「おい、放せよっ!この馬鹿猫!」
「ロン、その子に乱暴しないで!」
「やめなさいってば!こらっ、 待ちなさいっ!」
グリフィンドールの談話室では一騒動が勃発していた。
ロンはスキャバーズをカバンに入れて、テーブルで宿題をしていたが、たまたまそこにいたハーマイオニ―のクルック・シャンクスが
カバン目掛けて飛びかかりメチャクチャに引っ掻き回した。スキャバーズは驚いてカバンから逃走、クルックシャンクスは
逃走するネズミ目掛けて猛ダッシュをかけた。
おまけに の腕に抱かれていた までが動き回る獲物に興奮し、彼女の腕の中で暴れた。
「あの猫をつかまえろ!」
ロンはやけくそになって叫んだ。
ジョージがクルックシャンクスを捕まえようと手を伸ばしたが、取り逃がした。
その後二十人の又の下をすり抜け、猫はネズミを追って、大滑走した。
「あ〜もう、早く捕まえないとこの猫まで一緒に追っかけるわ!」
も暴れる飼い猫を必死に押さえつけながら言った。
「ハリー、死んでも放さないでね!」
このままではらちがあかないと思った は を近くにいたハリーに投げた。
「わっ!」
驚いてのけぞったものの、ハリーは猫をしっかりと受け取っておさえた。
彼女 はそのまま寮の入り口に走って、無謀を覚悟の上で視界に飛び込んできたクルックシャンクスの尻尾をしっかりと捕まえた。
猫が何事かと、くるりと後ろを振り向いたとき、一瞬の隙をついてロンがスキャバーズの尻尾をつかんで捕獲した。
「サンキュー、 。助かったぜ。」
ぜいぜい息をはずませながら、ロンはお礼を言った。
「はいはい、どうも。おかげで血だらけだわ。」
は暴れるクルックシャンクスをブスッとした顔でハーマイオニ―に引き渡しながら言った。
「うわ・・すっごい引っかき傷出来てるよ」
ハリーはようやくおとなしくなった を抱えての側に駆け寄って呟いた。
彼女の腕や顔は二匹の猫によってつけられた引っかき傷で、ところどころ血が滲んでいた。
「見ろよ!こんなに骨と皮になって!その猫をスキャバーズに近づけるな!」
ロンはかんかんになって、スキャバーズをハーマイオニ―の目の前にぶら下げた。
「クルックシャンクスにはそれが悪いことだってわからないのよ!ロン、猫はネズミを追うもんだわ!」
ハーマイオニ―は負けじと声を震わせながら言った。
それから二人のケンカは延々と続いた。
「いいか、こいつの方が先輩なんだぜ。その上、スキャバーズは病気なんだ!!」
納得のいかないロンは階段を上り、男子寮のドアを力いっぱいしめた。
「みなさん、ハロウィーンまでにホグズミード行きの許可証を私に提出すること。
許可証がなくてはホグズミードには行けません!忘れずに出すこと!」
ある日、マグゴナガル教授は授業の最後にグリフィンドールの生徒達に呼びかけていた。
ハリーはみんながいなくなるのを待ってから、マグゴナガル教授におじ、おばが許可証にサインをするのを忘れたこと
自分の親戚はマグルでホグワーツや許可証のことを理解していないことを話してみた。
だが、マグゴナガルは保護者のサインなくしては認められないと残念そうに告げて話を断ち切った。
彼はがっくりとうなだれていた。
「がっかりしないで、ハロウィーンには大広間のご馳走があるわ」
ハーマイオニ―が談話室に戻ってきたハリーを慰めた。
「そうだよ。ご馳走があるぜ」
ロンも力強く言った。
「うん、素敵だよ。」
彼はは暗い声で応じた。
「大丈夫かい?君さっきからセキばっかしてるぜ。」
ここでロンが心配そうにの顔を覗き込んだ。
「大丈夫どころじゃないわ!まあ! 、あなた熱があるわよ!」
ハーマイオニ―がギョッとなっての額に手を当てた。
「えっ?何で今まで医務室にいかなかったんだい?」
ハリーは驚いて言った。
「だって、さっきまで熱なかったし、医務室へ行ったら、授業何科目か休まなきゃいけない・・」
最後の言葉を言い終わるか言い終わらないうちに、三人は無言で、彼女を引っ張って医務室に向かった。
「フ〜ム。今の時期は急激にグッと冷え込みますからねぇ。こういう患者さんは多いんですよ」
マダム・ポンフリーは体温計で彼女の熱をはかるとため息をついた。
他のベッドを見渡してみると、よりひどい風邪の下級生が何名か激しく咳き込んでいた。
「それにしても、あなた、もっと早く来るべきでした!このぶんだとホグズミードには行けなくなるかもしれませんよ!」
マダムは氷枕らしきものを の頭の下にひきながら言った。
「ゴホゴホ、ケホ・・そんなゴホゴホ」
は激しく咳き込みながら言った。
「無理にしゃべらなくてもよろしいですよ。とにかくこの患者さんには休養が必要です!さあ、あなた達、この患者さんの風邪が
移る前にお帰りなさい!」
「え、あの・・ちょっと」
三人が異議を申し立てる前にマダムは三人を医務室の外に追い出した。
「あの分じゃとてもじゃないけどホグズミード行きは無理だわね」
ハーマイオニ―がもっともらしいことを言った。
「ハリー、もしかしたら には気の毒だけど君と同じ境遇の人が当日でてくるかもしれないぜ。」
ロンは慰めるようにハリーに言った。
「ホグズミードに行く生徒は許可証をもってついて来い!!」
フィルチが玄関ホールで集まった生徒に呼びかけていた。
「ハニー・デュ―クスからお菓子を沢山買ってきてあげるわ。」
「それに、は残るそうだから彼女に会いに行ったら?」
玄関ホールまで見送りにきたハリーにハーマイオニ―とロンは心底気の毒そうな顔をして言った。
「そうだね・・僕のことは気にしないで。楽しんでおいでよ」
ハリーは精一杯平気を装い、落胆ぶりを隠そうとしていた。
「 、いる?」
「ハリー!」
彼はロンの言葉どおり、真っ先に医務室に向かった。
彼女はハリーの姿を見ると、ベッドから跳ね起き、ちょっと気の毒そうな、だが、すぐに嬉しそうな顔をした。
「ポンフリー先生はいる?」
彼はベッドの端に腰をおろすと尋ねた。
「ポンフリー先生なら患者が私一人だけだからどっかに行っちゃったわ。それに先生は熱も下がってるし、もしよかったら
午後から退院してもいいって言ってくださったわ。で、今何時?」
はそこでハリーに時刻を尋ねた。
「えー、ああ、今ちょうど11時30分だね。」
ハリーは医務室の柱時計を見上げて言った。
「そう?じゃあ、もう退院してもいいってことね。あ〜あ、ハリー退屈ね。そうだ、生徒のほとんどはホグズミードでしょ?
今日はどうせ授業が全然ないし、どこかに行きましょうよ!ああ、善は急げよ、じゃあ今からパジャマを着替えるから外にでててよ!」
「はいはい」
はにっこりと微笑むとカーテンを閉め、ハリーを追い出した。
10分後、ボサボサの髪をきれいに梳かし、私服のスマートな茶色のジャケットに中に白のタンクトップを着込み、ブルーのタータン・チェックの
丈は少し膝上ぐらいまでのスカートを着用した彼女 がカーテンの中から出てきた。
「それじゃ行こうか?」
ハリーは久しぶりに目にした彼女の私服姿にどきまぎしながら、彼女の手を取った。
二人はそれからあてどもなく誰もいない廊下を歩き回った。
一階、二階、三階、いくらでも見る価値のあるとこはあった。
「どうする?ふくろう小屋に行こうか?」
四階まできたとき、ハリーは彼女に問いかけた。
「そうね、もう見るものは何もないし・・」
はちょっと考えてから言った。
「ハリー、それに?」
その時、ある部屋の中から声がした。
「ルーピン先生!!」
たちまちは嬉しそうな声を上げた。
教授が自分の部屋のドアの向こうから覗いていた。
「何をしてるんだい?二人共?」
「ロン、ハーマイオニ―は?」
ルーピンが不思議そうに聞いてきた。
「ホグズミードです。私も行く予定だったのですが、あいにく風邪をこじらせて寝込んでしまって。ポンフリー先生からやっと今日の午後
退院許可をもらってきたばかりなんです。」
横で言い出しにくそうなハリーを気遣って はルーピンに説明してやった。
「ああ、そうだったのか」
ルーピンは納得しながら、じっとハリーを観察した。
「ちょっと中に入らないか?今日は授業がないだろう。紅茶でもおごってあげよう。どう?」
「ええ、是非」
朝から何も食べてない は喜んでハリーをルーピンの部屋の中に引っ張り込んだ。
「今、この部屋を整理してたらいろんな骨董品がでてきたんだ。たぶん歴代の先生方が残していかれたり、寄付されたものだと思うけど」
ルーピンはそういいながら、お茶の用意をし、二人の前に縁のかけたマグカップをおいた。
「あっ、そうだ、今日ハグリッド教授が私にフルーツ・ケーキを持ってきてくれたんだけど食べないかい?」
「いただきます」
ハリーはぎこちなく答えた。
「骨董品の中でもすごかったのはこれ、持ち運びできるクラヴィーア。
隅の方で茶色のカバーで覆われてたから今まで気づかなかったんだけど・・
音は出るかな?」
ルーピンはカバーを取り、年代物のクラヴィーアの前に椅子を引き寄せて座り、ポ―ンと鍵盤を叩いて、一つ、一つ音を確かめ始めた。
ハリー、 は美味しいケーキを頬張り、最後にお茶を飲んだ。
彼はこのときまでにいろいろな心配事をかかえていたが、 、ルーピンと一緒にいるだけでディメンターのことも束の間、忘れていられた。
「オッケー、音は全部でるみたいだ」
ルーピンがクラヴィーアの影から顔を出し、二人ににっこりと微笑みかけた。
「何か弾いて下さい。先生、弾けるでしょう?」
「そうですよ。ホグズミードへ行けない僕たちのためにお願いします」
、ハリーは目をきらきらさせて、彼に頼み込んだ。
「しょうがないな。じゃあ1曲だけ」
そういうとルーピンは鍵盤に手をかけ、「I think i love you」という曲を弾きだした。
鈍い音が軽く部屋に響き渡った。テンポが緩やかな可愛らしい曲だった。
「すごく良かったです!」
ハリーと は演奏が終わると、そろって拍手した。
「そう?それはよかった。ところでハリー。彼女の演奏の腕もなかなかのものだよ。聞いてみたくないかい?」
ルーピンがハリーの側にやってきていたずらっぽく言った。
は内心焦りだして「無理ですよ」と断った。
「ええ、是非聞きたいです」
ハリーは何でルーピンが彼女がピアノを弾けるのを知っているのかという疑問を
抜かして、にやりと彼に向かって共犯者の笑みを浮かべた。
「しょうがないな・・じゃ、一曲だけね」
彼女 は共犯者二名の笑みに落とされて、クラヴィーアの鍵盤に手をかけた。
そして、「Perhaps Love」と言う曲を弾きだした。
この曲も可愛らしい曲で部屋全体が春の陽気に包まれる感じだった。
ルーピンとハリーは目を閉じて、この可愛く、暖かい曲にゆっくりと時の流れに身を任せ、聞き惚れていた。
また、この部屋の外では脱狼薬をもってきたスネイプも戸口に突っ立ったまま目を閉じ、彼女の奏でる旋律に耳を傾けていた。
「すごいよ、。君にこんな才能があったなんて!」
「ね、言っただろう?彼女の手腕はすごいってね。プロも顔負けだ。」
演奏が終わると、ハリーは感激し、ルーピンは拍手を送った。
ちょうどそのとき、ドアがノックされた。
「どうぞ」
ドアが開いて戸口で立ち聞きしていたスネイプがようやく入ってきた。彼は湯気の立つゴブレットを手にしていた。
「ああ、セブルス」
ルーピンが笑顔で言った。
「聞いていたのかい?彼女の演奏を」
「何のことだ?」
「惚けるなよ。君が戸口にだいぶん前から立っていたのは分かっていたんだよ」
「狼男め、さすがに耳がいいな」
「なかなか上手だろう?」
「ま、まあな」
ルーピンはヒソヒソとスネイプの耳元でハリーと に聞こえないようにしゃべった。
スネイプは近くのデスクにゴブレットを置き、二人に交互に目を走らせた。
あいも変わらずの仏頂面のスネイプは出て行く前にハリー、ルーピンを見据え、それからの私服姿を
じろりと眺め回すように見た後、密かにほくそえんで出て行った。
彼が出て行った後、 は急に寒気が襲うのを感じた。
「大丈夫?」
くしゃみをした彼女を見て、ルーピンとハリーが心配そうに声をかけた。
「ええ、まあ、ちょっと急に寒気がして・・」
は鼻をこすりながら、いつもとは違うスネイプの視線に恐怖を覚えた。
(なんなんだろうあの舐めまわすような視線は?ああ〜やだやだ!)
彼女 にはそうとしか思えなかった。
(セブルス、そうか、君も彼女のことが・・)
(スネイプの奴、彼女をくまなく見てた・・あいつ・・もしかして・・)
こちらではルーピンとハリーは胸中で小さな怒りがこみあげるのを感じていた。
「どうしたんですか?二人共、顔が怖いですよ」
は今度は別の恐怖を感じながら言った。
「え?いやぁ〜何でもないよ」
「僕は普通だよ」
「そ、そう・・ならいいけど」
彼女ははルーピンとハリーの顔に笑みが浮かんだのを確認するとホッとした。
「うわ〜苦いな。」
ルーピンがゴブレットの中身を一気に飲み干し、思いっきり顔をしかめた。
ハリーと が怪訝そうにゴブレットを見ていたので、ルーピンは説明してやった。
「スネイプ先生が私のためにわざわざ薬を調合してくださったんだ。私はどうも昔から薬を煎じるのが苦手でね。
これは特に複雑な薬なんだ。このごろ、どうも調子がおかしくてね〜この薬しか効かないんだ。
彼と同じ職場で仕事が出来るのは本当にラッキーだ。これを調合出来る魔法使いは少ないんだ。」
ハリーはゴブレットを先生の手から叩き落したい激しい衝動に駆られた。
はテーブルに置いてあった水差しを取り上げ、苦さで顔をしかめているルーピンに手渡した。
「ああ、ありがとう。 」
ルーピンはグラスを彼女の手から急いで受け取ると飲み干した。
「ルーピン先生、ご存知ですか?スネイプ先生は闇の魔術にとっても関心があるんですよ」
ハリーは思わず口走っていた。
「そう?」
ルーピンはたいして気にも留めずに言った。
「スネイプ教授は「闇の魔術の防衛術」の座を手に入れるためなら何でもするだろうって噂です」
ハリーは思い切って言った。
もそういう噂を聞いたことがあるので、ハリーの言ったことに協調した。
「ひどい味だったなぁ。さあ、ハリー、。もう黄昏時だ。そろそろ夕食の時間だ。あとで宴会で会おう。」
ルーピンはそういうと、いまだに顔をしかめながら水差しを傾け、グラスに水を注ぎながら二人を帰らせた。
「はい、二人共持てるだけ持ってきたんだ。」
「すごいじゃない。このヌガー美味しそう」
「こっちのキャンディも美味しそうだね」
ロンとハーマイオニ―は夕食時、大広間のテーブルでハリーと にホグズミードから山ほどのお菓子の箱を持って帰ってきてくれた。
二人は寒風に頬を染め、人生最高の時を過ごしてきたかのような顔をしていた。
それから二人はえんえんとホグズミードのことについてハリーとにしゃべった。
「バター・ビール?えっ、それってお酒じゃないの?」
「違うよ。ビールに似た甘い飲み物だよ。体が心から暖まるんだ」
「へ〜、それは是非飲みたいわね〜」
こちらのテーブルではロンが にうきうきと説明していた。
「ねえ、あなたは何をしていたの?」
ハーマイオニ―が心配そうにハリーに尋ねた。
「 を医務室に迎えに行ってさ、それからルーピン先生の部屋でお茶をご馳走になったんだ。ああ、そこへスネイプが来てね・・」
ハリーはハーマイオニ―、そして としゃべっていたロンにゴブレットのことを洗いざらい話した。
「マジで?ルーピン先生がそれ飲んだの?」
ロンが思わず息を呑んだ。
「ええ。まあ、そうだけど・・」
が答えた。
「まさか、毒なんか入ってないよな?だってスネイプならやりそうだと思わないか?あいつはずっと闇の魔術の防衛術のポストをねらってて、
三年連続逃してるんだ。一年目はクィレル、二年目はロックハート、三年目はルーピン教授に奪われた」
「ちょっとロン、言い過ぎよ。いくら何でもスネイプ先生がそんなそら恐ろしいことやると思う?」
「そうよ、もし、スネイプが本当にそのつもり―――ルーピン先生に毒を盛るつもりだったら―――ハリーや の目の前では
やらないでしょうよ。」
とハーマイオニ―は大広間でハロウィーンのご馳走のカボチャパイを口に入れてから、声を落として反論した。
「ねえ、 。ハーマイオニ―はともかく、何でスネイプのことそんなにいいように考えてるの?
授業中のあいつの僕たちやネビル、その他グリフィンドール生に
対する態度はひどいよ。しかも、あいつには色んな黒い噂が飛び交ってる。
僕やハリーはとてもじゃないけどあいつがいい奴だとは思わない。ほ
んっとにやな奴だよ。なあ、そうだろハリー?」
ロンが力説してに言った。
「そうだよ、僕、スネイプがルーピン先生に渡したゴブレットをあの時どれほど叩き落としたいと思ったか!
本当に僕の目の前でルーピン先生が苦しみだすんじゃないかって思ったんだ。」
ハリーも悲痛そうに言った。
「もうこの話はやめましょう。どっちにしろルーピン教授はほらあそこ、教職員の席に居るし、元気そうじゃない。
ほら、ハリー、 、ロン、アップルサイダーのお代わりはいる?」
ハーマイオニ―はロン、ハリーが に反論したところで、この論争を無理やり打ち切らせた。
「なあなあ、ゾンコの店へ行ったか?あそこほど面白いもんはないぜ」
「ねえ、ハリー。ハニー・デュークス店のチョコレートは中に一杯クリームがつまってるんだ・・」
ハリー、ロン、ハーマイオニ―、 、は、途中で一緒になったネビル、ディーンと共に大広間を抜け、
グリフィンドール寮への階段を上っているところだった。
「おい、何で皆入らないんだ?」
ロンが太ったレディの肖像画前に沢山の人垣ができているのを見て、怪訝そうに言った。
「通してくれ、通してくれ、何をやってるんだ。合言葉は言ったのか?僕は首席だ!」
パーシーが偉そうに人波を掻き分けて、階段を上ってきた。
「何だこれは!?何があったんだ?」
パーシーは肖像画を一目見ると、驚いて、あとずさりした。
「誰か、早く先生を呼んでくるんだ!」
パーシーは慌てて生徒たちに命じた。
「あ、ジニー!いったいぜんたい何があったの?」
が人垣の真中につったていたロンの妹を見つけ、声をかけた。
「あっ、お姉さん、太ったレディの肖像画が・・」
「どいて、ちょっとどいて!あ、ええっ!?」
は隣りにいたハーマイオニ―の腕をつかみ、無理やり人込みを押しのけ、太ったレディの肖像画の前に出た。
「なんてこと・・」
ハーマイオニ―は絶叫して をつかんだ。
「どうしたのじゃ?」
ちょうどその時、騒ぎを聞きつけたダンブルドアとフィルチが階段を駆け上ってきた。
「レディはどこじゃ?」
ダンブルドアは鋭利な刃物でメッタギリにされた太ったレディの絵のキャンバスの切れ端を持ち上げ、
レディがそこに隠れていないか入念に調べた。
「校長、探す必要はありません。レディはあそこの風景画の中です。」
フィルチが古びたランプをかかげ、一枚の絵を指差した。
「おお、おお・・」
校長が近づくと太ったレディはおそるおそる涙で濡れた顔を上げた。
「レディよ。あなたをこんな目に遭わせたのは誰じゃ?」
校長は動揺しているレディを気遣い、優しく、ゆっくりと問いかけた。
「おおお、あの恐ろしい目、皆が噂されているとおりですわ。骸骨のような顔、シリウス・ブラック・・ですわ。」
レディは頭に被ったオリーブの冠を押さえながら、悲鳴に近い声でガタガタと振るえながら答えた。
「シリウス・ブラックがこの城の中に!?」
レディの告白を聞いた生徒達はパニックに陥った。
ダンブルドアはすぐにグリフィンドール生全員に大広間に集合するように命じた。
十分後、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンの寮生もみな当惑した表情で広間に集合した。
「気の毒じゃが、今夜はここに泊まることになろうぞ。皆の安全のためじゃ。監督生は大広間の入り口に立ってもらおう。
首席の二人にここの指揮をまかせようぞ。」
ダンブルドアはそう生徒らに告げると、杖を一振りし、何百個の寝袋を出した。
「行こうぜ」
ロンが 、ハーマイオニ―、ハリーに呼びかけ、四人はそれぞれ寝袋をつかんで隅の方へひきずっていった。
「ねえ、ブラックはまだ城の中だと思う?」
ハーマイオニ―が心配そうにささやいた。
「たぶんな。まだ居るに違いないよ。」
隣りに寝ていたロンが答えた。
「 はどう思う?」
「わからないわ。これだけ監視体制が厳しくなったのよ。とっくに城から逃亡してるかもしれない。」
素早く彼女の隣りに場所を取ったハリーが聞いてきた。
「校長!」
スネイプだ。数十分経過したとき、大広間では生徒のおしゃべりは次第に一つ、また二つと消えていき、
いつの間にかハーマイオニ―、ロンも眠りにつき、
ハリーと だけがまだ起きていた。二人は耳をそばだてた。
「四階、地下牢、天文台、ふくろう小屋、ルーピン教授、トレローニ教授の部屋をくまなく探しましたが、奴はおりません」
「ご苦労じゃった。セブルス」
「ところで、校長、奴がどうやって入ったかご存知ですかな?」
「セブルス、この城では姿あらまし、姿くらまし、その他の様様な呪文はこの城では使えぬ。どれもこれも皆ありえないことでな」
「校長、我輩はルーピン教授の着任の件についてはご忠告を申し上げたはずですが・・」
ここでスネイプは校長の耳元でヒソヒソと普通の人間が聞こえないぐらいの声でしゃべった。
「どうも彼がブラックを手引きしている可能性が考えられますが」
「セブルス、わしはルーピン教授がブラックの手引きをしたとは、考えておらん」
ダンブルドアはきっぱりとスネイプに断言した。
聞いてしまった。ハリーにはとても聞こえない小さな声でも には全て聞こえてしまった。
吸血鬼の能力の、異常なほど良い視力、聴力のおかげである。
普段、彼女の耳にはアリの足音が、象の足音に、猫の鳴く声がライオンの鳴く声に拡声されて聞こえた。
「そんな・・まさか、・・嘘よね?」
は少しショックを受けていた。
「どうしたの?スネイプが何ていってたか聞こえたの?」
横に居たハリーが聞いてきた。
「き、聞こえるわけないじゃない。あんな小さな声。もう寝るわ。疲れたの」
彼女はフーンとハリーに背を向けて寝てしまった。
「 、僕は不安でしょうがないんだ。だから、今夜だけ、今夜だけ、せっかく一緒に寝れたからこうやっていたいんだ」
彼女の小さな寝息が聞こえてきたのを確認するとハリーは後ろからそっと彼女を抱きしめた。
「髪、だいぶ伸びたね・・」
ハリーは彼女の無造作に垂れている心地よい香りがする髪に顔をうずめ、眠りに落ちた。
翌日、闇の魔術の防衛術の教室のドアが乱暴に開けられた。
「394ページを開きたまえ!!」
スネイプは全ての窓を乱暴に閉めると、教卓の前に立った。
「すみません、先生。あの、ルーピン先生は?」
ハリーは勇気をだしてこの教授に尋ねた。
「ルーピン先生は今日は気分が悪く教えられないとのことだ。」
途端にスネイプの口元にゆがんだ笑いが浮かんだ。
「どうなさったんですか?」
しつこくハリーは食い下がった。
「命に別状はない。貴様には関係のないことだポッター。394ページを開け」
スネイプは最後にハリーを威圧するように睨み付け、教卓の方へ歩いていった。
「ルーピン教授はこれまでどんな授業をやったのかね?」
「先生、これまでやったのはボガ―ト、レッドキャップ、河童、グリンデローです。」
ハーマイオニ―が一気に言ってのけた。
「だらしない・・未だにこの程度の授業しか行ってなかったのかね。レッドキャップや水魔など1年でもできることだろう。
いいか、我々が今日学ぶのは・・」
「人狼である」スネイプはハーマイオニ―の発言を見事に無視して告げた。。
「でも、先生、まだ狼人間までやる予定ではありません。これからやるのはヒンキー・バンクで・・」
の隣に座っていたハーマイオニ―が我慢しきれずに発言した。
「ミス・グレンジャー。君がこの授業を教えているのかね?現在、我輩が教えている限り、今後、そのようなでしゃばった発言は禁止する。
さあ、諸君、394ページを開け!」
スネイプは全員に言い渡した。
はあまりの傲慢ぶりに頭に来て、思わず何か言い返そうとしたが、それに気づいたハーマイオニ―が彼女の足をすかさず踏んづけた。
「言わせてよ、あの先生、我慢がならないわ。」
「お願いだから、あなたは黙ってて!」
スネイプを睨みつけている にハーマイオニ―はぴしゃりと釘をさした。
「人狼と真の狼とをどうやって見分けるかわかる者はいるか?」
スネイプが聞いた。
ハーマイオニ―の手だけが挙がった。
「誰かいるか?」
スネイプはまたハーマイオニ―を無視した。
「おやおや三年になって人狼の見分け方の出来ぬ生徒にお目にかかろうとは・・」
スネイプは哀れむような、小ばかにしたような笑いを浮かべた。
「先生」ハーマイオニ―はまだしっかりと手を上げたままだった。
「狼人間はいくつか細かいところで本当の狼と違っています。狼人間の吠える声は・・」
「アオ――ン!!」
「有難うマルフォイ」
スネイプは厳かに言った。
ハーマイオニ―の発言の途中でドラコがふざけて、狼の遠吠えの真似をしたのだ。
「スネイプ先生、今のジェスチャーだけじゃ分かりにくいと思いますけど・・」
それを聞いた は実ににこやかに微笑んで挙手した。
「何がいいたいのかね?」
彼女の微笑みに少し顔をほころばせながら、スネイプはしょうがない、言ってみろというような表情をした。
「狼の吠え声は荒く、猛々しいです。しかし、狼人間の声は真の狼と比べ、やや荒く、どこか物悲しげに鳴くのが特徴です」
ここで
はわざとらしく情感をこめて発言してやった。
「微妙なところだが、それでだいたい正解である。諸君、今のを書き留めておくように」
スネイプは嬉しそうに生徒たちに命じた。
「グリフィンドール、スリザリン、5点追加。」
彼は先ほどの出来事で気を良くし、二つの寮に得点を与えた。
「狼人間は満月の光を浴びると、変身し・・」
それからスネイプの一本調子の講義は延々と続いた。
「以上、授業はここまでだ。各自レポートを書き、我輩に提出するよう、人狼の見分け方と殺し方についてだ。
羊皮紙二巻き分、月曜の朝までに提出したまえ」
「何だよ、あれ、あんなに威張りやがって・・。」
グリフィンドール生は授業終了後、足早に教室を後にし、ぶつぶつとスネイプに対する不平不満をぶっつけた。
「いくらあの授業の先生になりたいからといって、スネイプは他の防衛術の先生にあんなふうだったことはないよ。
いったいルーピンに何の恨みがあるんだろう?」
ハリーはハーマイオニ―に言った。
「わからないわ。でも早くルーピン教授が元気になって欲しい。」
彼女が沈んだ口調で答えた。
「ざまーみろ。スネイプから はあの授業のなかで10点もあいつから得点を巻き上げたんだ。」
「すごいよ、 、僕もスネイプ先生には我慢ならなかったんだ」
「私もよ、分かる? あのねっとりした口調で嫌みったらしく1時間!絶えられないわ。」
「バーバティ、分かるわ。あーあルーピン先生早く元気にならないかな・・」
はロン、ネビル、バーバティ、ラベンダー、他のグリフィンドール生からやんや、やんやの喝采を受けていた。