はシリウスに長い間抱きしめられていた。
彼女は恥ずかしくて、顔を真っ赤にしていた。
「 ・・私は君に助けてもらった時から・・片時も忘れられなかった。初めて君に出会った時は
夢だと思った・・」
シリウスはうわごとのように呟くと、更に強くを自分の胸に押しつけた。
「離して・・息が出来ないわ・・」
彼女はあまりにも強く抱きしめられて、このまま窒息してしまうのではないかと思った。
「すまない・・」シリウスは彼女 のくぐもった声を聞くとようやく抱擁を解いた。
「どういうこと?私があなたを助けたなんて・・私はあなたを助けた覚えなんかないのよ!」
まだやや顔を赤らめながら、 は彼に腹ただしげに言い放った。
シリウスは彼女のそんな表情があまりにも可愛くて、思わず笑みがこぼれてしまった。
「お嬢さん、覚えていないのか?お嬢さんがロンドンの屋敷の前で助けた野良犬は私だ。
あの時、私はアズカバンから脱獄し、1週間近く何も口にしていなかった。
餓死しそうになっていた私を看病し、元気になるまでお嬢さんは世話をしてくれた。
君のおかげで今の私がいる・・本当になんと言って感謝していいか分からない」
そういうと、彼は彼女に深く感謝の意を表した。
「え?う、うそ・・ほんとにあの時助けた犬は、あ、あなただったの?」
は突然彼の口から告げられた事実に呆然とし、ペタンと床に座り込んでしまった。
彼女は座ったまま、複雑な気持ちで唇を震わせ、その美しいブラウンアイで彼を見つめた。
「何てことなの!?私はあなたが分からない!!あなたは本当にあの殺人鬼で
私の両親を殺したの?何故そんな優しい顔で私に話しかけるの?」
は急に胸が苦しくなり、涙がどっと頬を伝って流れた。
次の瞬間、彼女は彼に駆け寄り、拳でドンドンと彼の胸を叩いた。
「どうして?私は前まであんなにあなたを殺したいと思ってた!でも、実際にあなたをこの目で見てから
何かが違うと思ってしまった。だって、あなたの目の奥はとても澄みきってるから。
あなたの目は殺人鬼にしては綺麗すぎるから・・ああ、神様お許しください・・・私は何という人間なのでしょう!!」
彼女はくやしいのと悲しいので、力任せに彼の胸を拳で激しく叩きまくった。
「 ・・本当にすまない・・」
シリウスはそんな彼女が愛しくて、またせつなくて、両腕を広げて力一杯自分の胸にかき抱いた。
「放して!!あなたにこんなことする資格なんかないわ!」
は苦しくて彼から身をよじって逃れようとした。
「いいや・・もう二度と離したくない・・」
彼は首を横に振ると、更に強く、優しく彼女を抱きしめた。
「な、何やってるんだよ!?彼女から は、離れろ!ブラック!」
一連のやりとりに口を突っ込む余裕のなかったロンがここで勇気を振り絞って、折れた足を引きずり、二人の下に近づいてこようとした。
蝶番が吹っ飛ぶような勢いでドアが開けられた。
「ロン、 大丈夫か!?」
暴れ柳の攻撃から逃れたハリー、ハーマイオニ―が杖を片手に振りかざし、部屋の中になだれ込んできた。
「犬はどこなの?」
ハーマイオニ―が一番初めに視界に入ってきたロンに尋ねた。
「犬じゃない!」
ロンがうめいた。
「はどこだ?」
ハリーが真っ先に頭に浮かんだ疑問を投げかけた。
「あいつだ・・シリウス・ブラックが犬なんだ!あいつはアニメ―ガスなんだ!!」
ロンはハリーの肩越しに背後を見つめた。
ハリーがくるりと振り向いた。
ドアの影に立たずむ男が、何と と共に立っていた。汚れきった長い黒髪、生ける骸骨のような姿・・そして、彼女は泣いていた。
ハリーは怒りで色を失った。彼は杖を振り上げようとした。
「エクスペリアームズ!!」
だが、ブラックの方が一瞬早く杖を振り上げた。
ハリーとハーマイオニ―の杖が空を飛び、ブラックの手に収まった。
「君なら友を助けに来ると思った」
ブラックはハリーをじっと見据えて一歩近づいた。
ハリーは憎しみで腸が煮え繰り返り、一瞬恐怖も何もかも恐れて彼に飛びかかろうと身を前に乗り出した。
だが、素早くハーマイオニ―の手がハリーを掴み、引き戻した。
ブラックは更に又一歩とハリーに近づいてきた。
「ハリーを殺したいのなら私達も一緒よ!」
ハーマイオニ―がハリーの腕をつかんだまま、ブラックを睨みつけ激しい口調で言った。
「いいや、今夜死ぬのはただ1人だ」
ブラックはにやりと笑った。 はブラックの側で成り行きを見守るしかなかった。
「なぜなんだ!?この前はそんなことを気にしなかったはずだ!ぺディグリュ―を殺すために沢山の人間を殺した!
いったいどうしたんだ?アズカバンで骨抜きになったのか?」
ハリーはハーマイオニ―の手をバッと振り解くと、はき捨てるように言い放った。
「ハリー、黙って・・それ以上言わないで!!」
さっきまで黙っていたがひどく苦しそうに叫んだ。
「こいつが、僕と彼女の両親を殺したんだ!!」
ハリーはもう我慢できずにブラックに飛びかかった。
「ハリー!やめて!!」
は悲鳴を上げた。
二人は仰向けに床に倒れ、ハリーはすかさず彼に馬乗りになり、ところかまわずに彼を殴りまくった。
「この人殺し!よくも!」
ハリーは激しく喚きブラックの手首をつかみ、捻って杖先を反らせ、もう一方の拳で横っ面を何度も力の限り、ぶん殴った。
「ハリー!お願い、やめて!」
その時、 は自分でも信じられない行動にでた。
ブラックを殴りつづけるハリーの腕を彼女は力の限り掴んだ。
「もう、やめて!こんな愚かなことをしないで・・」
彼女は泣きながら、ハリーの顔をまっすぐに見据えた。
次に出た言葉は自分でも信じられなかった。
ハーマイオニ―、ロンは彼女が自分の両親を殺した男を庇っていることに驚いていた。
「やめろ!離すんだ!!なぜだ!?なぜ彼を庇うんだ!?」
ハリーは に掴まれた腕を振り解こうと必死に抵抗した。
「なぜだか自分でもよく分からないわ!でも彼が殺人鬼だなんて私にはどうしても信じられないの!」
彼女はあまりにも苦しくて、胸がはりさけそうだった。
「なぜなんだ!?君はどうかしてるよ!?彼に甘い言葉で騙されてるんだよ!!この手を離すんだ!!
離せ!!じゃないと君が怪我をするぞ!!」
ハリーは耐えがたい怒りに駆られ、力の限り腕を振り回した。
「嫌、離さないわ!」
は頑として彼の腕を前よりきつく掴んだ。
「君は馬鹿だよ!何て馬鹿なんだ!!自分の両親を殺した男を庇うなんて!!」
ハリーがかんかんになって叫んだ。
「ええ、私は馬鹿よ!大馬鹿だわ!こんなことをするなんてどうかしてるわ!でも今回だけは私達取り返しのつかないことを
しようとしてる気がするのよ!!」
は彼の腕を渾身の力をこめて掴んだ。
「何てことだ!!」
ハリーは何もかもに絶望し、彼女の腕を思い切り振り払った。
は反動で床に倒れた。彼はふと床に落ちていた自分の杖に目がいき、
サッとそれを取り上げた。
そして、それをブラックの喉もとに真っ直ぐに憎しみをこめて突きつけた。
「ハーリ―・・私を殺すのか?」
床に仰向けに倒れたまま、ブラックは皮肉な笑みを浮かべた。
「お前は僕と彼女の両親を殺した・・おまけにを上手く懐柔したんだ。この間まであんなにお前を憎んでいた彼女を・・」
ハリーの声は静かな怒りで震えていた。だが、杖は彼の喉もとから微動だにしなかった。
ブラックは落ち窪んだ目でハリーをじっと見上げた。
「否定はしない・・だが、お願いだ!私の話を聞いてくれ!聞かないと君は後悔する・・君は分かってないんだ」
ブラックの声には緊迫したものがあった。
「お前は僕と彼女の両親をヴォルデモートに売った。それだけ知れば沢山だ。他に何を話すことがある?」
ハリーは冷たく声を震わせながら言い放った。
「ハリー、お願い。この人の話を聞いてあげて・・聞くべきだわ」
はハリーの恐ろしい憎しみに満ちた顔を見つめながら、懸命に言った。
「聞く必要なんかない・・」
ハリーは静かに言うと、杖を構えた。
「殺すしかないんだ・・」
彼は静かに呟いた。
もう駄目だとは思った。
「エクスペリアームズ!!」
ドアが勢いよく開けられた。
ハリーの握っていた杖が空中に飛んだ。
「ルーピン先生!?」
は驚いて彼の側へ駆け寄った。
彼はハリーの杖をキャッチし、ブラック、ハリー、 を交互に見た。
「シリウス・・あいつはどこだ?」
ルーピンが声を震わせた。
ハリーは一瞬、ルーピンを見た。何を言っているのか全く理解できなかった。
ブラックは床からゆっくりと起き上がり、黙って手を上げロンを指差した。ロンは当惑していた。
「なぜ、いままで正体を顕さなかったんだ?」
ルーピンはぼんやりと言った。
「あいつが・・そうだったのか!では今まで君はあいつと入れ替わりになってたのか!!何ということだ!」
ブラックはゆっくりと頷いた。落ち窪んだ目に光が戻った。
「ルーピン先生・・これはどういうことなんですか?」
「何のことを言っているんですか!?」
とハリーが状況が理解できずに叫んだ。
「シリウス・・」
「リーマス!!」
次の瞬間、ルーピンはつかつかと歩いて来たブラックをガシッと両手で抱きしめていた。
「何てことなの!?」
ハーマイオニ―が叫んだ。
ハリーとロンはただただ呆然としていた。
二人は抱擁を解き、ハーマイオニ―の方を見た。
「この人、ブラックとグルだったんだわ!!」
ハーマイオニ―はルーピンを指差して叫んだ。
「私、誰にも言わなかったのに!!」
ハーマイオニ―が悲痛そうに叫んだ。
「先生のために隠していたのに!」
「ちょっと待って、ハーマイオニ―?いったい何のことを言ってるの?」
がルーピンの側から彼女にいぶかしんで尋ねた。
「ハーマイオニ―、頼む!話を聞いてくれ!説明するから!!」
ルーピンが叫んだ。
「僕は先生を信じてたのに・・それなのに、先生はずっとブラックの友達だったんだ!」
ハリーは新たな怒りに胸が焼けきれそうだった。
「それは違う・・この十二年間、私はシリウスの友ではなかった。しかし、今はそうだ・・」
ルーピンは小さく呟いた。
「 、ハリー、この人は狼男なのよ。この人がブラックを城に手引きしてたのよ・・」
ハーマイオニ―がこらえきれずに言い放った。
嫌な沈黙が流れた。
の目は普段の二倍に開かれ、ショックで彼を呆然と見つめていた。
ルーピンは彼女を悲しそうに見つめた。
「いつ頃から気づいていたんだい?」
しばらくしてルーピンが落ち着いた声でハーマイオニ―に尋ねた。
「スネイプ先生の宿題で狼男に関するレポートを書いている時、月の満ち欠け表と先生の病気が一致することに気づいたんです。
それと・・」
「もう一つ、ボガ―トが先生の前で満月に変身するのに気づいた時でしょう?」
ハーマイオニ―の言葉を遮ってが悲しそうに言った。
「 、あなた気づいてたの?」
ハーマイオニ―が驚いて聞いてきた。
「いいえ、今あなたの話で何がいいたいかピンときただけ。あの時のボガ―トのことを思い出したのよ」
は本当につらそうに言った。
ルーピンは自嘲気味に笑った。
「流石、君達だね。思ってたとおりだ。誰よりも賢い。」
それからルーピンはハリーの方を振り向いた。
「ハリー、前に少し話したと思うが、本当のことを言うと、
あの暴れ柳は私がホグワーツに入学したから植えられたんだ。ここに続くトンネルは私のために作られた。
満月の夜、私は城から連れ出され、ここへこっそりと連れて来られた。あの木は私がここに居る時、外部から誰かが
侵入できないようにトンネルの入り口に植えられた。」
「ほら、君たちの杖は返そう。君たちには武器がある。
私達には武器がない。だから、話を聞いてくれるね?」
そういうと、ルーピンはシリウスから杖を取り上げてハリー達の足元に
自分の杖とともに放った。
ハリー、ハーマイオニ―、ロン、 はしぶしぶ納得して、話を聞くことにした。
「どうして、ここが分かったんですか?」
ハリーが開口一番に聞いた。
「忍びの地図だよ。事務所で地図を調べていたんだ、すると君達が暴れ柳の近くにいるのが見えた。
その後、もうひとつの点が急速に近づくのが見えた。ブラックが君たちにぶつかって・・ロンとあと
もう一人を柳の穴に引きずり込むのを見た」
「いいえ、引きずられたのは一人よ。ロンだけ」
が突っ込んだ。
「そうだよ、僕だけだ!」
ロンが怒ったように言った。
「そのネズミだ・・もう一人というのは」
シリウス・ブラックがロンの手に握られていたネズミを指差した。
「何でだよ?なんでネズミが一人なんだ!?あんた達どうかしてるぜ!」ロンはあきれて怒った。
「そいつはネズミじゃない」
ブラックはまたもや言った。
「どういうことだ?こいつがネズミ以外の何に見えるんだい?」
「いや、ネズミじゃない」
ルーピンが静かに言った。
「こいつは魔法使いでアニメ―ガスだ。名前はピーター・ぺティグリュ―」
「ピ、ピーター・ぺディグリュ―!?」
四人は数秒後揃って叫んだ。
「う、嘘、だって彼は12年前に死んだのよ!」
ハーマイオニ―が叫んだ。
「そう、こいつが12年前に殺したんだ!!」
ハリーは真っ直ぐにブラックを指差した。ブラックの頬がかすかに痙攣した。
「殺そうと思った・・だが、あいつにまんまと出し抜かれた!今度はそうさせない!!さあ、ネズミをよこしてくれ!!」
ブラックは憎しみを込めて、吐き出すように叫んだ。
再び荒々しい音を立てて、叫びの屋敷のドアが開かれた。杖をちらつかせてスネイプが息切れしながら立っていた。
ドアに一番近いところにいたブラックを見るとスネイプは勝ち誇った笑みを浮かべ、囁くように言った。
「復讐は蜜より甘いものだ・・」
「我輩はお前を捕まえるのをどんなに願ったことか・・」
「ハン、お生憎だな。スネイプ・・お前はその鋭い洞察力でまた間違った結論を導き出した・・
ブラックは憎憎しげに言い放つと、スネイプに一歩近づこうと足を踏み出した。
「動くな!!」
スネイプはブラックの眉間にピタリと杖を突き突けた。
ブラックはたじろぎ、憎しみをこめて彼を睨みつけるしかなかった。
「なぜここが分かったの?」
がスネイプの普段とは違う恐ろしさに驚きながら言った。
「教えてやろう・・・ミス・ 。」
スネイプは彼女の声を聞くと、顔をほころばせ、勝ち誇ったように説明しだした。
「君の大事な先生の部屋に我輩は行った。君が前に見た例の薬だ・・それを彼が飲むのを忘れたようだから、
我輩がゴブレットに入れて持っていった。そこで彼の机の上に乗っていた地図に目がいった。一目見ただけで
我輩に必要なことはすべて分かった。ルーピンがこの通路を走っていき姿を消すのをみたのだ」
はルーピンを見上げた。
彼は何か言いたそうだったが、スネイプはそれを無視して遮った。
「我輩は校長に繰り返しルーピンが旧友のブラックを城に手引きしたと進言した。これがいい証拠だ。この古巣が彼らの
隠れ家及び密会の場となっていたのだ」
「セブルス、君は誤解している・・話を聞いてくれ・・シリウスはハリーを殺しにきたのではないんだ」
ルーピンが切羽つまった声で苦しそうに言った。
「今夜また二人、アズカバン行きが出る!」
スネイプは狂気にはらんだ目で高らかに宣言した。
「先生、落ち着いて下さい!!ルーピン先生の言っていることは本当なんです!!どうか聞いてください!!
じゃないと取り返しのつかないことになるんです!!」
は狂気に満ちたスネイプに対して、体中の勇気を振り絞って彼に懇願するように言った。
「ミス・ ?君の大事な先生の正体を知っているのかね?彼は人狼だ・・君が見たゴブレットの中身は
脱狼薬だ・・これがどういうものなのか君なら説明せずとも分かるだろう・・え?どうかね、君はこれでも
彼を信用するというのかね?」
スネイプはに向かってにやりとし、囁くように言った。
「校長がどう思うか見物ですな・・校長は君が無害だと信じきっていた・・」
スネイプは意地悪く微笑んだ。
「セブルス、愚かなことを」
隣りで、どうしたらいいのか分からずイライラしているを自分の方に引き寄せながら
彼は静かにスネイプに言った。
「君は、無実の者をまたアズカバンに送り返すつもりか?」
バーンと音がしてスネイプの杖から細い紐が放たれ、ルーピンの体をぐるぐると縛り上げていた。
彼はバランスをくずして床にもんどりうって転がった。
「先生!!」
は悲鳴を上げ、彼の側にしゃがみこんだ。
「 ・・私は大丈夫だ・・セブルスは尋常じゃない。下手に刺激するんじゃないよ・・」
ルーピンは口にまで巻かれた縄の隙間からくぐもった声で、彼女にだけ聞こえるように呼びかけた。
「スネイプ、貴様という奴は!!」
次の瞬間、ブラックが怒りの唸り声を上げ、彼に襲いかかろうとした。
「やれるものならやるがいい」
ブラックの眉間にピタリと素早く杖をつき立てながらスネイプは言った。
「きっかけさえあれば、確実にしとめてやるぞ・・」
ブラックは歯軋りしながらスネイプを睨みつけた。
二人の顔に浮かんだ長年の憎しみは甲乙つけがたい激しさだ。
ハリー、ロンは全く誰を信じてよいかわからなくなっており、お互いに顔を見合わせた。
ハーマイオニ―だけは、ルーピン、ブラックを交互に見て、意を決してスネイプの方にこわごわと近づいた。
「スネイプ先生、私からもお願いします。さっき が言ってたこと・・この人達の言い分を聞いてあげるべきです。」
「ハーマイオニ―!」
の顔がパッと輝いた。
その様子をひどく気に入らずに、スネイプは乱暴に言葉を投げつけた。
「ミス・グレンジャー。君は停学処分を待つ身だ!ポッター、 、ウィ―ズリ―もだ。
お前達は許容されている範囲を超えた!しかも殺人鬼や人狼と一緒になってだ・・君も一生に一度は黙っていたまえ!」
「でも、もし・・これが真実じゃなく虚実だったら大変なことになるのでは?」
ハーマイオニ―はの方をちらりと見て、必死に声を振り絞って言った。
「黙れ!黙れ黙れ!!お前は分かりもしないことに口を出すな!このでしゃばり娘が!!」
スネイプは突然狂ったように、喚きたてた。
ハーマイオニ―は恐ろしさのあまり、黙りこくった。
はムッとしてこれ以上ない怒りが胸の中にムラムラと突き上げてきた。
「 、落ち着くんだ・・君まで取り乱してはいけない・・」
横で縛られ床に転がり、身動き出来ないルーピンが彼女の恐ろしい形相を見て、たしなめるように言った。
「来い!全員だ!」
スネイプは指を鳴らし、ルーピンを縛っていた縄目の端を自分の手元に引き寄せた。
ハリーは次の瞬間、迷わずにサッとドアの前にすっ飛んでいった。
「どけ!!何をしているポッター!!我輩がここに来てなかったらお前の命はなかったのだ」
スネイプが怒鳴った。
「違う!ルーピン先生が僕を殺す機会は何度もあった。僕は彼女と共にディメンター防衛術の訓練を受けた。
もし先生がブラックの手先なら、なぜ、その時に僕たち二人を殺さなかったんだ?生徒二人ぐらいなら簡単に始末できたはずだ」
「人狼がどんな考え方をするか我輩に推し量れというのか!?」
スネイプが喚いた。
「どけ、ポッター!!」
「嫌だ!」
「どくんだポッター!!さもないとどかせてやる!!どけ!!」
もう我慢できない! はすざまじい怒りが限界に達し、ルーピンの見ている前で懐からさっと杖を引き抜いた。
「あっ、・・ 何を・・」
ルーピンがそれに気づく前にだ。
「エクスペリア―ムズ!」
二つの声と呪文が飛んだ。
スネイプの腹に、銀色の閃光が命中し、彼はは景気よく吹っ飛んで近くにあったベッドのヘッドボードに激突した。
「 ・・」
床に転がっていたルーピンはあっけにとられていた。
ハリーは振り返った。そこにはルーピンの隣りで、未だ杖の矛先をスネイプに向けて立っている恐ろしい顔をしたがいた。
「君もやったのか?」
ハリーは何だか誇らしい気持ちになった。
「そうよ、私達、とんでもないことをしてしまったのね・・」
は泣きそうな声で言った。
「こんなこと君達がするべきではなかった」
ブラックがハリー、 を見ながら交互に言った。ハリーは彼から思わず目を反らした。
「でも、こうするしかなかったんです・・」
は潤んだ目で、悲しそうにブラックを見つめた。
その仕草があまりにも母親そっくりだったので、ブラックは驚いてよろけ、顔が火照ってきた。
その間にはルーピンの後ろに回り込んで、杖から小さな火花を放ち、固く結びついている足首、手首の縄の結び目を見事に焼ききった。
「口のところは私が解こう」
いつの間にかスッと、彼女の隣りにブラックがやってきて、ルーピンの口をきつく縛っていた縄の結び目を解き放した。
ルーピンは立ち上がり、紐が食い込んでいた縄目の辺りをさすった。
「ハリー・・ありがとう・・」
「僕はまだあなたを信じるとはいってない」
ルーピンに対してハリーは反発した。
はくすっと微笑んだ。
「さあ、ピーターを渡してくれ!!」
の隣りにいたブラックがロンに向かって叫んだ。
「 待てよ!あんたはスキャバーズなんかに手をくだすためにアズカバンを脱獄したのか?」
彼はネズミを胸にしっかりと抱きしめながら言った。
「シリウス、私も君に聞きたいことがある・・なぜ、ロンのネズミがあいつだと分かった?
しかも、あいつの居場所をどうやって見つけ出したんだい?」
ルーピンが不思議そうに聞いた。
「これを見ろ」
ブラックは囚人服の懐に手をつっこみ、新聞の切れ端を取り出した。
彼はそれを突き出して皆に見せた。
それは日刊預言者新聞に載ったロンと家族の写真だった。
ロンの肩には確かにスキャバーズがのっていた。
「この新聞はアズカバンを視察にきたファッジからもらった。私はこの子の肩に乗っているのがあいつだとすぐに分かった。
こいつが変身するのを学生時代、何回見たと思う?」
「それにこいつの前足を見てみろ!」
「指が一本ない」
ブラックが言った。
「なんてことだ・・」ルーピンがため息をついた。
「シリウス・・あいつは自分で切ったのか?」
「変身する直前にな」
ブラックが言った。
「あいつを追い詰めた時、あいつは道行く人全員に聞こえるように叫んだ。私がポッター、 夫妻を裏切ったとな・・
それから、あいつは私が杖を振り上げるより先に、近くにいた人間を隠し持った杖で皆殺しにした。
そして、素早くネズミに変身し、逃走した。」
「ロン、そのネズミは確か12年も生きているはずだよ・・どうしてそんなに長生きするのか疑問に思ったことはないかい?」
ルーピンが言った。
「そうよ、ちょっとそれはおかしいわね。普通のネズミがそんなに長く生きるなんて聞いたことが無いわよ」
が彼の言葉にピンときて付け加えた。
「先生!それに まで!こいつは僕がちゃんと世話してたから長生きできたんだ!」
ロンはかんかんに怒った。
「今はあまり元気じゃないようだ・・おそらくシリウスが脱獄したと聞いて以来、やせ衰えてきたんだろうな」
ルーピンが納得して言った。
「だけど、何故、ピーターは自分が死んだとみせかけたんだ?」
ハリーは激しい語調でブラックに聞いた。
「お前が僕の両親を殺したと同じように、自分も殺そうとしていると気づいたからじゃないのか!?」
「違うよハリー」
ルーピンが口を挟んだ。
「私達はずっと、シリウスが君やのご両親を裏切ったと思っていた。だが、まったく逆だった。
ピーターがハリーのご両親を裏切ったんだ。あれ、そうすると一つ疑問が残るな? 家の守人は
シリウス、ずっと君じゃなかったのか?まさか・・」
「え?どうなってるの?そうよ、あなたは 家の守人をずーっとしてたのよね?え、ま、まさか・・・」
が目まぐるしい展開についていけずにシリウスに尋ねた。
「ハリー、お嬢さん、そのまさかだ・・ああ、二人共、私が殺したのも同然だ・・」
シリウスの声はかすれ、がっくりと膝をついた。
「まず、お嬢さん・・私は確かに君の家の秘密の守人をやっていた。だが、君のお父さんはそのことに
猛反対をした。だが、エイミーは頑固なまでに信用できるのは私しかいないと言い張った。結局、私はそのことで
秘密の守人になってね・・しかし、私を秘密の守人にしてから君の両親はいさかいが絶えなくなった。なにしろ君のお父さんは
私を忌み嫌っていたからな・・私は自責の念を感じ、ピーターを夫妻の守人に代えるように勧めた。
これがいけなかった・・その直後、君の両親は死んだ。皮肉にも私が夫妻の死を聞いたのは、ポッター夫妻が死んだのと
同じ日だった・・ハリー、私は最後の最後になって君の両親に、ピーターを守人にするように言ってしまった。
エイミーとデニスが殺されたのを知らずにな・・私が全て悪いのだ・・二人が死んだ夜、私はピーターのところへ行く
手はずになっていた。ところが、ピーターの隠れ家に行くと、もぬけの殻だ。しかも争った後がない。
私は不吉な予感がして、すぐ君のご両親のところへ向かった。だが、家は壊され、二人は死んでいた。折りしもその直後に
家で使用されていた血まみれになったカラスが私のところにエイミーの髪飾りをくわえて持ってきた。
その時、私は悟ったのだ。ピーターが何をしたのかを」
涙声になり、ブラックは床に手をついて崩れた。
「じゃあ、あの髪飾りは・・・あなたが私に送って・・・」
は驚いて尋ねた。手は激しく震え、目はしみた。
「そうだ・・あれがエイミーの残った唯一の遺品だった」
ブラックは顔を背けながら答えた。
「話はもう十分だ」
隣りで泣きじゃくるの肩を抱きながらルーピンは言った。
「ロン、そのネズミをよこしなさい!」
「こいつに何をする気だ!?」
彼の声が震えた。
「無理にでも正体を表させる!!もし、こいつが本当のネズミだったらこれで傷つくことは無い!」
ルーピンが床に落ちていた杖を拾いながら答えた。
鋭いキンキンした声が上がった。
「あっ、スキャバーズ!!」
ロンの手の隙間からネズミは身をよじって逃れ、トンと床に下りるとすごい勢いで疾走した。
「待てっ!ピーター!!」
シリウスは床を疾走するネズミを追っかけた。
ルーピンはから離れると、サッと立ち上がり、ピーターの逃げる方向に回り込み行く手を塞いだ。
シリウスとルーピンはやがて両側から挟みうちにし、逃げられないようにした。
「さて、一緒にやるか?リーマス」
スキャバーズをがっしりと片手で掴まえたシリウスが低い声で言った。彼は近くのテーブルにポンとネズミを放った。
「ああ、三つ数えたらだ。一、二、三!!」
また机の上から逃げようとするスキャバーズを見て、ルーピンは早口でまくしたてた。
青白い閃光が二本の杖からほとばしった。
スキャバーズが宙を飛んで、床にぼとりと落ちた。
小さな姿が激しくよじれ、だんだんと人の姿に変化していった。
スキャバーズがいた所には、一人の小柄な男が両手で顔をかばいながら、立っていた。
その男は色あせた薄汚い髪をしていててっぺんに禿げがあった。
尖った鼻に小さな怯えるような目、歯は出っ歯で何となく人間の姿になってもネズミの特徴が現れていた。
「シ、シリウス、リ、リーマス・・」
ピーターは顔を覆うのをやめ、さっと二人の下に駆け寄ってきた。
「やあ、ピーター。しばらくだね」
ルーピンが朗らかに声をかけたが、その目は冷たく凍り付いていた。