(あぁ・・こんなことなら私と落ち着いてる井宿で乗り込めばよかった)
(翼宿が早まるから・・それにこの男、さらしを巻いてたとはいえ、しっかりと胸触ったし、なにかと癪に障る!)
(お前、今なにか言うたやろ?)
(別に・・何でもないけど)
(嘘つけ〜!)
今、は翼宿と共に宮殿の一角の柱に体をぐるぐる巻きに縛りつけられていた。
二人とも口に布をまかれていたので、目を動かして穏やかに会話しようとしていたのだが、
やはり、いつもどおり喧嘩口調になってしまうのだった。
「ちょっとの辛抱なのだ。おいらが美朱をうまく連れ出してくるのだ!」
井宿がの体を優しく縄で縛って最後に言った言葉だった。
(何が上手く連れだしてくるって!?あれ、倶東の将軍じゃないか!!)
(え〜っ嘘やろ、俺らこんなんじゃしまいやで!)
二人は目を普段の二倍にも見開き、輝くような金髪に凍りつくような目をした背の高い
心宿につれてこられた美朱を眺めて慌てふためいた。
「朱雀の巫女、この場で七星士ともども息の根をとめてやろう」
心宿が不適な笑みを浮かべて手に冷たい気をためた時だった。
「冗談なのだ〜!」
陽気な声とともに、ぽんっと美朱の栗色の髪に手がかけられ、あの凍りつくような目がにっこりと微笑んだ。
「井宿、おんどれはよくも俺とを縛りよったな!!」
心臓が爆発するかと思った翼宿は、やけくそで口に巻かれていた布を振りほどきわめきまくった。
「だって翼宿、とおいらが止めても正面から乗り込むって聞かないから〜こうするしかなかったのだ〜」
砂色の髪に袈裟と錫杖姿に戻った井宿が、困ったように言った。
「たくっ、井宿!ほんとにこのまま死ぬかと思ったよ!前もって説明しといてくれてもいいだろ?」
「悪かったのだ、だってあの格好のままのほうが自由に動き回れるし、美朱ちゃんを連れ出しやすかったのだ!」
井宿に布と縄を解いてもらったはぶつぶつ文句を言っていた。
「お前、腕の骨、砕けとるやんけ!」
翼宿が美朱の上腕部が出血していることに驚いて叫んだ。
「誰にやられたのだ?」
井宿までがこぞって尋ねた。
「酷い・・それにこの強力で確実な殴打の跡。こんなことするのは相当な暗器の使い手だ。そんじょそこらの青龍の兵士じゃないぞ」
「あの金髪か?」
は嫌がる美朱の腕を取り、傷跡の出血量と相当な痛さから想像して言った。
「違う・・違うよ!ちょっと牢から逃げる時こけて思い切り打ち付けちゃって・・」
美朱は顔をくしゃくしゃにし、口が裂けてもいえなさそうだった。
「嘘言うなよ、この傷はそんなんじゃ出来ない。あの金髪じゃなきゃ誰なんだ?」
は美朱の肩を持って、激しく問い詰めた。
「、今は真実を聞き出してる場合じゃないのだ。早く戻って軫宿の手当てを受けるのだ」
井宿が怒りに打ち震えるを黙らせて、うつむいてる美朱に言った。
井宿が再び変身術で将軍の姿に化けて鬼宿を探しにいってしまうと、
翼宿は美朱の腕を彼女のポケットから落ちたハンカチで縛り、応急処置を行った。
「本当は患部に水の気を送って、冷やして痛みだけでも取ってやりたいが、私達、あの将軍に術を封じられてるんだ」
がすまなそうに言った。
「すまんな、俺もさっぱり術が使えんので動くことが出来んのや。井宿がきっと鬼宿見つけてくれると思うけどな」
翼宿もくやしそうに言った。
「心宿の術?」
美朱が不思議そうにの顔を見上げて言った。
「ああ、井宿と同じであの金髪相当な術師みたいなんだ。
おかげで全く水はでないし、翼宿の火もだめだ」
「あーっ、あんなとこで心宿がストリップ!あーっ、婁宿さんもこっち向かって手振ってる!」
「えっ、どこどこ?」
と翼宿が美朱の必死の道化じみた芝居に気を取られたときだった。
「あっ、しまったーっ!」
「あほーっ!」
「あんたに言われたくないっ!」
朱雀の巫女の素早い離れ技で、二人背中合わせにぐるぐる巻きに縛られてしまったと翼宿は
また喧嘩していた。
「ほーどーけー、あほ〜!」
「うるさいっ、もし兵士に気づかれたらどうするんだよ!!」
翼宿の吠え声との怒り声を頼りに飛んできた井宿は
二人が縛られていること、美朱が姿を消していることに気づいた。
「翼宿、、将軍本人にばれたのでひとまず退散〜あれ、美朱ちゃんは?」
「あいつが俺とをこんなふうに縛ったんじゃ!」
「美朱に?二人とも油断大敵なのだ〜」
井宿はあきれはてて呟いた。
「いうたやろ、俺は女は好かんと、だいたいやり方がずるいんじゃ!」
「男だって、ずるい奴はずるいやり方をすると思うが・・」
「お前、何でいちいち違うことばっかり言うねん!」
「二人とも、お似合いだからもう少し縛られてるのが身のためなのだ」
井宿はあいもかわらず極限状況で喧嘩する二人を反省させようと
頭が痛い思いで言ってみたのだが、
「井宿!!」
と二人の一喝に「だーっ、冗談なのだっ!」とごまかして
縄をせっせと解いてやった。