は鬼宿がこれほど朱雀の巫女を優しくいたわるのを見たことがなかった。
彼女はその二人の姿にかつての想い人と白虎の巫女の姿を重ねて見ていたのだ。
「例え、朱雀を呼び出せなくても・・」
「世界で一番幸せな花嫁にしてやる・・」
「俺には軫宿やみてえな力はないけど・・」
二人のくぐもった声がとぎれとぎれに聞こえる。
鬼宿は朱雀の巫女の傷ついた手に優しく口付けていた。
しばらくして、二人の唇が重なった。
はふっと寂しそうに笑うと、軫宿の猫のたまをそっと抱き上げて二人の邪魔にならないように
うっそうと生い茂る木陰のほうへと歩み去った。
しかし、優しくすれば優しくするほど朱雀の巫女の傷は広がっていったのである。
「おい、起きろ!、起きろ、大変なんだよ!」
焚き火の燃えおきがなくなる頃、ぐっすりと眠っていた彼女は鬼宿のけたたましい声に
起こされた。
「なぁにぃ・・鬼宿」
眠い目をこすりながら仕方なく起き上がったはぼそぼそと尋ねた。
「今起きたら、美朱がいねーんだよ!」
鬼宿は頭を抱えてパニックに陥っていた。
「俺はあいつと二度と離れねえと誓ったのに・・どうしてだよ!?」
彼はの肩をつかんでその美しい黒髪が落ちかかるまで激しく揺さぶった。
「彼女の傷は思ったより深いんだわ。それに一人で出て行ったとなると奴らに狙われる。危険だわ!」
はまずそうに叫んだ。
一方、青龍の真っ白な野営用テントの中では腕に火傷を負った心宿と偵察から戻った
氏宿が話し込んでいるところだった。
「朱雀の巫女とは交わっていない。あの時、巫女の身体から発せられた赤い光が防壁となり触れることがかなわなかった。
それに気絶している女を抱く気にはなれぬ」
上半身裸でその上に緋の上着を軽くはおっただけの心宿は、どこか遠くを見つめる面持ちで言った。
「心宿。あなたともあろう方が・・なぜそのような爪の甘いことを・・理解できませんね」
心宿に密かに想いを寄せる氏宿は至極残念そうに相槌を打った。
「あの娘は完全に私に汚されたと思い込んでいる。ちょうど唯様のようにな。それで十分ではないか」
心宿は話はこれで終わりだと言うように打ち切って向こうをむいた。
「わかりました。朱雀の巫女は私にお任せを。だが、その前に鬼宿とを料理せねば」
だが、あきらめきれない氏宿はさらさら引き下がるつもりはなく進言した。
「お前の好きにするがいい。いや、待て」
テントの外へ行きかけた氏宿を心宿は呼び止めた。
「白虎七星士、は確か西廊国の者だったな。白虎の神座宝のことで少々尋ねたいことがある。彼女は私が片付けよう。
氏宿、お前には鬼宿を任せる」
「分かりました。それでは房宿の力を借りますよ」
その言葉ににやりとした氏宿は、複雑な思いでテントの影から彼の様子を伺っていた房宿を
引き連れて出て行った。