アズカバンを脱獄したシリウス・ブラックは追われていた。

一つは魔法省と吸魂鬼に。もう一つは野良犬の群れに。

今から6日前、アズカバンを脱獄し、北へ向かう旅の途中、シリウスはちょうど、プリペッド通に差し掛かり

そこでダーズリ―家を家出してきたハリー・ポッターに出会った。

ハリーは茂みからでてきたシリウスを見て、恐ろしさのあまり腰をぬかした。

なにせ、今のシリウスは大きな黒犬の姿に変身していたからである。

シリウスは一目、ハリーを見て、それからアズカバンを出て何も食べていないことに気づいた。

しかし、脱獄囚として手配中の今、商店にどうどうと飛び込んで食料など買えるわけがない。

仕方なく、犬の姿に変身し、ロンドンの中国人街の料理店から唐揚げをかっぱらってきて公園のベンチで食べていた。

だが、運悪くそこは夜になると野良犬グループの縄張りと化す場所だった。

そんなことを何もしらないシリウスはまんまと縄張りに足を踏み入れてしまい、たちまち野良犬の群れに取り囲まれた。

野良犬の群れはたちが悪く、侵入者のシリウスを半殺しにしようと襲いかかってきた。

彼はひらりと身をかわし、もときた道を全速力で逃走した。

何度振り切っても、振り切っても、10匹ぐらいはいるらしくしつこく追っかけてくる。

そのうち、シリウスはロンドン郊外の幽霊屋敷と呼ばれている無居住の地域に足を踏み入れた。


「サロルタ、もうすぐよで屋敷につくわ」

「うわ〜すごく古いお屋敷ね」

「奥様、嬢様、私はここで使っていただけるだけで十分ですわ」


曲がり角から、 、ミナ、そして、新しく雇ったハンガリー人侍女のサロルタ・マイラートがスーツケースを抱えて歩いてくる。

今年はイギリスの屋敷で過ごすらしい。

「静かに。何かが近づいてくるわ」

ミナが二人に歩くの止めさせた。

」弱視のサロルタが不穏な気配を察知し、悲鳴を上げた。

、サロルタをお願い。」

ミナはそういうと、彼女達を自分の後ろに下がらせた。

来た、来た、野良犬の群れがこちらに向かってすごい勢いで押し寄せてきた。

先頭はシリウス・ブラック(黒犬)だ。追っかけてる連中とはわずかな距離しか離れていない。

「座れ!!」

ミナは野良犬の群れに凄みを利かせ、大声で叫んだ。

すると地面が陥没したかと思う凄い音がして、シリウスを追っていた連中が次々に地面に叩きつけられた。

肝心の黒犬はその場にぶっ倒れ、弱弱しく頭を持ち上げて、ミナや 、サロルタを見上げて鳴いたあと、完全にこときれた。

他の野良犬連中はようやく息を吹き返すと、恐ろしさの余り狂ったようにちりじりになって逃走した。

「この犬、死んだの?」

騒ぎが収まると は侍女の影からひょっこりと顔を覗かせた。

「いいえ、死んでないわ。まだ息をしてるもの」

ミナが黒犬の側に素早くかがみこみ、胴に耳を押し付け心臓の鼓動を聞いた。

「この犬、野良犬なんですか?」

弱視のサロルタが懸命に目を細めながら、犬を観察した。

「ええ、そうみたいよ。でもなんだかあのたちの悪い野良犬の群れがこの犬を追っかけてたみたいに見えたけど」

ミナが言った。

「助けてあげられませんか?」

「そうよ、このままここへほっぽリ出してたら死んじゃうわ」

サロルタと はさっきからぴくりとも動かない犬を見て、懇願した。

「しょうがないわ。私だって見捨てておけないもの。じゃあ、サロルタ。そっと持ち上げるわよ。せーの」

ミナが声をかけ、サロルタと共に犬の体を持ち上げ、目の前の自分達の屋敷の中にかつぎこんだ。

「サロルタ、急いで厨房に行って来て卵とブランデーを持ってきてちょうだい」

「はい、奥様」

ミナの言葉を聞くや否や彼女はすっ飛んでいった。

「ずいぶん弱ってるわ。うわ、あばら骨が浮き出てる。ろくに何日も食べてなかったようね。」

ミナが犬の胴体に手を触れたとき、ごつごつとした感触だけが伝わるのが分った。

。綺麗なタオルに水をしみこませて持ってきて。これで体を拭くわ。」

「は〜い」 は洗面所にすっとんで行った。

「もう少し、もう少し、お願いだから飲み込んで」

ミナは根気よく犬の喉をさすり、サロルタが持ってきた食べ物を飲み込ませようとしていた。

だが、犬は衰弱が激しく、飲み込む力もないようだ。

はたまりかねて、犬を自分の膝の上にのせ、口をあけさせスプーンの中身をたらし、喉をさすってやった。

すると、ようやく犬は飲み込んだ。

「よかったわ〜」

その場にいる女性達は安堵し、感嘆して、長い息をついた。

「水は?」

ミナが聞いた。

「はい、ここにあります、奥様」

サロルタは恭しく水差しを差し出した。

ミナはそれを容器に移し、スプーンですくい、何度も、何度も犬の口に流し込んでやった。

犬はそれから四日間、居間の敷物の上にぐったり横たわっていた。

はかがみこんで撫でてやりたかったが、そっとしておいてやった。

5日目、 が敷物のところに歩いていくと、横たわっていた犬が尻尾を振るような動作をした。

6日目にはミナがボウル一杯の入れたてのジャージー乳を持っていくと、黒犬はよろよろと身を起こして待っていた。

そして、ボウルに頭を突っ込み、あばら骨のでた横腹をふるわせながら、ぴちゃぴちゃとミルクをなめた。

ミナと様子をみていた は安堵のため息をもらした。

それから数日後。

が新学期の準備のため、ダイアゴン横丁へ行き、買い物をして帰ってくると

、完全に回復した黒犬が思いっきり飛びついてきて、 を床に押し倒した。

「もう・・くすぐったいよわんちゃん・・」

そのまま床に倒れている を黒犬はベロベロと舐め始めた。

「やだ、もういいかげんに離れて。でもよかった、元気になったのね」

黒犬はしきりに尻尾をパタパタと振って喜びを表した。

ここではようやく起き上がり、黒犬を引き剥がした。

「その黒犬、よっぽど が気に入ったみたいね。だって私にはそんなに飛びつかないわよ」


ミナがダイニング・テーブルにお昼を並べながらクスクスと笑った。

「で、ハリーには会えた?」

ミナがほかほかのパン籠に手を伸ばし、焼きたてのパンを一つ取りながら聞いた。

「うん、何かね、今年は叔母さんを風船のように膨らませて、家出してきて漏れ鍋に泊まってるんだって。

すごいと思わない?」

「え、どういうことなの?」

ミナは不思議そうに鶏肉の揚げ物にナイフを入れながら聞いた。

「え〜、ほら、ハリーの叔父さんと叔母さんといとこってとっても意地悪なんですって。去年なんか部屋に監禁された上に

 食事を何日もろくに食べさせてもらえなかったって聞いたの。

 で、今年はマージ叔母さんとか言う人に自分の両親のことをけちょんけちょんに、けなされて

 それでぶち切れて、叔母さんを膨らませてお空に飛ばしたらしいの」

その時、 の隣りでおすわりしていた黒犬の耳がビクッ、ビクッと激しく動いた。

「はい、ワンちゃん。これいる?」

はここで鶏肉の塊を一つ切って犬の口に持っていった。

犬はさっきまでの動作はどこへやら目の前のご馳走にかぶりついた。

「いろいろ大変だったのね、彼も」

ミナはハリーが3年前会った時に、あんなにがりがりに痩せていたわけがようやく分かったような気がしたらしい。

「それからねぇ、パーラーでロンとハーマイオニ―がデートしてたわ。」

は嬉しそうにクックと笑った。

「可愛いわね。そういや やハリーもそんなお年だったわね・・」

ミナはにっこりと微笑んだ。

さっきからハリーの名前が出るたびに黒犬の耳がぴくぴくと動いていた。

「それからねぇ・・」 はべらべらとロン、ハ―マイオニ―、ハリーの事をくっちゃべった。

「ハーマイオニ―ったら巨大な赤猫をペットショップで買ってたわ。何でも私の猫を見て自分の猫が欲しくなったんですって」

彼女が言っている側からクリーム色の猫が黒犬の側に来た。

「おいで、ほら、鶏肉だよ」

は愛猫 の口に鶏肉の小さな塊を突っ込んでやった。

猫は満足そうに喉を鳴らすと黒犬にすりすりと体をすりよせ、その場に座り込んで毛づくろいを始めた。

猫の長い尻尾が黒犬の鼻をくすぐり、犬は立て続けにクシャミをした。

「シリウス・ブラックは今だ逃亡中です。見かけたかたは特設ホットラインへ・・」

居間の中央に設置してある液晶テレビからBBCのお昼のニュースが流れてきた。

ミナと はギクッとし、一瞬顔が曇った。

二人とも、シリウス・ブラックは母エイミーのまた、ルーピンの友人だと知っているからだ。

「ね、ねえそういえばルーピンさん元気??お仕事見つかった??」

がデザートのタピオカ・プディングをスプーンで1さじすくいながら慌てて言った。

「ああそうそう、聞いて驚かないでよ!!彼は今年からホグワーツで働くことになったわ!!」

ミナは元気よく言った。

「ええ?まさか闇の魔術の防衛術の先生に!?」

たちまち の顔がパアッと輝いた。

「ご名答。実は私が職探し中のリーマスにこの職を勧めたの。」

「ダンブルドア先生に私が彼を推薦してみたの。そしたら即オッケーの返事が来てね。

リーマスもだいぶん前から新聞広告の募集を見て、応募してたんだけど」


「よかったじゃない。ホグワーツって彼が卒業したところでしょう?それにルーピンさんって教師に向いてそう!」

はにんまりとし、歓声をあげた。

黒犬もこの件に関しては嬉しそうにパタパタと尻尾を振っていた。


そして、その夜。

は珍しく悪夢にうなされていた。

「やめて、リドル!」 はベッドで激しくのたうちまわり、大声を上げた。

その声で のベッドの下で寝ていた黒犬がビクッと完全に目を覚ました。

「ルーピンさんは関係ないでしょう!殺すのなら私を殺して」

はのたうちまわる余り、ベッドから転げ落ちた。


だが、それでも彼女は眠っていた。

「なんて寝相が悪いんだ、この娘は・・」

あまりのうるささに黒犬は人間へと姿を変えた。

「しょうがないな、全く」

人間の姿に戻ったシリウス・ブラックは深いとため息をつき、床に落ちて寝息を立てている をよいしょっと抱き上げてベッドに戻してやった。

「おかげで完全に目が覚めちまったよ。」

そうぶつぶついいながらもシリウスは羽根布団を の肩にかけてやった。

「が、お嬢さんのおかげで俺は餓死寸前を免れた。感謝するよ」

シリウスはそういうと、ベッド脇の椅子を引き寄せそれに腰掛けた。

しばらく完全に目が覚めたシリウスは の寝顔をじっと見ていた。

燃えるような黒髪、透き通るような白い肌。紅バラのような唇。シリウスは思わず自分の頬が赤らむのを感じた。

ナイト・テーブルの上のスタンド・ライトが側に立てかけてある写真立てを照らしていた。

「これは?」

シリウスはふと、それに目がいった。

「エイミー!」

シリウスは思わず写真立てを取り上げて小さく叫んだ。

「そうか、ここはエイミーの屋敷だったのか・・ということはこのお嬢さんはお前の娘か?」

シリウスは写真のエイミーと寝息を立てている をゆっくりと見比べながら呟いた。

「お前に生き写しだ。お前がまた戻ってきたんじゃないかと疑ったよ。

そのブラウンの目、鼻、口元。黒髪だけは旦那ゆずりだな。

それ以外はお前にそっくりだよ」

そういってシリウスはエイミーとデニスが並んで仲良く笑っている写真を見つめた。

「なあ、エイミー。他の奴らは俺とお前を親友と思ってたようだが、俺は、けっしてホグワーツにいたとき言えなかったんだよ。

 エイミー、お前を愛してるんだ。この一言がね。今になってはっきりと言えるなんて皮肉なもんだな・・」

シリウスはそう呟くと、半ば自嘲気味に笑った。

「やめて!」

ベッドの上で が悲鳴を上げた。

シリウスはビクっとして振り返った。

「ハリー、ハ―マイオニ―、ロン、ルーピンさん、伯母様・・死なないで・・」

の目からすっと一筋の涙が伝わって落ちた。

気が付くとシリウスは の涙を指で拭ってやっていた。

「ヴォルデモ―ト、あなたが殺したんだわ!この卑劣な・・」

「いったい何がそんなに不安なんだ?俺が側に居て取り払ってやりたいがそうも出来ないんだ・・」

しばらくシリウスはぼんやりと の黒髪、頬を撫でて再び安らかな眠りの世界に戻れるように

話しかけていた。

彼女はとても暖かかった。アズカバンの独房にいたシリウスは自分の体に生気が満ち溢れていくのを感じた。

シリウスは彼女の髪に自分の顔をそっとうずめた。とてもいい香りがした。

いつのまにか彼女は眠りに落ちていた。

内心ほっとする気持ちと残念な気持ちを押し殺して、シリウスは立ち上がった。

「残念だが 。 いつまでもここにいられない。世話になったよ。俺は何もお礼が出来ないが・・」

そういうとシリウスは彼女の額に優しく口付けした。

「エイミー、じゃあな」


最後にそう一言呟くと、彼は の方を名残惜しそうに見て部屋の窓を開け、ひらりと庭に降り立ち、また黒犬の姿になった。

そうして彼はいつ果てるともしない夜の闇へと消えていった。






は9と四分の3番線にいた。

新学期の始まりなので、周りはホグワーツ生やその親でごったがえしていた。

「ハリー達、どこにいるんだろう?」

はカートを押しながら辺りをぐるりと見渡した。

は急に後ろから肩を叩かれ、振り返った。

「やあ、おはよう。今日から新学期だね。私もだけど」

そこにはこの度めでたくホグワーツの教師になったルーピンがにこやかに微笑んでいた。

「ずいぶん混んでいるな。席がどこか空いてればいいけど」

「最後尾の方に行きましょう。ひょっとしたら1席ぐらい空いてるかもしれませんよ」

汽車に乗り込んだ はルーピンと一緒にコンパートメントを見て回った。

ようやく二人は誰もいない最後尾のコンパートメントを見つけた。

「よかった。上手く空いてて」

はドサッと入り口の方に近い席に座り込むとにこにこと笑った。

「ああ、お腹すいたな・・」

ルーピンはそういうとコンパートメントの引き戸を閉めた。

「私も。遅れそうになったんで朝食食べてないんです。よかったら一緒に食べませんか?」

はバスケットの中から焼きたてのバーム・ブラックの包みを取り出すと誘った。

「それはいいね。よし、私もさっき駅で紅茶を買ったんだ。それで朝食にしよう」

ルーピンは、リネンに包まれた厚切りのフルーツ入りのパンを目にして思わず目を輝かせ、

スーツケースの中から売店で買った缶に入った紅茶を取り出して差し出した。



「なかなかいい味だね。ふわふわして甘酸っぱくて。これ、どこのパンかな?」

「アイルランドの特産品ですよ。お茶うけとして向こうではよく出されるんです」

「へえ〜、じゃあ、こっちで言うとスコーンみたいなものかな」

しばらく二人は、座席に座り込んで、開いた窓から流れ込む心地よい風と美味しい朝食を存分に味わった。



「ところで、どうしたんですか?その隈?」

はさっきから気になっていることを尋ねた。

「え?ああこれ、何でもないよ。」

ルーピンは適当に笑ってごまかそうとしたが、かなり顔色が悪く、そのぶん目の隈がくっきりと浮き出て見えた。

「ホグワ―ツに着くまで少し横になったらどうですか?大丈夫、到着したら起こしてあげます」

彼女は彼の顔を心配そうに見ながら提案した。そして、(ちょっとこの疲労の具合では休まないとまずいだろう。

少し横になれば目の下の黒ずんだ隈ぐらいはとれるかな。)と考えた。、



何せ今のルーピンは吹けば飛ぶような状態であることが明白だ。

「ありがとう。じゃあ、少しだけそうさせてもらうよ」

最後の言葉を言い終わるか、言い終わらないうちにルーピンは の肩に頭をもたれかけさせて眠りに落ちた。

「そうとう疲れがたまってるじゃありませんか・・」

は頬を赤らめながらぽつりと呟いた。

その後、汽車はごっとんと揺れて動き出した。 はわずかに下唇を突き出して、紅茶をすすった。

向こうから三人分の足音が聞こえたのはそんな時だった。

「何よ、もうどこも空いてないじゃない・・」

「ハーマイオニ―、その赤猫ケージに入れてくれないか?」

「嫌よ!クルックシャンクスを1日中ここに閉じ込めろって言うの?」

「二人共、ここは?」

ハリーは とルーピンのいるコンパートメントを開けた。

「ハリー!?遅いじゃない!私、どこにあなた達が乗っているか探してたのよ!」

は慌てて、自分の肩にもたれているルーピンを窓の方に押しやりながら言った。

「ゴメンゴメン、僕たち駅に着いたのがギリギリだったんだ。ほんと、さっき滑り込みセーフで乗り込んだんだよ」

ロンが冷や汗をかきかき、説明した。

「でもよかったわ。空席があってそこに がいたなんて」

ハーマイオニ―が安堵の色を見せ、彼女の隣りに座った。

「ほんとほんと、君と別々だったらコンパートメントを歩き回って探し回らなきゃいけないからね」

ハリーが彼女の隣りに座れなかったことを残念に思いながら、ロンが荷物を荷物棚に上げるのを手伝った。

「ところでこの人誰?」

窓から一番遠い席を取り、引き戸を閉めるとロンが声をひそめて聞いた。

「ルーピン先生よ」

ハーマイオニ―がすぐに答えた。

「何で知ってるんだ?」

「カバンに書いてあるわ」

そのとおり、荷物棚の上のくたびれたカバンの片隅にR・J・ルーピン教授と文字が書かれてあった。

「どの教科を教えてくれるんだろ?」

ロンが言った。

「決まってるでしょう。闇の魔術に対する防衛術よ」

ハーマイオニ―が答えた。

「ねえ、先生 が来る前から寝てたの?」

ハリーは、さきほどルーピンが の肩にもたれて眠っていたのを一瞬だけだったが見たのだった。

「ええ、まあ、そうよ・・」 はあいまいにボソボソと答えた。

(本当は一緒に乗り込んだんだけど、そうなるといろいろと説明しなきゃならないからなぁ)

「ところで、何の話なんだい。さっき言ってたこと・・」

ロンがハリーの方を尋ねた。



「え、何ですって?シリウス・ブラックがハリーを狙ってるの?」

彼女はあやうく座席から落ちそうになった。

「そうだよ。あの難攻不落、脱出不可能のアズカバンを抜け出してさ。ハリーを殺そうとしてるんだ」

ロンがポケットから新聞の切れ端を取り出し、 に投げてよこした。

が青ざめて新聞記事に目を通している間、ロンはハーマイオニ―やハリーとブラックについて他に知っていることを話していた。

(まさか、まさか、本当に母さんやルーピンの友人だったシリウスがハリーを殺そうとしているのだろうか?)

新聞の活字を追えば追うほど彼女の顔色は青ざめた。

「どうしたんだい?君、その記事読んでから急に顔色が悪くなったぜ?大丈夫?」

ロンに新聞を返すとき、彼が心配して彼女の顔を覗き込んだ。

「な、何でもないわ・・」

はとっさにいい言い訳が思い浮かばず、ロンからさっと顔を背けた。

「何かブラックについて知ってるの?」

ハリーが鋭い目で聞いてきた。

「いえ、そんなんじゃないの。ただ、ここに来る前、BBCのニュースでブラックの逃亡についてずーっとテロップが流れてたから

 それを思い出して、少し怖くなったわけ」

やっと適当な言い訳が思いついて、 はなんとかその場を取り繕った。

「なんだそうだったのか!そういやマグルのテレビでもブラックの事を報道してるらしいしね。

ところで、BBCって何?」

ロンがマグルの聞きなれない言葉を拾って聞いてきた。


「イギリス放送協会の略称よ。ああ、そういや私も見たわ。フランスに遊びに行く前に。」

ハーマイオニ―が説明してやった。

そこで、女の子達とハリー、ロンの会話は二分して分かれた。

はハーマイオニ―のフランスの古城や、中世の魔法史の話に夢中になり、

自分もさっきまでの嫌な気分が吹っ飛んだのかイギリスの屋敷に迷い込んできて突然、姿をくらました可愛い黒犬のことを話した。

ハリーは女の子達を横目でチラチラと見ながら、ロンのホグズミードの話に耳を傾けていた。

のさっきの様子、普通じゃなかった・・新聞記事を読んだ途端にさーっと顔が青くなって。

 まさか、ブラックについて何か本当に、僕らが知らない何かを知っているのかもしれない。)

ハリーはロンの話に相槌を打ちながら、さっきのことを考えていた。

「それで、オーベルニュの高原でね・・・」

ハーマイオニ―の話の途中で汽車は急停止した。

「どうしたの?」

、ハリー、ロン、ハ―マイオニ―は慌てて窓に駆け寄って外を見た。

大きな橋げたの上で汽車が止まっている。

煙がシューシューと噴出していた。

「何で動かないんだ?」ロンが窓から顔を突き出して言った。

「故障かしら?」ハーマイオニ―も窓から顔を突き出した。

外は激しく雨が降っていた。

「窓閉めて!雨が入ってきたらこの人がぬれちゃうわ。」

が慌てて言った。

「あっ、ゴメンゴメン」二人はレバーを下ろし、ガタンと窓を閉めた。



「明りが消えたわ!」 が叫んだ。

「な、なんなんだ?」

ロンが歯をガチガチ言わせながら振るえた。

急にサーッと気温が下がり、窓ガラスが、そして、窓辺に置かれていたコールド・ジンのビンが凍っていった。

一番入り口に近い席にいたハーマイオニ―が小さく悲鳴を上げた。

コンパートメントのドアが完全に凍り、その外に恐ろしい黒い、背の高い影がユラユラと立っていた。


四人は声にならない悲鳴をあげた。

ぬらりゆらりと扉を開けて、その黒い影がコンパートメントに入ってきた。

その影はすっぽりと黒いマントを被っていた。そして、ゆっくりとハリー達を見下ろし、長く息を吸い込んだ。

ぞっとするような寒気が全員を襲った。

その影は、ハリー、 をなめるように見た。

ハリーが声にならない叫びをあげて、白目を向いた。そして、座席から落ちて、ヒクヒクと痙攣しだした。

はおぞましい冷気が自分を包むのを感じた。誰かが、誰かが叫んでいる。怖い、耐えがたい恐怖だ。

自分はいつもこの姿になるのを恐れている。

そのまま は気を失い、座席からくずれるように落ちた。

「ハリー、 ・・」

ロンが恐怖に怯えながら、二人に近づこうと足を動かそうとした。

「静かに!」

突然しわがれ声がした。

「動くんじゃない!」

ルーピンが目を覚まして、片手に杖を持って、吸魂鬼に呼びかけた。

「シリウス・ブラックをマントの下にかくまっている者はいない。立ち去れ!」

それでも吸魂鬼は動かない。

ルーピンは何かブツブツと唱えた。杖から何か銀色の物体が飛び出し、それを見ると吸魂鬼は慌てて逃げていった。

「ハリー、ハリーしっかりして!!」

「ああ、よかった気が付いたのね」

ハーマイオニ―とロンがハリーを座席に引っ張り上げた。

!」

その横ではルーピンが の頬を叩いて意識を回復させようと試みていた。

が嫌そうな顔をして目覚めた。

そして、口をわずかに開けて、小さく唸り声を上げた。目が赤い、いつものブラウンの瞳ではない。血のような赤さだ。

にやりと がルーピンに微笑んだ。その口からはいつもは八重歯にしか見えない牙がはっきりとにょきっと覗いていた。


「ヒエッ!」

バリバリッとガラスに亀裂が入る音がした。ロンがさっきよりも激しく凍りだした窓ガラスを見て悲鳴を上げた。

「いけない!皆、外に出るんだ!!」

ルーピンがものすごく嫌な予感を察知してハリー達に呼びかけた。

「先生! は?」

ロンとハ―マイオニ―が放心状態のハリーを両側から支えながら叫んだ。

「ディメンターの悪い影響だ!彼女と一緒にいては危険だ!!外に出るんだ!いいかい?

私が入っていいというまで絶対に入ってきたらダメだ!!早〜く外に!!」

ルーピンは早口でまくしたて、急いでコンパートメントの扉を閉めて、ハリー達を追い出した。

「どうしたんだよ、いったい?」

「入っちゃいけないってどういうことなの?」

すぐ外では納得のいかないロンとハーマイオニ―が喚いていた。

とうとうコンパートメントの入り口の扉のすりガラスが完全に凍り、もはや外から中の様子をうかがえなくなった。


「こっちに来て・・」

ルーピンがドアを閉めた途端、 のか細い、だが、誘うような声がした。

「ああ、やはり君はそうだったのか・・吸血鬼なのはミナだけだと思っていたが」

ルーピンはなるべくの方を見ないようにして,絶望してつぶやいた。

「ねえ、私が欲しいんでしょう?」

座席にもたれていた がすかさず、後ろからルーピンの首に白い腕を巻きつけ、ぐっと自分の方を向かせた。

「やめなさい、 。落ち着くんだ・・」

ルーピンはなんとか理性を保とうとしていたが長くは持たなかった。

「私はとても寒いの・・」

はそういいながら、私服のグリーンのブラウスのボタン一つはずして挑発した。

「お願い、私に触れて頂戴・・」

彼女はルーピンの右手を持ち上げ、はだけた首元にそっと触れさせた。

「やめなさい・・」ルーピンの目は完全にうつろになり、 の思うがままに翻弄されていた。

はそんな彼を見て声高らかに笑った。

もはや普段の彼女ではない。

「キスして・・」

彼女は無理やりルーピンの顔を上げさせ、甘くささやいた。その赤い瞳は妖しく潤んでいた。

(悪魔だ・・こいつは悪魔の仕業なんだ。 じゃないんだ・・)

もうろうとする意識の中でルーピンは自分に言い聞かせていた。

だが、意思とはうらはらに彼は目をつぶっている にどんどん近づけていった。

ついに二人の唇が重なった。とても甘いキスだった。ルーピンがほんの少しだけ余韻を楽しんだ直後、

小さな悲鳴があがった。 がすかさず唇を離し、彼の左首にどっぷりと二本の牙を突き刺して血をすすったのだ。

彼は驚いて、 から飛びのいた。もうろうとしていた意識が鋭い痛みのため、完全に回復した。


彼の左首には二本の穴がぽっかりと開き、そこから血がだらだらと流れ出ていた。

「さあ、この血を飲んで・・」 が口からこぼれ出た血を手でふき取り、彼の目の前でちらつかせた。

ルーピンはとっさにどうすべきか思いつき、痛みに耐えながらも

ポケットから、ルーマニアの教会で司祭からもらった聖餅(せいべい)を取り出して彼女の額に押し付けた。

たちまち彼女の額から白い細い煙が出、 は痛さ狂ったような悲鳴を上げ、目を閉じて動かなくなった。

それと同時に口からはっきりとでていた牙が、ただの八重歯に戻った。

「うっ、痛いな・・」

ルーピンは左首を押さえながら、よろよろと に近づき、彼女のブラウスのボタンをきちんと上まで留めてやった。

それから、コンパートメントのドアを開け、彼はロン、ハーマイオニ―、ハリーを入れてやった。

「もう大丈夫だ。ほら、これを食べなさい」

ルーピンは痛みをこらえながら、巨大な板チョコをカバンから取り出し、皆に割って配った。

「先生、 は?何があったんですか?」

ようやく落ち着いたハリーが聞いてきた。

「心配しなくてもいい。あいつらの悪い影響でね。彼女が恐怖でパニックになって暴れた。

 とりあえず、魔法で眠らせたんだ。君たちが一緒にいると危ないからね。それで外にいかせたんだよ」

ルーピンは悪戦苦闘で嘘を考え出して、スラスラと言った。

その言葉で三人はようやくホッとした。


「あの、あれは何だったんですか?」

まだ停電している真っ暗なコンパートメントを見渡しながら、ハリーは聞いた。

「ディメンター。アズカバンの吸魂鬼の一人だ。」

「食べなさい。体が暖まるよ。私は運転手と話をしてくる。失礼するよ」

そこでルーピンは急いで左首を押さえながらコンパートメントを出た。


「ああ、よかった。傷は幸い浅いみたいだ。このぶんだと学校に着くまでに出血は治まりそうだな・・」

洗面所に駆け込んだルーピンは洗面台にかがみこんで、首の血を洗い流していた。

「だけど、私が噛まれるだけで済んでよかった。私はもう過去に一回噛まれているからね。大丈夫だと思うけど・・」

彼はタオルを取り出し、首の出血を押さえながら、独り言を言った。

「おそらく、彼女のことだから脱吸血薬は飲んでいたのだろう。だが、あいつらの影響を受けて、恐怖のあまりあの姿に

 なってしまったんだろう・・あ、痛いな。まだ痛むか・・仕方ない。応急措置をするしかないな」

ルーピンはタオルで首をさらに強く押さえつけた。

彼はふと、もうろうとした意識の中での甘美なキスを思い出した。

今まであれほど彼女を美しいと思ったことはなかった。

「だけど、あれは彼女じゃない。悪魔だ、彼女の中にいる悪魔なんだ・・」

だが、そう口に出してみてもルーピンは、あの危険な誘惑にもう一度身を置きたいなどと思うのだった。


「あれ・・私、いったいどうしたの?」

一方コンパートメントではがようやく目を覚ました。

「やっと気がついたんだね!」

「今まで、ずっと眠っていたのよ!」

ルーピンが座っていた席にはハリーが居り、左横にはハーマイオニ―が居た。

「ねえ、あの黒い影が来たとこまでは覚えてるんだけど・・それから、私どうしたのかしら・・え、何この血?」

は座席から起き上がると、グリーンのブラウスの襟首あたりに小さな血痕が点々と付着しているのに気づいた。

「君、本当に何も覚えてないんだ!そりゃそうだよ。僕らもあの時何があったかよく分からないんだから。

 え〜とルーピン先生の話では、君は一回気絶してさぁ、それから急に起きて、

 あいつらの悪い影響でパニックになって暴れだしそうになったから先生が

 慌てて僕らを外に出さしたんだ。そこからさあ、後は何が起こったのか見えなかった。

 ドアのすりガラスが凍ってて、まったく中の様子は見えなかったんだ。

 で、後はルーピン先生が君を魔法で眠らせておとなしくさせて、僕らをコンパートメントの中に入れてくれたってわけ。
 
 それ、その時、ルーピン先生を引っかいたかなんかでついた血じゃないの?」

ロンが暴れるスキャバーズを無理やりポケットに押し込みながら言った。

「で、先生は今どこに?」

彼女は嫌な予感がした。この血痕は怪しい。ひょっとして吸血鬼の姿になってしまったのだろうか?

「え?ああ、先生なら運転手と話をしてくるって運転席へ・・ちょっとどこに行くの?」

ハーマイオニ―の静止を振り切って、 彼女は恐ろしくなって、コンパートメントを飛び出した。

そして、そのまま最前列の運転席へ走っていった。

(どうしよう!私、間違いなく先生に噛み付いてしまったのに違いない!)

は扉をばたんばたんと開け閉めしながら、1両目を目指した。

彼女が1両目と2両目をつなぐ扉を開けたとき、ルーピンがこちらに向かって歩いてきた。

「おや、?こんなとこまで来て・・どうしたのかな?」

ルーピンは異常に顔色が悪かったが、彼女の姿を見ると血色の悪い頬にいっぺんに赤みがさした。

しかも、彼はにこやかに微笑んでいたのだ。

「ちょっと来てください!」

は彼の腕を取り、近くにある喫煙室に引っ張り込んだ。

「先生、あの時何があったんですか?正直に話して下さい」

彼女はルーピンと狭い椅子に腰掛けて話し始めた。

・・」

「その首のばんそうこう、どうしたんですか?」

「これは・・」

「ちょっと失礼!」

そういうと、 彼女 はルーピンの左首に貼っていたものをベリッとめくった。

「あっ!嫌・・そんな・・・」

そのまま彼女は椅子からずり落ちて、ばっと手で額をおおった。

!」

驚いたルーピンが彼女の肩に手をかけようとした。

「嫌、触らないで!私、とりかえしのつかない事をしたんです!」

が首筋にくっきりと残っている2本の牙の跡を見て悲鳴を上げた。

「やっぱり、やってしまったんだわ。よりによって先生に噛み付いてしまったなんて。

 でも、どうしよう!私あの時の記憶が全くないんです!!

 どうしても思いだせないんです!!どうしたらいいんです!?」

彼女はショックの余り、拳で壁をドンドンと叩いた。

「やめなさい!! !!」

見かねたルーピンが後ろから彼女を抱きしめた。

「嫌、離して!私のせいだわ!私のせいで先生が吸血鬼になってしまう!!そんなの絶えられません!!」

はわめきながらルーピンから逃れようと必死でもがいた。

「君と一緒なら吸血鬼としての人生を送っても構わない!!」

ルーピンが大声で叫んだ。

「え、今なんとおっしゃいました?」

はぴたりと泣くのを止め、ルーピンの方を振り返った。

「何でもない。気にしないでくれ。とにかく私の話を聞いてくれ」

自分でさっき言った言葉を頭の中で反芻しながら、カッと顔が火照るのをルーピンは感じていた。

「わかった、あのとき何が起こったのか全て話そう。これでいいね?」

ルーピンは彼女 を隣に座らせると落ち着くように一生懸命話しかけた。


とりあえず、彼は吸魂鬼のこと、 が彼らの悪い影響で吸血鬼の姿に変貌し、自分の首に噛み付き、血を啜った事。

それから、彼女の額に聖餅を押し付け、元の姿に戻したことなどを語った。

「本当にそれだけですよね?」

全ての話を聞き終わると、 はまだ疑問を感じながら尋ねた。

「そうだよ。これで全部だ」

(といっても彼女には絶対に言えない部分があるからね。このことを話したら、彼女、恥ずかしさの余り、私と口を利いてくれるだろうな・・)

ルーピンは省略した甘美なキスシーン、 が自分を誘惑したシーンなどを思い出し、また、頬に赤みがさした。

「ああ、それから、君の目下の心配していることについてだけど、これにはある約束事があってね。

 吸血鬼に噛み付かれただけでは、その人間は吸血鬼にはならない。ただ一つの線を越えなければね。

 それは、吸血鬼が吸血した血を自ら、その被害者の人間が飲むこと。これさえしなければ、噛まれた跡はじきに消滅し、

 普通の人間としての生活を送れる。」

彼はようやくスラスラと語りだした。

「それで、先生はまさか、私が吸血した血を飲みませんでしたよね!」

の目が普段の二倍に見開かれた。

「もちろん、飲まなかったよ。私はこれでも闇の魔術の防衛術の担当だからね、吸血鬼のことはお手のもんだよ。で、これで

心配事はなくなったかな。」

そういうと、ルーピンはにっこりと彼女に微笑みかけた。

「ああ、よかった!一時はどうなるかと思ったわ・・あっ!そうだ、ハリー達が心配してると思います。

 慌てて席を飛び出してきたから、急いで戻らなきゃ。本当にご迷惑をおかけしました!」

は安堵の色を見せ、ぺコリと頭を下げると、喫煙室のドアを開けつむじ風のように走っていった。

「やっぱりエイミーに似てるな。彼女も謝る時、ああいう癖があったからね・・」

一人喫煙室に残されたルーピンはしばらく物思いにふけっていた。




「蛙の腸、人食いザメの顎、鬼婆の爪、ぐつぐつ煮よう〜♪」

ホグワーツの新学期の宴のはじまりだ。

教職員席の前では生徒の合唱団なるものが、フリットウィック先生の指揮で世にもおぞましい歌を唄っていた。

合唱が終わると、合唱団の生徒の手に抱かれていたがまがえるが鳴いた。

「新学期、おめでとう!皆に幾つかお知らせがある。まずは、うれしいことに新任の先生を二人お迎えすることになった。」

ダンブルドアが言った。

「こちらは、リーマス・ルーピン教授。空席になっている闇の魔術の防衛術の担当して下さる」

ルーピンがガタリと椅子から立ちあがり、全校生徒の前で一礼した。

グリフィンドール生は特に大きな拍手を送った。

「もう一人、魔法生物飼育学じゃが、ケルトバーン先生が退職し、他ならぬルビウス・ハグリッドが現職の森番に加えて教鞭をとって下さる」

グリフィンドールから割れんばかりの拍手が起こった。

教職員席ではマグゴナガル教授がうれしそうにハグリッドをこづいていた。

ハグリッドは嬉しさの余り、側にあった皿を誤ってひっくり返してしまった。



宴が済むと、グリフィンドール生は寮の階段を上り、太ったレディの前まで来た。

「フォルチュナ・マジョール(たなぼた)!」

パーシーが合言葉を言った。

「待って、待って、私の歌を聞いて頂戴!私の美声でこのグラスを割ってみせますわ」

月桂樹の冠を被り、古代ギリシャ風の衣装をまとったレディは発声練習をしており、片手にワイングラスを握り締めていた。

「フォルチュナ・マジョール!」

今度はハリーが言った。

ここで耳をつんざくような高音が響き、ようやくワイングラスが割れた。

「見て!私の美声でグラスが割れたわ!」

太ったレディはとても嬉しそうに言った。

「はいはい、素晴らしい歌声でしたよ」

ロンが嫌そうに褒めた。

「幸運!」

が呆れて言った。

「いいわ、皆お入りなさい」

太ったレディがようやく上機嫌でドアを開けてくれた。

「すごく下手な歌だったな」

「聞くに堪えないわ」

「太ったレディってあんなのだった?」

ロン、 、ハーマイオニ―、ハリーはうえっと顔をしかめて呟いた











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