「いよいよですね、陛下。ここまで頑張ってきたかいがありました」

儒学者達が、朱雀の儀式の準備を進めるのをは晴れ晴れとした顔で見守っていた。

「ああ・・あとは鬼宿と朱雀の四神天地書を取り戻せば万全だ」

彼女の隣で、感慨深そうに頷く皇帝もどことなく嬉しそうだった。

、そなたも全ての記憶とかけられた呪いがとけ、

 離れ離れになった仲間や親族を探す手がかりが出来るぞ」

彼はここで慈愛に満ちた目で、これまで巫女と七星士探しを懸命に

手伝ってくれたに、嬉しい言葉をかけた。

「何といってこの喜びを表現してよいか分かりません。

 巫女や陛下や他の皆に・・」


は口ではそう言ってみたものの、朱雀を呼び出した後、

自分を家族のように迎えてくれた個性豊かな七星士達と

別れることを考えると、きゅんと胸がしめつけられるのだった。




「私はこれをずっと望んでいたのに、何で、何で・・こんなにつらくなるんだろう」

「私は白虎七星士で、朱雀七星士じゃないのに・・帰るべき場所は

 白虎の仲間のもとなのに」


「はぁ・・なんかここに長くいすぎたから愛着が出来ちゃったのかな」


「なんだろうな・・私らしくない、あんなに婁宿に会いたがってたくせにどうしちゃったんだろう?」


宮殿の片隅で柱にもたれかかり、膝をかかえて悩み続けるを離れの部屋から

見ていたのは翼宿だった。


彼は何ともいえぬ表情で彼女をじっと見つめていた。


「なんで、なんであんな悲しい顔してんねん・・もうすぐ呪い解けて記憶戻るんやろ?だったら、なんで・・」

翼宿はわけがわからない顔で呟いた。

「ふ〜、いろいろと彼の心の中は複雑なのだ〜」

ポンッと肩を叩いて翼宿の横から顔をだしたのは、ひょうきんな井宿だった。

「わー、びっくりした、びっくりした!どっからお前はわいてくるねん!?」

「も〜さっきからいたのだ!少しは気づくのだ、翼宿〜」

胸を押さえ、落ち着きを取り戻そうとしている翼宿を尻目に、井宿は彼女の寂しそうな顔のわけを明確に汲み取っていた。




満月の明るく輝く晩、美朱は制服のリボンをきちんと引っ張って整え、

朱雀七星士、白虎七星士達の前に立っていた。


「くれぐれも気をつけるのだよ」

湧き上がる心配をぐっと胸にしまい、穏やかな顔で巫女を送り出そうとしているのは星宿だった。

「僕達は美朱さんにご同行できないのですか?」

張宿がふと思いついて言った。

「人数は出来るだけ少ない方がいいのだ、向こうが結界を張っているのだ。気を抑えても敵にさとられるかもしれないのだ」

「なら私も行く。朱雀の者でないし、向こうはまさか白虎の者である私のことなど知らないでしょう?」

宮廷から支給してもらった、茶系統の繻子の服に身をつつんだがすっと進み出ていった。

「今日にうってつけの役目だと思います」

(そして、これが私にとって巫女を守る最後の仕事)

の顔がそこですっと曇った。

「うーん、違う気が交じったほうが、敵を疑心に陥れるのにはいいかもしれないのだ」

井宿が指を頬にあてて少し考えてから言った。

「よし、ではを連れて行くのだ」

「待ってえな!だけ抜け駆けはさせへんで。俺も行く!鬼宿っちゅう奴に会うてみたいんや」

そこで割り込んだのは翼宿だ。

「だめだよ、翼宿、これ以上人数増やしたら敵に・・」

美朱が困惑して反対しようとしたが、翼宿はそうくることを想像し、上着の内側を探り始めた。

「あ〜あ、そないきたか、残念やなぁ・・このめっちゃ美味い肉入り饅頭やろうおもたんやけど」

翼宿は朱雀の巫女の前で、問題の食物をちらつかせ誘惑するように囁いた。

「可愛そうよ〜井宿、連れていってあげましょう!」

ころっと先ほどまでの態度をかえた美朱にはずっこけ、翼宿は「よっしゃ!」とガッツボーズをしていた。

「あ、ああ・・一緒に連れて行くのだ」

井宿もあきれていたが、朱雀の巫女の異様な熱意に負けてしぶしぶ認めた。

「いったい何考えてるんだ!?こんな純粋な娘を食べ物で釣るなんて!」

ようやく床から起き上がったは、あきれはてて翼宿に食ってかかった。

「えーやん、お前だけずるいで〜いっつもいいとこばっかしとっとるやん」

翼宿はへへんと涼しい顔で言ってのけ、はこの緊張が張り詰めてる時に何をのんきなと「そういう問題じゃないでしょう!?」

と言い返していた。



























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