七星士達は柳宿の痛々しいなきがらを黒山のふもとに
埋葬し、その上に雪を少しずつかけてやり、一本の木の枝を最後に突き刺してやった。
は紫色の香水瓶を餞別にと柳宿の手に握らせて、永久の別れを告げた。
黒山の頂にある洞窟の頑丈な鋼鉄製の扉がずしりとそびえていた。
柳宿が最後の力を振り絞って巨大な扉を防いでいた岩を
のけてくれたおかげで、皆はすんなりと中に入ることができた。
洞窟は日のささない暗闇に覆われており、とても寒く、足元には沢山の
人骨が散乱していた。
「何、ここは!?」
「危ねえ!」
鬼宿が殺気を感じ、素早く美朱の前に立ちはだかった。
飛んできたのは何十本ものありの這い出る隙間もないほどの鋭い
氷の矢だった。
鬼宿の肩を氷の矢がかすっただけだったが、仲間には見えない恐怖の戦慄が走った。
「神座宝は貴様ら盗人の手には渡さん!」
すさまじいエメラルドグリーンの二つの冷気を感じたので、
皆は前方をじっとこらすように見つめた。
「俺の名は斗宿」
「俺の名は虚宿」
「我々は玄武の神座宝を守護するものだ!!」
砂色の髪の片目を眼帯でおおった背丈の高い男と、まだ少年っぽさと無鉄砲さが残る
黒髪の男がそれぞれ暗闇から姿を表し名乗った。
「俺たちの話を聞け、斗宿に虚宿!!」
鬼宿が井宿が落ち着くようにいさめたが、虚宿はにやりと笑うと
矢筒に手をかけ、さっきより倍多い氷の矢を容赦なく放ってきた。
「さっきから話を聞けって言ってるでしょう!?この無礼者!!」
その横柄な態度にぶち切れたは、神剣に手をかけ、
巨大な流虎水を放った。
氷の矢は次々と襲いかかる白虎の水流に食い尽くされ、ばらばらと地面に落ちた。
「こいつは・・白虎の形をした聖水!!」
流虎水を派手にくらってびしょぬれになった虚宿は、驚愕して叫んだ。
「ということは・・お前は!?」
「申し遅れたが、私は白虎七星士の一人、!」
「これ以上、朱雀の巫女や七星士に危害を加えるなら、断固として許しはせぬ!」
神剣を振り上げ、戦闘の構えをとったに虚宿と斗宿は一瞬たじろいだ。
「白虎七星士、か・・何十年も前にここに来たのが昨日のようだぜ」
「あん時は驚いたぜ。西廊国の王女様がこんな寒いところに何しにきたんだってな・・」
虚宿はの顔をまじまじと見つめと突然、おかしそうに笑いだした。
「それにしても、なぜ、お前はあのときのままなのだ?歳を全く取ってはいないではないか・・」
斗宿の顔にそこで初めて優しい笑みが浮かんだ。
「話せば長くなるわ。それに私はその時の記憶が何もない。それより、この方達は朱雀の巫女とそれをお守りする七星士達。
彼らに早く神座宝を渡して。私達には今、それがどうしても必要なの」
の懇願に玄武七星士は酷く動揺し、どうしようかと目配せしあった。
彼女の懇願に重なるように、美朱は地面に深々と頭をつき、頼みこんだ。
「私、出来ることなら何でもしますから!じゃないと手ぶらで絶対に紅南国には帰れません!!」
「どうか、どうかお願いします!!」
「私からもお願いします。白虎七星として、巫女に頭を下げさせるような真似は出来ません。昔のよしみとして
何とかこの方の願いを叶えてやってください!!」
巫女とともに必死で頭を下げるの強い心に動かされたのか、玄武七星士は
心を決めてうなずきあった。
「よくわかった。立ちなさい、白虎七星士、朱雀の巫女」
斗宿の声はさっきよりずっと優しくなっていた。
「ただし、条件がある。お前が本当に朱雀の巫女か、神座宝を渡せる価値があるか試してみよう」