雷鳴が轟く。

雨は横殴りに激しく叩きつけた。

「本日の試合はグリフィンドール対ハッフルパフです!!」

実況席から とリーの声がかろうじて聞こえてきた。

ものすごい雨嵐の中、大人気のクディッチを観ようと大勢の観衆がフィールドに詰めかけていた。

「グリフィンドール、ハッフルパフ選手両名の入場です。」

は雨が比較的かからない実況席でマイクで放送していた。

ハッフルパフの選手団がフィールドの反対側から入場してきた。

シーカー兼キャプテンは五年生のセドリック・ディゴリ―である。

「箒に乗って!」

マダム・フーチのかけ声でグリフィンドール、ハッフルパフ両名の選手団が飛び上がった。

試合開始だ。

「ただ今、グリフィンドール、ハッフルパフ両名の選手団が空へ舞い上がりました。

リー、どうでしょう?この天候では誰が誰だか区別がつきにくいです。すごい嵐です。」


、俺にも視界が大雨とこの嵐で遮られてよく見えません!

おおっと、この実況席にもいろんなものが飛ばされてきます。 、よけろ!」


「はいっ、危ないところでした。さて、現在のスコアは50対0、グリフィンドールがリードしています!」


の目の前にさっきから嵐で飛ばされた破れ傘がひんぱんに頭の上をかすめた。


「すみませ〜ん、先ほどからいろいろな障害物が飛んできて、おちおち状況をお伝えすることが出来ませ〜ん!!」


の声が半泣きになったとき、大きなこうもり傘がすごい勢いで飛んできて、隣りで同じく実況していたリーの頭に直撃した。


「ちょっと、リー、リー。ああ、気絶してる・・」

盟友は傘の直撃を受けて完全に伸びていた。


その間、上空ではハリーとディゴリ―のスニッチの奪還が始まっていた。

「はい、上空では、ディゴリ―選手とハリー選手が大接戦を繰り広げています。あ〜っ!今、雷撃を受けたのでしょうか?

 グリフィンドール1名、ハッフルパフ3名の選手が上空から落下してきます!

 さあ、試合はもうどちらのシーカーがスニッチを掴み取るのみになります!

 ディゴリ―選手、急上昇、ハリー選手負けじと追いかける、追いついた、追いついた!

 ああっ!ディゴリ―選手が雷撃をくらいました。

 どうやら意識を失ってるもようで落ちてきます!さあ、スニッチを追いかけるハリー選手・・」

「嫌っ!」


!!」

横にいたマグゴナガルが驚いて叫んだ。

がマイクで気絶したリーの代りに熱弁を振るっていると、

実況席のすぐ横を吸魂鬼がふわふわと通り過ぎていくのが、はっきりと視界に入ってきた。

そしてそのまま彼女はマイクを落し、何も言わずに座っていた椅子から崩れ落ちた。

一方ちょうどその頃、ハリーも上空で何匹ものの吸魂鬼に行く手を阻まれ、そのまま気を失って地面に落下していくところだった。


「動きよ止まれ!」

ダンブルドアは落下していくハリーを指差して、急いで速度を落とす呪文を唱えていた。



「ハリー、ハリー!」

「気分はどうだ」



「だめだわ、まだ眠ってる」

ここは医務室だ。

ハリーの上に真っ青のフレッド&ジョージの顔があった。

「どうなったの?」

彼は勢いよくベッドから起き上がった。

「ああ、君落ちたんだよ。そう二十メートルぐらい下にね」

ジョージが言った。

「試合は?どうなったの?」

彼は一番気になっていたことを聞いた。

誰も何も言わない。

「僕たち、負けたの?」

彼は嫌な予感がして再び尋ねた。

「あ、え、その・・」

ロンが口篭もった。

「負けたわ・・ハリーこんなこと言いたくないんだけど・・」

がいるベッドの側にいたハーマイオニ―がグスッと涙ぐみながら言った。


それを聞いてたちまちハリーはがっくりとうなだれた。

「そんな、試合負けたんですって?」

!気がついたのね?」

「姫!びっくりしたぜ。マグゴナガルが顔面蒼白の君をここに運んできたんだからな。先生が言ってたんだ。

 君もハリー同様吸魂鬼を見て気絶したんだって・・」


ハリーの隣りのベッドでようやく起き上がった にハーマイオニ―、双子、ロンは胸をなでおろした。

「ダンブルドア先生はすごく怒ってらしたわ。あいつらが学校の敷地内に無断で入ってきたことをね。先生は落下していくハリーに

 魔法をかけて落下速度を緩めたのよ。それから先生は魔法で担架を作り出してあなたをここへ運んだわ」


「そう、そうだったんだ。で、誰か僕のニンバスを捕まえてくれた?」

ハーマイオニ―に彼はおそるおそる聞いた。

「それがね、ハリー・・これ・・」

ロンがカバンからニンバスのぼろぼろになった残骸を取り出しておずおずと差し出した。


「そんな、ひどい・・あんまりだわ」

いつのまにかハリーの側にきた はショックで嘆いた。

「あの・・あなたが落ちたとき、ニンバスは吹き飛んで、暴れ柳に激突したのよ」

ハーマイオニ―がの頭をなぜながらハリーに説明した。


「そんな・・そんな・・・・嘘だ・・・・」

彼はニンバスの残骸を呆然と見つめた。

「ハリーー・・可愛そうに」

ハーマイオニ―と はあまりにも不憫で変わりばんこに彼を抱きしめて慰めた。






「試合のことを聞いたよ。箒は残念だったね。修理することは出来ないのかい?」

月曜日、闇の魔術の防衛術の授業が終わってから、ルーピンはハリーと を森に連れ出した。

「いいえ、あの木がこなごなにしてしまいました」

ハリーはうなだれてルーピンに返答していた。

「あまりにもひどすぎるわ」

もその時のことを思い出し、悲しそうに呟いた。

ルーピンは を見やりため息をついた。

「ハリー、あの暴れ柳は、私がホグワーツに入学した年に植えられた。あの木に箒が激突したらひとたまりもないだろうね・・」


「先生はディメンターのこともお聞きになりましたか?」

ハリーが言った。

「ああ、聞いたよ。校長がものすごく腹を立てていらっしゃった。ディメンター達は

 アズカバンでは沢山の囚人を餌食にしてきた。だが、ここでは校長が奴らを校内に入れなかったので飢えてきた。

 クィディッチ競技場の大観衆の魅力・・彼らは我慢しきれなかった。あの大興奮・・感情の高まり・・奴らにとってはご馳走だ。

 たぶん、君と はあいつらが原因で気を失ったのだろう」


「はい」

とハリーは沈んだ声で答えた。

「でも、いったいどうして私やハリーはあいつらの悪影響を強くうけるのでしょうか?」

は思わずルーピンに質問した。

「それは、ディメンターが他の誰よりも君たち二人に影響するのは、二人の過去に、誰も経験したことのない恐怖があるからなんだ」

枯れた木の葉がルーピンの白髪交じりの鳶色の髪の毛にはらはらと落ちてきた。

ルーピンはさらに続けた。

「ディメンターは地上を歩く生き物の中で最も忌まわしい物の一つだ。彼らは幸福、平和、希望を吸い取る。彼らはやろうと

 思えば相手をむさぼりつづけ、しまいにはディメンターと同じ状態にしてしまうことが出来る。邪悪な魂の抜け殻にね。

 ハリー、 。君達の最悪の経験はひどいものだった。君たちのような目に遭えば、どんな人間だってそうなる。

 だから君たちはけっして恥に思う必要はない」

「あいつらが側に来ると・・」

ハリーは声を詰まらせた。

「ヴォルデモートが僕の母さんを殺したときの声が聞こえるんです」

「私は両親が殺された夜の記憶がはっきりとよみがえるんです。

お母さんの最後の断末魔、それから誰かが斧をふりおろすような音・・ああ、もう

 これ以上は言えません・・いや!思い出したくない!」

は耳を両手で塞ぎ、その場にしゃがみこんだ。

、それ以上無理に言う必要はないんだよ・・」

ルーピンは打ちひしがれている彼女の手を取って立たせた。


「先生!」

ハリーは を見て、意を決した。

「先生は汽車の中であいつを追い払いました。僕と彼女にあいつらを追い払う防衛の方法を教えて下さい!」

「ハリー!?」

は途端に泣くのをやめ、彼を見上げた。

「ハリー、私は決してディメンターを追い払う専門家ではないが・・」

「私からもお願いします。もうこれ以上あいつらのせいで他の人に迷惑をかけたくないんです。」

は列車の中で吸血鬼になってしまい、ルーピンに噛み付いてしまったことを急に思い出し、意を決してルーピンに言った。

「分かった。二人がそこまでいうのなら何とかやってみよう。ただし休暇が終わってからね・・」

ルーピンはにっこりと微笑んで納得してくれた。

はらはらと木の葉が落ちてきて、三人の目の前を舞った。

二人 にようやく笑顔が戻ってきた。





十一月、暴れ柳は真っ赤な紅葉に覆われた。

雨は十二月まで降り続いた。

学期が終わる二週間前、空はからっと晴れ上がった。

、クリスマス休暇はどうするの?」

呪文学の時間、ハリーが聞いてきた。

「え、ああ今年はホグワーツヘ残るわ。」

は羽ペンを動かしながら軽く答えた。

「ほんとに!?私も残るのよ!」

ハーマイオニ―も嬉しそうに言った。

「マジかよ。じゃあ今年は全員残れるな!万歳!」

ロンが歓声を上げた。

三人は手を叩いて喜んだ。





それから、学期の最後にホグズミード行きが許された。ハリー以外の皆が大喜びした。

でさえ、伯母のサインしてくれた許可証があるし、体調も万全なのでうきうきとロン、ハーマイオニ―とホグズミードについて話していた。

「ハニー・デュークスでチョコレートが買えるわ!ああ、嬉しい〜!」

、それだけじゃないぜ!あそこのミルフィーユ食べてみな。目が飛び出るよ!」

「寒くなるわね〜コートとジーンズが必要だわ」

「ハーマイオニ―、よかったら毛皮の房飾りのついたハーフブーツ貸してあげましょうか?私同じのが二足あるのよ!」

、それ本当?あの前見たかっこいい茶色のブーツでしょ!やった!」



「ごめんなさい、ハリー今回残れなくて」

出かける前、玄関ホールで が申し訳なさそうに言った。

「何?そんなことぜーんぜん気にしてないよ!よかったね、今回行くことが出来て・・楽しんでおいでよ!」

ハリーは精一杯平気を装いながら言った。

「さあ、行こうか。」

ロンは後ろ髪を引かれる思いでハリーを見てから、ハーマイオニ―と の腕を引っ張って立ち去った。




ロン、 、ハーマイオニ―はホグズミードに着くと、真っ先にハニー・デュークス店に寄った。

、そのチョコ誰にあげるの?」

ハーマイオニーがチョコレートが置いてあるボックスの中から、8個も色んな種類のチョコレートを引っ張り出してるのを見て聞いてきた、

「3つはハリー、あとは内緒!」

「え〜怪しいわね〜あっまさか!誰か特別な人にあげるんでしょう?そうじゃない?」

「え、まあそうだけど・・」

ハーマイオニ―が突っ込んできたので は真っ赤になった。

「お〜い、お二人さん。ミルフィーユ買っといたよ!僕のおごりね」

そこでロンがにっこりと笑ってレジに会計をはらいにいった。



「あれが叫びの屋敷?」

降り積もった雪を踏みしめながらロン、ハーマイオニ―、 誰もいないただっぴろい野原のような場所にいた。

「そうだよ」

「ね、是非いかない?」

「いや、僕は遠慮しとくよ」

「何よ、男じゃない」

「じゃ、じゃあ行ってみようか?」


「な、何よこのいい雰囲気は・・私はお邪魔かしら」

近くの木の柵にもたれかかり、 の存在が全く目に入らないように延々と甘いムードが漂う二人組から彼女はそろそろとあとずさった。


「お二人さん、新居をお探しかな?」

嫌みったらしい声が雪原に響いた。

「嫌、ちょっと離してよ!」

がクラッブとゴイルに両腕を捕まれ、じたばたしていた。

「叫びの屋敷なんかいいんじゃないか?ウィ―ズリ―、違うかい?自分の部屋が欲しいなんて夢見てるんだろう?

 君の家は狭すぎて皆で雑魚寝してるって聞いたけどやっぱり本当なんだな」

ドラコ・マルフォイが嘲ったように言った。

「おい、 を離せよ!嫌がってるじゃないか!」

「そうよ、今すぐ離しなさいよ!」

ロンとハーマイオニ―がかんかんに怒った。

「いいじゃないか。このまま仲のよろしい二人の側にいても彼女が窮屈なだけだ。ちょっと を借りていくぐらいいいだろ?」

「離しなさいよ!」

「マルフォイ!勝手な事をいうな!」

「黙れ、穢れた血!僕に気やすく口を利くな!だいたいウィ―ズリ―。君は魔法族の恥だ。こんな穢れた血と付き合って・・」

マルフォイが口をゆがめて嫌味を言ったときだった。

バシャン!

「うわっ!」

マルフォイの横顔に雪球が飛んできた。

「誰だ!?」

「うわっ、あっ、あっ!」

今度はクラッブ&ゴイルの横顔に雪球が何発も飛んできた。

二人は驚いて をつかんでいた腕を離した。

、早くこっちへ来い!」

ロンが叫んだ。

は雪を蹴って物凄い速さで彼のもとへ駆け寄った。

マルフォイは何とも情けない声を上げ、見えない誰かに足を引っ張られ急斜面を転がり落ちた。

「スキー板はどうしたんだ?ブレーキがきかないのか?」

ロンは遠くから落ちていく彼を見て大声ではやしたてた。

それを聞いたハーマイオニ―と は腹を抱えて笑いだした。

「うわっ、あっ、助けて〜!!」

クラッブ&ゴイルはその間にも次々と雪球を投げつけられていた。

「お、お前らいくぞ〜!!」

そして、マルフォイのかけごえで子分たちはほうほうのていで斜面を駆け上がり、もときた道へ逃走した。



「こら、ハリー、いるのは分かってるのよ!」

ハーマイオニ―の栗毛と の黒髪の何本かが空中に浮かんでいた。

ここでようやく透明マントを脱いで問題の彼は、笑いながら姿を現した。

「どうやってここに来たの!?」

は嬉しいやら驚いたやらで言った。

「これさ。フレッド&ジョージにもらったんだ」

ハリーはポケットからくちゃくちゃの「忍びの地図」を取り出し、一部始終を三人に語った。

「なんで兄貴は僕にこの地図をくれなかったんだ!弟じゃないか!」

ロンは早速その事実に憤慨した。


「ねえ、ハリーこの地図をマグゴナガル先生にお渡しするわね?」

「何言ってるのよハーマイオニ―!こんな貴重品なんでわざわざあの先生に渡さなきゃいけないのよ!」

「そうだよ、僕は渡さないよ」

「ハーマイオニ―、気は確かか?ハリーはこれのおかげでここに来れたんだぜ。」

、ハリー、ロンがハーマイオニ―に口々に反論した。

「それじゃシリウス・ブラックのことはどうするのよ!?」

ハーマイオニ―は負けじと反論した。

「この張り紙を見たか?この村にはディメンターのパトロールが毎日入るんだぜ。

ブラックがハリーを狙いにここへのこのこと来れると思うかい?」

ロンが店のドアに張ってある紙を指差した。

「だけど、ハリーは許可証にサインをもらってないんだからそれこそ、誰かに見つかったらどうするの?」

ハーマイオニーはそう言ってしつこく食い下がった。

「もういいじゃないか。来てしまったんだから。ハリーだってクリスマスを楽しまなきゃ」

ロンは彼女を軽くとりなした。

、何とか言ってよ!」

ハーマイオニ―は心配でたまらないと言う顔で女友達に助けを求めた。

「私もロンの意見に賛成よ。大丈夫だって!これだけ大勢の人がいるのよ」

はハーマイオニ―を落ち着かせるように言った。

「よ〜し決まったな。多数決で3対1.君に勝ち目はないよ、ハーマイオニ―。

 そうだ!こうしよう。今から「三本の箒」でバター・ビールを飲まないか?もちろん僕のおごりで」



「ああん、もう〜!」

ハーマイオニ―はにっちもさっちもいかなくなってしまった。



四人は小さな居酒屋に入っていった。

ロンは真っ先にカウンターに行き、女主人からバター・ビール4ジョッキ分を買った。

その間に三人は奥の小テーブルに席を取った。

五分後にロンがトレーに大ジョッキ四本をのせてやってきた。

「メリー・クリスマス!」

彼は嬉しそうに大ジョッキを揚げた。

「かーんぱーい!」

の声で四人はお互いにグラスをつつき合わせた。

「おいし〜い」

ハリーと は感激した。



四人がバタービールに舌鼓を打っていたちょうどその時、ひゅーっと冷たい風が入り口から 達のところまで吹き込んできた。

途端にハリー、 は激しくむせこんだ。

マグゴナガル、コーネリウス・ファッジ大臣が舞い上がる雪に包まれてパブに入ってきたのだ。

「隠れて!!」

とっさにハーマイオニ―、 がハリーの頭をつかんでグイッとテーブルの下へ押し込んだ。

それからハーマイオニーは魔法の杖を一振りし、近くにあったクリスマス・ツリーを引き寄せてテーブルの

真ん前に置いて四人の姿を隠した。

は枝の合間から、自分達のすぐ側のテーブルの二組の椅子が引かれるのを確認した。

しばらくするとマグゴナガルと大臣の注文した飲み物を抱えて、女主人マダム・ロスメルタがやってきた。

「どうだね、君も一杯やらんかね?」

ファッジが飲み物をテーブルに並べ終えた彼女を誘った。

「まあ、光栄ですわ。大臣」

その言葉に女主人は遠慮せずに近くにあった椅子を引き、彼の隣りに座った。

ハリーはテーブルの下でビクビクと縮こまっていた。

先生と大臣はいつまでここにいるつもりなのだろうとはやきもきしながら考えた。

「それで、大臣今日なぜここにお出ましになりましたの?」

マダム・ロスメルタは言った。

「ああ、他でもないシリウス・ブラックの件だよ。マダム。ハロウィーンに奴が校内に侵入したことは聞いているかね?」

ファッジ大臣は周りを少し見回してから言った。

「ええ、うわさは聞きましたわ。大臣、ブラックがまだこのあたりにいるとお考えですの?」

マダム・ロスメルタは囁くように言った。

「でもねえ、こんなことを言うのはなんですけど、私にはまだ信じられないですわ。

どんな人間が闇の側に荷担しようと、シリウス・ブラックだけはそうならないと

私は思ってました。あの人がまだ学生だった時のことを覚えてますわ・・」

「ブラックのホグワーツ時代を覚えてるとおっしゃいましたね?あの人の一番の親友が誰だったか覚えてますか?」

マグゴナガルが呟くように言った。

「ええ、もちろんですわ」

女主人はそこでクスクスと笑った。

隣のテーブルでは、 とハリーが耳をそばだてていた。

「いつでも一緒、影形のようでしたわ。ここにもしょっちゅう来てました!ああ、あの三人にはよく笑わされたわ。

シリウス・ブラック、ジェームズ・ポッター、エイミー・ブラド!」

その言葉にハリーが手に持っていた大ジョッキをポロリと取り落とした。

「馬鹿っ!」

とロンが小声で怒鳴って、ハリーを蹴った。

「その通りです。ブラック、ポッター、エイミーは悪戯の名人。三人共それはそれは非常に賢い子でした・・」

マグゴナガルはふっと微笑んだ。

「ブラックはエイミーにそりゃもう夢中でしたわ。私には少なくともそう思えましたもの。

 ここに来たら、競ってエイミーにバタービ―ルやらいろんなものをおごってました。フフフ・・エイミーは彼らのことを親友と

 思ってたようですが、彼らのエイミーに対する思いは恋としか見えませんでしたわ」

女主人はクスクスと笑った。

「ねえ、さっきからエイミーっていう女の人が頻繁に出てきてるけど誰なのかしら?」

ハーマイオニ―とロンが額をつき合わせてヒソヒソと喋っていた。

「え、あの、実はね・・エイミーは私のお母さんなのよ」

がゆっくりと説明した。


今度はロン、ハーマイオニ―、ハリーがそろってグラスを落としてしまった。

「馬鹿っ!な、なにしてるのよ!。」

は慌てふためいて、グラスをテーブルの上に順々に戻していった。

だが、そのすざまじい音は、パブの中にいた流れ者の楽団の奏でるバイオリンとボズランの軽快な音にかき消された。


「フーム、確かにエイミーは学校中で多大な人気がありましたからね・・

彼女がヨーロッパ、アジア公演から帰ってきた時、学校中がお祭り騒ぎのようになりましたもの。

ブラック、ポッター以外に彼女のファンは沢山いましたわ。エイミーは学校にいる間中、手紙やらサイン攻撃に追いまくられてました・・」

マグゴナガルがその時のことを思い出して噴出した。


「ところでポッターは他の誰よりもブラックを信用した。卒業してもそれは変わらんかった。

ブラックはジェームズとリリーが結婚したときの新郎の付き添い役を務めた。

二人はブラックをハリーの名付け親にした。ハリーは全く知らないがね。こんなことを知ったらハリーがどんなにつらい思いをするか・・」

ファッジ大臣はそこで悲しげに呟いた。

ハリーはテーブルの下で酷く青ざめていた。

も他人事ではない話にいささかショックを受けたようだった。


それから、大人たちの話題は「忠誠の術」、 夫妻とポッター夫妻がヴォルデモートにつけ狙われていたことに移った。

「それじゃ、ブラックはポッター夫妻と 夫妻の二重の「秘密の守人」をしてましたの?」

マダム・ロスメルタが言った。

「信じられない話でしょうが、事実なのですよ。ロスメルタ。」

マグゴナガルが言った。

「あの当時、適格な人間が見つからなかったのです。ジェームズとエイミーはブラックだったら四人の居場所を教えるぐらいなら

死を選ぶだろうと考えていました。エイミーの夫、デニスはこれには猛反対でした。

なぜならデニスとブラックは同じグリフィンドール寮でありながらかなりの犬猿の仲でした。

寄ると触るといがみあってばかり・・原因はエイミーのことですわ。二人共それはそれは深く彼女を愛してましたから。

デニスはそれが気に食わなかったんです。まあ、結局エイミーの押しでブラックは二つの家の「秘密の守人」になりましたがね」


「そして、術をかけてから一週間もたたないうちに・・」

ファッジは悲壮そうに呟いた。

「ブラックが四人を裏切った?」

女主人も声をひそめて言った。

「まさにそうだ。ブラックは二重スパイの役目に疲れて、「例のあの人」へ完全に鞍替えするつもりだったのだ。

、ポッター夫妻の死に合わせて乗り換える計画だったらしい。ところが「例のあの人」は幼いハリーのために凋落し、

おまけに にはまんまと逃げられた。いや、エイミーがこっそりと逃がしたのだよ。彼女はもう自分が死ぬことが分かっていたんだ。

そのため、例のあの人は力も失せ、酷く弱体化して、逃げ去った。

ブラックにしたら後がなくなったわけだ。彼はもう逃亡するしかなかったんだ」

ファッジがやれやれと言った。

「でも逃げおおせなかったわね?魔法省が次の日に追い詰めたわ!」

マダム・ロスメルタが勝ち誇ったように言った。


「いいや、奴を一番最初に追い詰めたのはピーター・ぺディグリュ―だった。ポッター、 夫妻の友人の一人だ。

彼はブラックが両家の「秘密の守人」であることを知っていた。そして、自らブラックを追った。

しかしながらぺディグリュ―は返り討ちに合い、英雄として死んでしまった。

泣きながら「リリー、ジェームズ、エイミー、デニスが、シリウス!よくもそんなことを!」と言っていたそうだ。

それから、杖を取り出そうとしたが、ブラックに出し抜かれ、木っ端微塵に吹き飛ばされてしまった。

道の真中に深くえぐれたクレーター、たまたまそこにいたマグルも全員吹き飛ばされ、死んだ。

ぺディグリュ―は血だらけのローブとわずかな肉片、そう、親指だけを残して死んだ。」

ファッジの声は突然途切れた。

女性達は涙をこぼしていた。


、ハリーは徹底的にうちのめされた。

彼女 はテーブルにつっぷし、体を震わせ、声を必死に押し殺して泣いた。

ハリーもテーブルの下で彼女同様、声を殺してしゃくりあげていた。




先生、ファッジ大臣がようやく出て行くと、ロン、ハーマイオニ―は

マダム・ロスメルタが酒のつまみを作るために、カウンターの奥に引っ込んでしまったのを

確認して泣きじゃくっている二人を出口へと追い立てていった。



「友達だったのに!ブラックは父さんの親友だったのに!」


今、四人ははパブを出て、ただっぴろい、誰も来ない雪の降り積もった野原にいた。


ハリーは拳で積雪した地面を叩き、ブラックをさんざんに罵った。


「お母さんは馬鹿よ!大馬鹿よ!何でそこまでブラックにこだわったの!?だからあんな目に・・」

は寒いという感覚すら忘れて、凍った地面に顔をこすりつけ激しく叫んだ。

「殺してやる!!父さんの敵を取ってやる!!」

ハリーの目は憎悪で赤く血走っていた。

「ハリー、ハリー、それはダメ!あなたまで殺人者になってしまうわ!

ハーマイオニ―が暴走する彼を必死で止めようとしていた。


「じゃあ、どうすればいいの?どうすればいいのよ!?このまま逃亡してるブラックをほっとくの?

私だって殺してやりたいわ!彼はお母さんを愛していたんでしょう?

なのによくもぬけぬけとお母さんを裏切って!愛する人をこうも簡単に裏切るなんて・・」

はくやしくて、くやしくて、自分の唇を血が出るほど噛み締めた。



「ハリー」

ハーマイオニ―は激しく泣きじゃくる彼女をたまらなくなって抱きしめた。

ロンはハリーの側に行き、何も言わずにずっと泣き叫んでいる彼の側いてやった。


どうやって城へ戻ったのかはっきりと覚えていない。

どうして先生方、大臣は私達に両親の死の真相を教えてくれなかったのだろう?

、ハリーはぼんやりと思った。

その夜、彼はハグリッドが二年前にくれた革表紙のアルバムをめくって物思いにふけっていた。

アルバムには、父親と母親の写真以外にルーピン、シリウス、 の両親の写真がところどころまぎれてあった。

エイミーは本当に今のと瓜二つの容貌だった。唯一違うのは父親譲りの黒髪だけだ。

ハリーはエイミーとシリウス、ジェームズが肩を組んでにこやかに笑っている写真を眺めた。

「これは、父さんと母さんの結婚式の写真・・花婿付添い人、シリウス・ブラック。花嫁付添い人、 エイミー・ブラド。のお母さんじゃないか!」

ハリーは次の写真を見た瞬間、さらに驚いて叫んだ。

シリウス・ブラックはとてもハンサムで溢れるような笑顔だ。この写真が写された時はもう「例のあの人」の側で働いていたのであろうか?

(彼は吸魂鬼が側に来ても、平気なんだ・・)

途端に激しい憎しみ、悲しみが彼の体を包んだ。

ハリーの手からアルバムが滑り落ちた。彼はあまりにも疲れすぎていた。

彼はいつのまにか深い眠りに落ちていた。

一方、 はまだ泣いていた。眠れない、到底眠れる筈もない。目はらんらんと冴え渡っていた。

そのまま彼女 は夜の寮を抜け出し、あてどもなく廊下をさまよった。

父親がよく歌ってくれた歌を、彼女はドイツ語と中国語で小さくハミングしはじめた。

悲しみが胸を突き上げて彼女の声はふと途切れた。

「どうして・・こんな・・」

彼女はふと横にある窓を見上げた。

窓から下を覗くと、かなりの霧が立ち込めていた。

(あの霧に飛び込めば、私をすっぽりとあの霧が包み込んでくれる。そうすれば、両親にも再会できる。

この耐えがたい苦しみからも逃れられるかもしれない)

彼女はぼんやりとそんなことを考え、じっと下から立ち込めてくる白い霧を眺めていた。

!?何をやっているんだ!」

ちょうどいいタイミングで、廊下を巡回していたルーピンが彼女の姿を発見した。

ルーピンは窓枠から身を乗り出し、霧を熱心に覗き込んでいる彼女の元に慌てて駆け寄って引き離した。

「いったい何をやっているんだい!?私は心臓が止まるかと思ったよ!!」

ルーピンは腕の中でぼんやりとうつろな表情をしている彼女に血相を変えて怒鳴った。

「ごめんなさい・・こんな無様な姿をさらしてしまって・・でも今は泣かずにはいられないんです・・」

彼女はルーピンの腕の中で激しくしゃくりあげた。

「何か大変なことがあったようだね・・よし、ここにいてもどうにもならない。

実はさっきからセブルスもこの辺りを巡回してるんだ。見つかったら私のようにいかないよ。

急いでここを去るんだ。とりあえず話は私の部屋に行ってから聞こう。またさっきのような危ないことをされては困るし・・
 
とにかく落ち着くんだ。君にはそれが必要だ」

彼女は返事もせずにまだ彼の腕の中で泣いていた。

彼はそんな彼女をなだめ、肩に静かに手を回すとスネイプに出くわさないように

安全な道を通って自分の部屋へと連れていった。
 




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