「ハリー、 、あと十分よ!!急いで戻らなきゃ!!」
ハーマイオニ―がタイムターナーを懐から取り出し叫んだ。
ハリーは食い入るように空を見つめていたが、ハッと我に帰り の腕を引っ張って玄関ホール目指して藤棚を潜り抜け
全速力で駆け抜けた!
遠くの時計塔から12時までの時を告げる運命のカウントが始まった。
「どんなことをしても間に合わせるんだ!」
ハリーは狂ったように叫ぶとの手をつかんだまま、猛ダッシュをかけていた。
ハーマイオニ―は飛ぶように二人の目の前を駆け抜けていた。
二回目の鐘が鳴り響いた。
三人は凄い形相で満月が降り注ぐ校庭を駆け抜けた。
三度目の鐘だ。
「鐘三つ!今何時だい?ハーマイオニ―!」
ハリーは走りながら叫んだ。
「11時55分、あと5分よ!!」
ハーマイオニ―がようやく玄関ホールにたどり着き、城の中へ猛ダッシュで駆けていくところだった。
三人はぐちゃぐちゃになって城内を物凄い勢いで駆け抜けた。
彼らは大理石の階段を2段飛ばしですっ飛ばした。
「あと1分!ラストスパート!!」
ハーマイオニ―がタイムターナーを眺めながら叫んだ。
「マラソン選手じゃないのよ!」
がひぃひぃ言いながら突っ込んだ。
階段を上りきったところで医務室の厚い扉が見えた。ダンブルドアがドアの前で待ち構えていた。
「さて?」
にっこりと微笑んだ彼は三人に尋ねた。
「やりました!」
ハリーが息せき切って話した。
「よくやった!さあ、中にお入り。わしが鍵をかけてあげよう」
ダンブルドアは三人をドアの中に招きいれた。
三人はロンのベッドの側に向かった。
すると、そこには過去のハーマイオニ―、、ハリーが立っていた。
三人が近づくとたちまち過去の三人は消滅してしまった。
「ど、どういうことだい?き、君たち今までそこにいたのに」
ロンが驚いてベッドから起き上がり、こちらに向かってきた三人を怯えた顔で指差した。
「やったな!」
ハリーはにっこりと笑うと 、ハーマイオニ―とバシッと手を叩きあった。
「ロン、心配しなくてもあとで彼女がたっぷりと説明してくれるわ!」
はハーマイオニ―をちらりと見て言った。
「セブルス、これ落ち着かんか!見苦しいぞ!ハリー達は休息をとっておる!」
ドアの向こうからダンブルドアの怒った声が聞こえてきた。
三人は何も言わずにササッとベッドに潜り込んだ。
病室のドアが乱暴に開いた。
「白状しろ、ポッター!」
逆上したスネイプがひとっとびにハリーのベッドに近づいてきた。
「何を騒いでるんですか?」
がベッドから涼しい顔で起き上がった。
「おまえらがブラックの逃亡に手を貸したんだな!!分かっているぞ!」
スネイプはハリー、 、ハーマイオニ―に交互に怒鳴り散らした。
「馬鹿言わないで下さい。私達ずーっとここで寝てたんですよ。ねえ、校長先生」
はどこ吹く風ですらすらと嘘を並べ立てた。
後ろから入ってきた校長は「おお、そうじゃよ。彼らはここで寝ておった。わしが万が一の為に鍵もかけたしの」
と静かに言った。
「校長はポッターをご存知ない!こんなことを思いつくのはこやつしかいない!こいつがやったんだ!」
スネイプは大声で喚きたてた。
「いいかげんにせぬか、セブルス!わしの言うことが信用できんということじゃな!」
ダンブルドアがかんかんに怒って、彼の袖をつかみ出口へと引きずっていった
「校長!こいつらしかおりませんぞ!」
スネイプはまだ喚いていた。
「やかましい!少し頭を冷やさぬか!彼らが休息できんじゃろうて!」
アイリッシュ(アイルランド人)特有の癇癪が出てきたのか、
ダンブルドアは烈火のごとく怒っていた。ドアのところまでスネイプを引きずっていき、彼を先に出口へと追い出した。
「ではよい眠りを!」
セブルスを外へと放り出してから、校長はドアを閉めながらハリー達におやすみといった。
「お、お休みなさい・・」
四人はおずおずと挨拶を返した。
ハリー、 は翌日の朝、すぐに退院したが、ロンの退院は昼にまで延期された。
ハーマイオニ―はロンと二人だけで昨日の話をしたいと言ったので、残された二人は先に病室を出ることにした。
グリフィンドール塔に戻ると、寮には誰もいなかった。
皆、ホグズミードに出かけたらしい。
「ハリー、ちょっと服着替えてくるから・・」
は血がついてしまった服を見下ろし、女子寮の階段を駆け上がっていった。
「あ、じゃあ、僕はルーピン先生のとこへ行ってくるよ・・気になることがあって」
ハリーはそういうと、サッと肖像画の穴に向かった。
は部屋に着くと、素早く汚れた衣類を脱いで真新しいスカイブルーのTシャツにタータンチェックのブラウンの
スカートを履き、ショートブーツの紐を結ぶのもそこそこに女子寮のドアへと駆けていった。
それから はベッドの上に置いてあったネックレスに目が留まり、慌ててリターンしてきてそれをひっつかんだ。
「私も会いに行こうっと」
はペンダントの留め金を首に止めながら、談話室に下りていった。
闇の魔術の防衛術の教室のドアは少し開いていた。
「ルーピン先生?」
は声をかけて中をのぞいた。
昨日、森で別れてから彼はどこに行ったのだろう?
そのとき、ドアが開いた。
「ハリー!ルーピン先生はどこなの?」
はうなだれて出てきた彼を驚いて見つめた。
「行ってしまったよ・・」
「何ですって?」
「たった今、辞職したよ・・朝一番の馬車で発ちたいんだって・・城門のとこにいるんじゃないかな?あっ、 ?」
ハリーが顔を上げるとそこには彼女の姿はなかった。
彼女は全速力で城内を駆け抜けていた。
彼女の目からは幾つもの涙が頬を伝って流れ落ちた。
飛ぶように廊下を駆け抜けていた。
「 ?」
廊下を曲がったところでスネイプに偶然出くわした。彼は何ともいえない複雑な表情をしていた。
彼女は涙を見られないようにグッと顔を背けて立ち去った。
玄関ホールを抜け、ようやく彼女は城門にたどりついた。
馬車が停車していた。ルーピンが今、まさにそれに乗り込もうとしていた。
「待って、待って、ルーピン先生!!」
彼女は大声を張り上げ、手を振った。
「 !?」
ルーピンは手に持っていた荷物を取り落とし、こちらをくるりと向いた。
彼女はがっくりとひざをつき、急ブレーキをかけて止まった。
「そんなに急いで大丈夫?」
彼女は呼吸が整うまでしばらく時間がかかった。
ルーピンは心配そうに彼女の肩に手をかけようとした。
「行かないで!!」
彼女はルーピンの首に手を回して抱きついた。
城門に隠れて、後から追いついてきたハリー、スネイプはその光景をばっちり目撃してしまった。
二人共次の言葉が出てこない有様だった。
「行かないで!先生は今までで最高の先生よ!」
は力強く言った。
「ハリーにもそう言われたよ」
ルーピンは彼女の腰に腕を回しながら耳元で優しく囁いた。
「どうして、どうしてお辞めになるのですか?訳を聞かせて下さい」
彼女 は納得がいかなかった。
「スネイプ教授が今日の朝食の席で私の正体をばらしてしまってね。それでとどまれなくなったんだ」
ルーピンは彼女をそっと離し、残念そうに言った。
「そんな・・なぜそんなことを・・」
は必死に涙をこらえながら言った。
「 ・・明日には親たちからのふくろう便が届き始める。ハリーにも言ったが、親たちは自分の子供が
狼人間に教えを受けることなど決して望まないんだ。わかってくれ」
ルーピンは彼女を蒼色の綺麗な瞳で見つめながら言った。
「そんなの分かりたくないわ!そんな理不尽な理由で辞めるんですか?狼人間というだけで先生が私達に
何をやったって言うんですか?吸血鬼だってマグルでもここの社会でも望まれない存在なのに!
だったら私も先生と同じように辞めなければいけないんじゃないんですか?」
は何とかルーピンを引きとめようと、少々我がままを言ってしまった。
「 、君の気持ちはよく分かるよ・・だが、君と私は少々立場が違うよ。君はまだ学ぶことが
沢山ある。辞めるなんて軽軽しく口に出してはいけないんだ。それに私が昨晩、君達を手にかけようとしたかとは許しがたいことだ。
運が悪ければ、誰か君たちを噛んでいて人狼にしていたかもしれないんだ。これ以上誰かに迷惑をかけるわけにはいけない。
ねぇ、わかってくれないかな?」
ルーピンは彼女の頬に手をかけ、ゆっくりとかみしめるように説明してやった。
「ごめんなさい、言い過ぎました。もう引きとめようなんて思ってませんから・・あの事があった後で先生はここに
いらっしゃるのはつらいんですね・・」
は涙を拭うとにこやかに微笑んだ。
「ありがとう・・おや・・雪だ・・夏なのに雪が降ってきたよ・・」
ルーピンは空を仰いで言った。
「綺麗・・」
も空を見上げた。
城門の陰に隠れていたスネイプ、ハリーも思わず、空を見上げてしまった。
雪はどんどん、どんどん降り積もり一面を銀世界に変えていく。
「ああ、上着を羽織ってこればよかったわ・・」
は歯をがちがち言わせながら言った。
「これで、暖かくなるかな?」
自分の隣りで空を仰いで粉雪をながめていた彼女の腕をルーピンは掴んで、強く抱きしめた。
は抵抗することなく、彼の心臓の力強い鼓動を聞いていた。
「しばらくお別れだ・・休暇にはルーマニアへ帰ってきてくれるね?」
ルーピンはを抱きしめながら、耳元でささやいた。
「もちろんです・・あ、でも先生はこれからどうされるんですか?お仕事とか?」
は彼の胸に身をあずけていたが、ハッと顔を上げた。
「 、そんなこと心配しなくていいよ。それにもう私は君の先生じゃないよ。辞めてしまったからね・・」
ルーピンはそっと彼女を離すと悲しそうに言った。
「じゃあ、リーマスって呼んでもいいですか?」
は少し恥ずかしそうに言ってみた。
「もちろん!最初からその名前で呼んで欲しかったな」
ルーピンは照れくさそうに頬を染めて言った。
「さて、そろそろ行かないと・・」
ルーピンは馬車に荷物を詰め込みながら名残惜しそうに言った。
「さよならリーマス。あ、ちょっとしゃがんでくれませんか?」
はそういうと馬車に乗り込もうとするルーピンを引き止めた。
「え、どうしてだい?」
「いいから早く」
はそっと顔を近づけ、かがみこんでくれたルーピンの頬にキスした。
今、この瞬間が彼への最高のプレゼントになるように願いながらの口付けだった。
ルーピンは何がなんだかわからないようであったが、次の瞬間
「じゃあ、お返し」と言って、彼女をさっと引き寄せて唇に軽くキスした。
「それは反則ですよ!」
は真っ赤になって叫んだ。
「そうかい?それはよかった!」
ルーピンは楽しそうに言うと、彼女から離れ、ひょいと馬車に乗り込んで素早く扉を閉めた。
そして馬車の窓から嬉しそうに彼女に小さく手を振り、にこにこと微笑んでいた。
「もう、油断も隙もない人なんだから・・」
彼女 はまだ真っ赤になって喚いていた。
やがて、馬車は動き出し、積雪した並木道を駆けていった。
(あの人にはかなわないな・・ファーストキスをああも軽々と奪ってしまうなんて)
はそう思って、ふと空を見上げた。粉雪が彼女を歓迎するようにちらちらと舞い降りてきた。
は両腕で自分を抱きしめると、いそいそと城門をくぐり玄関ホールへと駆けていった。
一部始終を目撃してしまったハリーとスネイプは、何ともやるせない気持ちでしばらくその場で固まっていた。