻り?」
「僕らはここらで置き去りってわけか」
アーデスの姿が豆粒になるまで見送っていたジョナサンは
やれやれとため息混じりに言った。
「あ〜あ、ま〜た手ぶらでとんぼ返りか。ツイテナイね〜」
ジョナサンは深いため息をつきながら呟いた。
「いいや、違うね」
リックは陽の光を受けて黄金色に輝くエヴリンの髪を見つめながら感慨深げに言った。
「おいおい、やめてくれよ・・」
ジョナサンは甘い雰囲気を醸し出す妹とリックを見やって嘆いた。
恋人達は既に優しいキスを交し合っていた。
「、放っといて僕らだけで帰ろう。あれ?」
「黒服の砂漠の民か・・けっこう紳士だったわね・・」
ジョナサンは今度こそ本当にあきれ返ってしまった。
自分の妹だけでなく、いとこまでもがこの砂漠で育まれつつある恋に耽溺していたからだ。
「また僕だけのけ者かい?しょうがない、僕はお前と帰るとするか。
うわっ、くっせえ息!」
ジョナサンがラクダの手綱を引っ張ってぶつくさ呟いた。
それから、エヴリンはリックと共にラクダに相乗りし、ジョナサンは
を乗っけてやり、帰宅の途に着いたのだった。
彼らはまだ気づいていなかった。
ラクダの背に巻きつけてある麻袋の中にベニーが積み込んだ
金銀財宝が眠っているということを。
いかがでしたか。黄金のピラミッドに続きます。お楽しみに〜