「チクショー、何だよこの杖!?」
「ロン、こっちに向けないで・・危ないったら・・ああっ!」
「何をしてるんですか!?」「マグゴナガル先生、すみません!!」
翌日の最初の「変身術」の授業でハーマイオニ―不在のため、
臨時でロンの隣に座った は突然、変な音を立てて爆発したロンの杖で顔がすすだらけになるという被害を受けた。
「もう、その杖何とかしなさいよ!」
「ゴメン」
はハンカチで顔をふきながら、かろうじて原型をとどめているロンの杖を眺めた。
「え〜〜、皆さん6月1日から期末試験が始まります。」マグゴナガルが杖の暴発事故が収まったのを確認して言った。
「試験?こんな時にまだ試験があるんですかぁ!」
シェーマスが素っ頓狂な声をあげた。
「何を言ってるのですか?こんな時でも学校を閉鎖しないのは皆さんが教育を受けるためです。
よって、試験はいつもどおりに行います。皆さん、よく復習しておくように。」
マグゴナガルは厳しく言った。
「こんなんで試験が受けられるかよ?」
ロンがまたピーピー大きな音を立て始めた自分の杖を持ち上げて、ハリー、 に問いかけた。
そして、最初のテストの3日前、マグゴナガル教授がまた発表をした。
「よい知らせです。スプラウト先生のお話では、とうとうマンドレイクを収穫できるとのことです。
今夜、石にされた人を蘇生させることができるでしょう。」
「じゃ、ハーマイオニ―が戻ってくるんだ!」ロンが嬉しそうに叫んだ。
「彼女が全てを話してくれるわ!!」 とロンが嬉しそうに話し込んでいる途中、ジニ―・ウィ―ズリ―がやってきて、彼の隣りに座った。
「どうしたんだ?顔色が悪いぞ」ロンがオートミールを食べる手を止めて聞いた。
「あた、あたし、言わなきゃいけないことがあるの・・」
ジニーは辺りを見渡し、スーッと深呼吸してかぼそい声で話し始めた。
「なんなの?」ハリーが優しく尋ねた。
ジニーは何かに怯えた表情をしている。
「いったい何なの(んだよ)?」 とロン, が同時に聞いた。
ジニーは口を開いたが言葉が出てこない。
「秘密の部屋のことなの?何か見たの?」
ハリーが少し前かがみになって、ロンとジニー、 にだけ聞こえるように言った。
その瞬間、少し寝坊したパーシーが現れた。
「ジニ―、食べ終わったのなら僕がその席に座るよ。腹ぺコだ。」
ジニーはパーシーの方をちらっと見るなり怯えた顔で椅子から立ち上がり、そそくさと立ち去った。
「パース!」ロンが怒った。
「ジニ―が何か大切なことを話そうとしてたのに!」
「私、気になるからちょっと行ってくる!」
「 !」
ハリーが叫んだが、彼女は慌てて椅子から立ち上がり、食べかけのベーコンを置き去りにしたままつむじ風のように駆けていった。
スリザリン席の側を通る時、ドラコが愛想よく「おはよう」と声をかけてきたが、 は聞こえなかった振りをして通り過ぎた。
すかさず、隣りに座っていたパンジー・パーキンソンがドラコの足を踏んづけた。
「待ってよ、ジニ―。息が切れそうだわ。何か話したいことがあるんでしょう?私じゃダメかしら。」
がやっとこさ階段を上っていくジニ―に追いついて引き止めた。
「あの、あの・・・ごめんなさい。やっぱりだめだわ。」
だが、ジニ―は逃げるように彼女の手を振り払い、残りの階段を駆け上がって姿が見えなくなってしまった。
その日の午後、ハリー、ロン、 はこっそりとハーマイオニ―の見舞いに行った。
「何だろ?これ?」
医務室のベッドに横たわっているハーマイオニ―を見ていたハリーが彼女の右手に握られていたものを発見した。
「何とか取り出してみてくれ」ロンが言った。
ハリーは悪戦苦闘の末、ハーマイオニ―の手の中からそのものを取り出した。
「何かのきれはしだわ。」
「読んでみて・・」
とロンが言った。
その紙切れの中は図書館の古い本からちぎられたもので毒蛇の王、バジリスクの事が書かれていた。
「パイプ」ハーマイオニ―の筆跡で説明文の下に目立つような大きな文字が書き加えられていた。
「ああっ!」とハリーが何か思いついたように声を上げた。
「これが答えだよ。秘密の部屋の怪物はバジリスクだ!だから僕だけあちこちでこいつの声を聞いたんだ。」
「じゃあ、視線で人を殺すってここに書いてあるけど、ああっ、なるほどね!何で被害者が皆死んでないか分かったわ。
怪物を直接見てないからよ!」 がパチン!と嬉しそうに膝を叩いた。
「コリンはカメラ、ジャスティンは首なしニックを通して見た、ハーマイオニ―は鏡、ミセス・ノリスはあの時、トイレから水が流れてたでしょう?
あれに映った自分の姿を見たのよ!」
「だけど、バジリスクはどうやって城の中を移動してたんだ?かなりの大蛇なんだからだれかに見つかるだろう?」ロンが不思議そうにが呟いた。
「パイプ、奴は配管を使ってた。僕にはあの壁の中から声が聞こえた。」ハリーが厳かに言った。
「そして・・秘密の部屋への入り口はそこにある!嘆きのマートルのトイレだ!」
ロンが嬉しそうにハリーの腕をつかんだ。
「そうね、これまでのことを統合すると全てつじつまが合うわ。当たってる確率は90%ね!」 がしきりに頷いた。
「この学校で蛇語を話せるのは僕だけじゃない。おそらくスリザリンの継承者も話せるだろう。そいつがバジリスクを操ってるんだ。」
ハリーがそう言って締めくくった。
「まさか!今日ジニ―が私たちに話したかったってことはそれに関係のあることだったんじゃない?」
「何だって!?僕ハ―マイオニ―の所へどうやって行くか考えていて忘れていたよ。だって先生方があちらこちらで目を光らせてて
とてもじゃないけど監視の目をかいくぐれそうになかったから・・」
ハリーがひどく驚いた。
「じゃあ、ジニ―が危ないよ!もし、ジニ―が秘密の部屋の重大な秘密を握ってるとしたら?」
「スリザリンの継承者は次はジニ―をねらう・・。」
ロンと の顔がサァーッと青ざめていく。
「大変だ!」三人は叫んだ。
次の瞬間、三人は医務室の扉を乱暴に開けて、外に飛び出した。
「職員室だ!マグゴナガル先生のとこへ!」
ハリーが叫んだ。
三人は職員室の扉を乱暴に開けた。
「誰もいないじゃない!」 がじれったそうに叫んだ。
「今は授業中だよ!いるわけないよ。だって僕ら教室移動の時に無断でぬけだしてハーマイオニ―に会いに行ったんだぜ。」
ロンがまっとうな意見を述べた。
とその時、「生徒は全員、それぞれの寮に戻ること。教職員の皆様、至急、職員室にお集まりください!」
いつも鳴る休憩時間のベルの代わりにマグゴナガルのアナウンスが魔法で何倍にも拡声されて、廊下中に響き渡った。
「先生方が来るわ!」
「 !!ロン!ここに隠れて!」
ハリーは素早く辺りを見回し、隅に置かれていたやぼったい洋服かけの中へ二人を引っ張り込んだ。
数分後、どやどやと教師陣が部屋に入ってきた。
「緊急事態です。」
おおかた先生方が集まったのを確認するとマグゴナガルは口を開いた。
「秘密の部屋へ、生徒が一人怪物によって連れ去られました。」
フリットウィック先生が悲鳴を上げた。他の先生方は口を手でおおった。
「スリザリンの継承者がまたあの壁に・・「彼女の白骨は永遠に秘密の部屋に横たわるであろう」と書き残しました・・」
「連れ去られた生徒の名前は?」マダム・フーチががっくりと後ろの椅子に倒れこんだ。
「ジニ―・ウィ―ズリー」
ロンが力なく崩れ落ちるのをハリーと は見た。
「全校生徒を明日帰宅させます。ホグワーツは閉鎖せざるをえません。」
マグゴナガルが思い詰めたように言い放った。
その時だ。バタンと景気よくドアが開かれた。
「遅れて申しわけありません。ついウトウトとー―――何か聞き逃してしまいましたか?」
案の定、不謹慎なぐらい元気なロックハートが息を切らして戸口に立っていた。
「あの馬鹿教師!」 が洋服かけの中で悪態をついた。
しかも彼はこの非常時にあろうことか、にっこりと笑みまで浮かべていた。
先生方がいっせいに、憎しみをこめた目つきでロックハートを見た。
「なんと、適任者ですぞ。まさに適任だ!ロックハート、女子学生が怪物に拉致された。秘密の部屋の中にだ。いよいよ出番が来ましたぞ。」
スネイプがずいと進み出てマグゴナガルに進言した。
「え、私は・・その・・私は・・」その言葉に急にロックハートは血の気の引いた顔で、わけのわからないことを口走った。
すると水を打ったようにその他の先生からやんや、やんやといろんな理由をつけられ、
彼はたちまち秘密の部屋への直行を決められてしまった。
ロックハートが部屋に戻って支度をしますと言って出て行ったのを確認すると、マグゴナガルは再び口を開いた。
「さて、これで、厄介払いが出来ました。寮監の先生方、各寮の生徒らに事の説明をしてください。
それから、明日一番のホグワーツ特急で生徒を帰宅させると言ってください。」
先生方が職員室に出て行ってから、 達は最悪な気分で寮の談話室に戻った。
「あんちくしょう! の言うとおりジニ―は何か知ってたんだよ!」ロンがくやしそうに談話室のテーブルを叩いた。
「だから、連れてかれたんだ!」ハリーも言った。
「あの時、私が無理にでも彼女から聞きだしていれば!」 はそういうとわあっと自責の念に駆られ、泣き出した。
「泣くなよ!まだ全てが終わったわけじゃない。」ロンが激しく目をこすりながら に言った。
「会いに行くんだ!ほんのわずかな可能性でも捨てたらいけない。」ロンは の肩を優しく叩いた。
「ロックハートのところに!?」ハリーが言った。
「そうか、あいつに僕たちの知っていることを教えてやるんだ!ロックハートは何とかして秘密の部屋に押し入ろうとしてるんだ。
それがどこにあるか僕たちの考えを話して、バジリスクがそこにいるって教えよう」
ハリーはそういうとサッと椅子から立ち上がった。
「ああ、ポッター君、ウィ―ズリ―君、それにミス・ 。」
彼の部屋に着いて、ノックするとドアがほんの少しだけ開き、ロックハートの目が覗いた。
「私は今、少々取り込み中なので、急いでくれると・・」
「いいから開けて!」 がついイライラして、敬称をつけるのを忘れて怒鳴った。
「い、いいでしょう・・」
ロックハートは普段おとなしい が今にも活火山なのを知って、恐々ドアを開け三人を中に入れた。
部屋の中はほとんど全て片付けられていた。床には大きなトランクが二個置いてあり、ローブや本や写真がごちゃまぜに突っ込んであった。
「どこかへいらっしゃるのですか??」ハリーが目ざとく尋ねた。
「あー、そうー」ロックハートがあいまいにしゃべった。
「緊急に呼び出されて行かなければ・・・。」
「僕の妹は!?どうなるんですか!」
ロンが憤慨して叫んだ。
「そのことだが、まったく気の毒なことだ」
ロックハートは三人を出来るだけ見ないようにして、トランクに本を突っ込んだ。
「誰よりも一番私が残念に思っている」
「嘘をつかないで!本当にそう思うならジニーを助けて!!」 がついに切れて雷を落とした。
「闇の魔術の防衛術の先生ではありませんか!」ハリーも言った。
「こんなときにここをでていけるわけないでしょう!?これだけここで闇の魔術がおこっているというのに!」
「いや、しかしですね・・私がこの仕事を引き受けた時には・・」
「はっきりして!!もう時間がないのよ!!」 がかんかんに怒った。
「職務内容には何も、こんなことは予想だに・・」ロックハートはなるべく の方を見ないようにして言い逃れを決め込もうとしていた。
「先生、逃げ出すっておっしゃるんですか??」
ハリーが信じられない面持ちで叫んだ。
「本にご自分の武勇伝をあんなに書いてらっしゃったじゃないですか?」
ロンも驚いて反駁した。
「本は誤解を招く。」ロックハートは微妙な言い回しでごまかそうとした。
だが、が「そんな!でもあなたが直接書いたのでしょう!?」と突っ込んだ。
「まあまあ、お嬢さん。」ロックハートは背筋を伸ばし、顔をしかめ、「あの本に書いてあることは他の高名な魔法戦士、魔法使いのお偉方が
やったことで、例えば醜いアルメニアの魔法戦士が本の表紙を飾れば、果たして本が売れたかどうか分からない。
だから、ハンサムで、カリスマ性のある自分が魔法戦士、その他の人々に成り代わり、
あたかも自分がやったかのように執筆して本を売った」のだと
とんでもない詐欺の手口を暴露しはじめた。
彼女は唖然とし、このカリスマ教師の正体を恋するハーマイオニーにぶちまけてやりたくなった。
「それじゃ先生は、他の沢山の人達がやった仕事を、自分の手柄になさったんですか?」
ハリーもとても信じる気にはなれないようだった。
「ハリー君・・」ロックハートは困ったように呼びかけた。
「そんな単純なものじゃない。私の仕事はまず、そういう人達に会いどういう仕事をしたか聞き出す。それから忘却術をかける」
「さてと、坊ちゃん達には気の毒ですがね、忘却術をかけさせてもらいますよ。私の秘密をそこらじゅうでしゃべられちゃ、もう本が一冊も売れ・・」
だがその隙を与えないようにがロックハートの横っ面に平手打ちを食らわした。
(彼女の身長はこのとき、155cm程度でロックハートは175ぐらいだったが、
底が5cm以上あるハーフブーツを着用していたので何とか叩けた)
突然のことにハリーとロンは呆然とし、ロックハートは突然の攻撃に驚いて、少し後ろによろけ、持っていた杖を落とした。
「この卑怯者!」 は涙を流しながら彼を罵った。
「この場におよんでまだそんなことを!?ねえ、後生だから一生に一度ぐらい男らしく振舞ったらどうなの!!」
彼女の冷たく厳しい声は嫌でもロックハートの耳に届いた。
「何て気性の激しい子だ・・」ロックハートは罵られた怒りすら忘れて床に膝をつき、恐怖を覚えた。
そういいながら、彼は床に落ちた杖を後ろ手で拾おうとした。
「エクスペリア―――ムズ!!」ハリーが間一髪それに気づき、杖を振り上げた。
ロックハートは間抜けな音を立てて後ろに吹っ飛んだ。
杖は高々と空中を舞い、ロンがキャッチし、窓から外へ放り投げた。
「立て!立つんだ!」
ハリーがトランクを蹴飛ばしながら、激しい口調でせまった。
杖の先はピタリとロックハートの喉に突きつけられていた。
「私にどうしろというのかね?」ロックハートが力なく言った。
「秘密の部屋が何処にあるか私は知らない。私は何も出来ない。」
「運のいい人だ。」ハリーが杖を突きつけながら言った。
「僕たちはそのありかを知っている、そこに何が居るかもね。さあ、行こう!」
「今度彼女に変な真似をしてみろ!許さないぞ。」
ロンが怒りで顔を紅潮させ、素早くロックハートの背後に回り、壊れた杖を突きつけた。
四人はロックハートを追い立てるようにして、部屋を出、嘆きのマートルのトイレに着いた。
「あなたが先に入るんだ」
ハリー、ロンはロックハートに杖を突きたて
命令した。
二人は腹の中で、ロックハートが震え上がるざまをいい気味だとせせら笑った。
お目当ての幽霊はすぐに見つかった。嘆きのマートルだ。一番奥のトイレの水槽にじっと座って考え事をしていた。
「こんばんは、マートル」
が親しげに挨拶をした。
「あらまぁ、あんた達だったの」
マートルは二人を見ると嬉しいような、驚いたような顔をした。
「何か用?」
「実は君が死んだときの様子を聞きにきたんだ。教えてくれないかな?」
ハリーがごくりと生唾を飲み込んで言った。
ロックハートはまだ震えていた。
「オオオゥ、怖かったわ」マートルの顔つきが一変に変わり、こんなに誇らしく、嬉しい質問をされた事がないというような顔をした。
「まさにここで死んだの。オリーブ・ホーンビーが私の眼鏡のことからかったの。それで私ここに隠れて泣いてたら、誰かはいってきたの。
何か変なこといってたわ。男子だったわ。だから嫌で私、個室の鍵を開けたら、死んだの」
「どうやって?」ハリーが聞いた。
「わからない、覚えてるのは大きな黄色い目玉が二つ、金縛りにあったみたいで、それからふーっと浮いて・・」
マートルは夢見るようにハリーを見た。
「また幽霊になって戻ってきたわ。」
「その目玉は正確に言うとどこで見たの?」ハリーがてきぱきと聞いた。
「あそこよ」マートルは手洗い台の辺りを漠然と指差した。
「もし、合ってたらあなたに感謝するわ、マートル。」
がマートルを見上げてにこやかに微笑んだ。
「そんな優しい言葉、言われたの初めてだわ・・」マートルがポッと頬を染めて言った。
ハリーとロンは円形の手洗い台をぐるりと一周し、すみずみまで調べた。
「ここじゃないかな。」ハリーは銅製の蛇口の脇のところに、引っかいたような蛇の形が彫ってあるのを見つけた。
蛇口をひねってみたが、開かない。
「ハリー、何か言ってみろよ。蛇語で。」ロンが言った。
「開け」普通の言葉だ。当然何も起こらない。
「もっと念じるのよ」 が拳を握り締めながら言った。
今度は真剣に呟くと蛇口が回り、手洗い台が沈み込んだ。
すると、消え去った手洗い台の跡に、太いパイプが剥き出しになった。
「僕はここを下りてゆく」彼はありったけの勇気を振り絞って言った。
「僕も行く」
「私も・・忘れないでよ!」
ロンとが力強く続いた。
「さて、私にもう用はないですね・・じゃぁ」
ロックハートが後ろにそっと下がり、ドアノブを掴もうとした。
「逃げるな!」
三人が同時にロックハートに杖を向けた。
「先に下りるんだ!」
ロンが凄みを利かせた。
顔面蒼白でロックハートはパイプの入り口に恐る恐る
近づいた。
「ねぇ、君たち、それが何の役に立つというんだね?」
ロックハートが弱弱しく言った。
「いいからさっさと下りなさい!!」
が杖を彼の喉にぴたりとつけて怒鳴った。
ハリーがロックハートの背中を杖で小突いた。
ロンがグイと背中を押した。
彼はたちまちパイプの中を滑り落ちていった。
ロックハートがドスンと音を立てて着地したのを
確認すると三人はそれぞれあとに続いた。
三人は暗いトンネルのじめじめした床に放り出された。
「ルーモス」ハリーが杖に明かりをともした。
「進もう」彼は三人に声をかけた。
足音が湿った床に大きく響いた。
ロンが何かを踏んづけ、悲鳴を上げた。
「げっ歯類の頭蓋骨だわ」
が杖に明かりをともし、しゃがんでよく見てから言った。
「げっ歯類?」
ロンが頭に?マークを付けて尋ねた。
「簡単にいうとねずみのたぐいよ」
彼女がすらすらと答えた。」
ロンはスキャバーズの死骸を想像して一気に押し黙った。
「うん、全部動物の骨みたいだわ。リス、ネズミ、鳥 の骨らしきものもある・・。」
が顔をしかめながら恐る恐る観察して言った。
三人が巨大トンネルのカーブを曲がった時、そこにある巨大な何かを見て凍りついた。
「ハリー、あそこに何かある・・」
ロンの声がかすれた。
「見てくる・・」
ハリーは出来る限り目を細め、その物体に近寄った。
「蛇の抜け殻だ」ハリーが二人に呼びかけた。
「6メートルぐらいあるんじゃない?」
が真っ先に近づいてきて、恐々と覗き込んだ。
「ああ、なんてこった・・」ロンがうめいた。
後ろでロックハートが腰を抜かすのが分った。
彼は毒々しい、鮮やかな緑色の巨大な抜け殻を見て悲鳴をあげていたからだ。
「立て!」ロンがロックハートに杖を向け、きつい口調で命令した。
「ロン!?」が何事かとくるりと後ろを振り向いて叫んだ。
ロックハートがはじかれたように立ち上がり、彼に飛びかかって床に殴り倒したのだ。
ハリーが前に飛び出した。が、間に合わない。
ロックハートはロンの杖を握り、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「お遊びはこれでおしまいだ!私はこの皮を学校に持って帰り、女の子を救うには遅すぎたと言おう。
君たち三人はズタズタになった無残な死骸をみて、哀れにも気が狂ったと言おう。さぁ、記憶に別れを告げよ!」
ロックハートはロンの杖を勝ち誇ったように振りかざした。
「恥を知りなさいよ・・」
が悔しそうに歯軋りし、一言一言かみ締めるように言った。
「オブリビエイト!忘れよ!」
ロックハートが叫んだ。
「ロン!!」ハリーが叫んだ。
「大丈夫か?ロン」
ハリーは瓦礫を跳ね除け、必死に暗闇に向かってよびかけた。
「僕は大丈夫。でも、こっちの間抜けは杖の逆噴射でぶっ飛んだ」
ロンは崩れ落ちた岩石の側からひょっこりと顔を出した。
が顔をさすりながらハリーのところへ来た。
血がにじんでいる。さっきの衝撃で岩の破片が飛んできて切ったらしい。
「どうしたの?」
ハリーは心配そうに尋ねた。
「なんでもない。それよりトンネルが塞がれたみたいよ」
額の血をぐっと手で拭ってからは言った。
「そこで待ってて、僕だけが行って来る」
ハリーは二人に呼びかけた。
「私を忘れないでちょうだい!そのドロドロに汚れたメガネでこの暗闇が良く見えると思う?」
が彼に現実的な問題を指摘した。
「それに私はかなり視力がいいのよ」
「わかったよ。一緒に行こう」
ハリーは力なく承知した。
彼女の言ったことは本当だった。
は光の差さない暗闇の中でも、ひょいひょいと障害物をよけて歩くことが出来た。
ハリーにとって暗闇では昼間と同じように物が見えない。
その為に何度もどこかにぶつかりそうになり、彼女に助けてもらった。
それに比べて彼女は暗闇でも昼間と同じように物が見えた。
(まるで猫の目みたいだな)と彼は思った。
その結果、転倒防止の打開策としてと手をつなぐことにしたハリー。
この状況では、とてもロマンチックな気分になんてなれないのである。
トンネルをくねくねと何度も曲がった。
ようやく最後の曲がり角に来た。
「あれは何?」が指差した。
硬い壁に二匹の蛇のからみあった彫刻がしてあるのがみてとれた。
ハリーは何をすべきか分ったらしい。「開け!」と力強く蛇語で唱えた。
壁が二つに裂けた。二人は震えながら中に入っていった。
薄明かりの石の部屋が続いた。石の柱が何本も天井に向かって伸びている。
巨大な石像の下に燃えるような赤毛がはみ出していた。
「ジニー!!」
二人は一目散に駆け寄った。
「ジニー、死んじゃだめだ!お願いだから目を開けて!」
ハリーは持っていた杖を投げ捨て、ひざをついてその名を呼んだ。
「ジニー、嫌よ!目を開けて!」
も杖を投げ捨て、彼女を腕にかき抱き、ポロポロと涙をこぼした。
ジニーの顔は大理石のように冷たく、目は固く閉じられていた。揺すぶっても身動き一つしない。
「その子は目を覚ましはしない」
「誰?誰なの?」が恐る恐る後ろを振り返った。
「トム?トム・リドル?」
ハリーがそいつの顔を見上げた。
「その子はまだ生きている。しかし、長くは持たない」
背の高い黒髪の少年がやんわりと言った。
彼はのんびりと柱にもたれて、こちらを見ていた。
「君は幽霊なのか?」
ハリーが不思議そうに聞いた。
「記憶だ。日記の中に50年間封印されていた」
「いったい何のことを言っているの?」
が二人を見上げて聞いた。
「そして、君がもう一人の有名人、レディ・かな?ほう、想像以上の美しさだ。
まるでこの世のものと思えないような・・。」
そういいながらリドルはつかつかと彼女の方に歩いてきて、いきなり両手でがばっと抱きしめた。
が真っ赤になってリドルから離れ、おまけにすかさず平手打ちを食らわせたのだ。
ハリーは歯切れの良い音に思わず首をすくめ、両目をつぶった。
「初対面で女性に抱きつく馬鹿がどこにいるの!?」
はリドルに激しく怒鳴った。
「悪い悪い、つい、君の美しさに見惚れてしまって・・それに君は僕の知っている人を思い出させるものでね」
リドルは叩かれた頬をさすりながら、悪びれもせずに言った。
「それが人に謝る態度なの!?」
が完全に呆れて言った。
「あの〜僕を無視しないでもらえるかな?」
ハリーが最高に機嫌が悪そうに言った。
「あっ、ごめん、ごめん」
が慌てて謝った。
それからハリーははっと我に帰り、一人でジニーの頭を持ち上げようとした。
「リドル、手伝って頂戴。ここからジニーを運び出さなきゃいけないの。バジリスクがいるのよ。どこから出てくるか分からないの」
は熱心にリドルに言い寄って助けを求めた。
「あれ、杖がない?」
ハリーがそこで肝心な武器がなくなっていることに気づいた。
「私のもないわ!」
も悲鳴に近い声で叫んだ。
すぐ側でリドルが二人の杖をくるくると弄んでいた。
「リドル、返して」
が彼ののん気さにイライラしてきつい口調で述べた。
「聞いてるのか?それをよこせと言ってるんだ!」
ハリーも急き立てる様に言った。
「バジリスクは呼ばれるまで来やしないよ」
「まさか、リドル、あなたが黒幕!ああっ!?」
はその言葉に、丸太で頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。
トムがすかさず彼女に向けて杖を振った。
「出しなさい!何をするつもりなの?出しなさいってば!この人でなし!卑怯者!人殺し!
あんたが全部やったんだわ!ジニーも、ハーマイオニーも、マートルも!」
彼女はあっという間に分厚い氷のケースに閉じ込められてしまったが、
その中からあらんかぎりの罵詈雑言をトムに向かって浴びせかけた。
「おい,何をするんだ!」
ハリーがの叫びをさえぎるような声でトムに怒鳴った。
「賢い女性だ。さっきの一言で僕の正体を見抜くとはね。
悪いけどこれ以上君にしゃべらすわけにいかない。おとなしくその中で待っててくれ」
トムはハリーの怒声をさらりとかわして、氷のケースに近づくと優しく
にだけ聞こえる声で囁いた。
「彼女をそこから出せ! 出すんだ!」
ハリーがその態度にムッとして、さらに激しく怒鳴った。
「まぁまぁ、落ち着くんだ。君の杖は僕の手の中。君に何が出来るんだ?心配しなくともすぐに彼女は
出してあげるよ」
トムはやんわりとハリーの怒りを抑えるように言った。
「それより、ハリー・ポッター。僕はジニーからいろいろと君の事を聞いてね、ずっと話がしたいと思っていたんだ」
「何だって?」
「まぁ、落ち着いて。そうカッカするなよ。例の君が見つけた日記のことだが、あれは僕のものだ。
君の前の所有者のジニーは何ヶ月もその日記にバカバカしい心配事を書き綴った。
お下がりの本やローブのこと、そして、有名で素敵、
偉大なハリー・ポッターが自分を好いてくれることは絶対にないとね。
なぜなら、彼は私の姉のような存在であり、有名で賢い黒真珠のような輝きを持つ、綺麗なに心を奪われているからだとかね・・」
「な、何を・・そ、そんな事まで」
それを聞いてハリーはたちまち耳までまっかっかになった。
「11歳の小娘の悩み事なんて・・じつにくだらなかったよ」
リドルは退屈そうに呟いた。
「でも、僕は辛抱強く相談にのってあげたさ。返事もちゃんと書いたしね。ジニーはまんまと騙された。
その証拠に「トム、あなたぐらい、私のことを分かってくれる人はいないわ。何でも打ち明けられる日記があるってどんなに嬉しいか!」
という返事をよこしたのさ」
リドルは自分の言ったことに満足し、甲高い冷たい声で笑った。ハリーはゾーッとした。
「ジニーは僕に心を打ち明け、僕に自分の魂を注ぎ込んだ。彼女の心の恐れ、暗い秘密を餌食に僕の力は
蘇った。そして、充分に力が満ちた時、僕の秘密と魂をジニーに少しだけ与えた。」
「要するに僕がジニーを動かして、秘密の部屋を空けさせたのさ。猫や穢れた血の連中を襲ったのも彼女だ。
壁の血文字も、森番の鶏を絞め殺した血に、彼女が書いたのさ。」
トムは優しく愛撫するような口調で淡々と語った。
50年前の真実、ジニーが途中で日記に恐怖感をいだき、トイレに捨てたこと、
日記の中に16歳のトム・リドルを封印してサラザール・スリザリンの崇高な仕事を誰かに成し遂げてもらおうとしたことなど
彼は全てを暴露した。
「実に面白い、そして奇妙なめぐりあわせだ。ところでハリー・ポッター、僕は最後に君に聞きたいことがあるんだ。」
全てを語った後、トムは静かに言った。
「何を?」
ハリーは拳を固く握り、はき捨てるように言った。
「赤ん坊だった君が、どうやって不世出の偉大な魔法使いを破った?ヴォルデモート卿の力が打ち砕かれたのに
君は、その傷一つで逃れた。」
リドルはそう言うと、杖でハリーの前髪を掻き分け、傷を探し出してじっと眺めた。
「僕がどうやって助かったかどうして気にするんだ?ヴォルデモートは
君より後の人だろ?」
ハリーは不思議そうに言った。
「分ってないな。ヴォルデモートは僕の未来であり、過去、そして現在だ」
トムは静かに笑って、ハリーから奪った杖を振り上げ空中に文字を描いた。
TOM MARVOLO RIDDLE
I AM LOAD VORDEMORT
「信じられない!」
が閉じ込められた氷のケースの中で叫んだ。
「わかったか?」
リドルが囁いた。
「この名前は在学中から使っていた。もちろん親しい者にしか明かしていないがね。
汚らわしいマグルの父親の姓を僕がいつまでも使うと思うかい?
だから、自分で名前をつけた。後世まで語り継がれる恐ろしい魔法使い、そして、世界一偉大な魔法使いの名前を!」
彼は感極まって叫んだ。
「いいや・・偉大な魔法使いは君じゃない。それはダンブルドアだ!」
ハリーはそれに負けずと大声で叫んだ。
「なんだと?」
リドルの顔から笑みが消えた。
「聞こえなかったのか。ダンブルドアだ。君が強大な力を持っていたときでさえ、
ホグワーツを乗っ取ることができなかった。彼には君のことが、今も昔もお見通しだったんだ。」
ハリーは勝ち誇ったように言ってやった。
「どこまでも愚かなポッター。あの老いぼれはここにはいないぞ」
リドルはせせら笑った。
「いや、彼は君の思っているほど遠くに行ってない」
ハリーは彼の笑いを切り裂くような声で言い返した。
「さあ、ハリー。おしゃべりはここまでだ。本題に入ろう。僕は君の大切な友人が欲しい。だがしかし、君は彼女を
助けたいだろう?そこで君にチャンスを与えよう」
「何故彼女が欲しいか聞きたいか?僕には彼女の力が必要だ。彼女が生まれ持った隠れた才能。闇の魔術の才能が
全ての自然現象を操り、あの天性の美貌で魔法使いやマグルを虜にし、そいつらを
破滅に導く彼女の恐ろしさを僕と心身共に一つになることでその力を手に入れられるからさ」
「つくづく君はいかれた奴だな。一度地獄に落ちればいい」
ハリーが吐き捨てるように言った。
ハリーの最後の一言が引き金となり、リドルは蛇語で命令し、ついに壁の奥に隠れていた大蛇を呼び出した。
「行け、行ってあいつを殺せ」
バジリスクがハリー目掛けて動き出した。
「リドル、お願い、やめて!」
は氷のケースから力の限り叫んだ。
「心配ない。バジリスクは君には手出ししないよ。
さあ、見物してもらおうか?ご友人のハリー・ポッターがスリザリンの怪物と対決して果てる様を・・、喜べ、
君はもうすぐ歴史的事件の唯一の目撃者になれるんだよ」
リドルは囁くように言った。
の目から大粒の涙がどんどん溢れてきた。
ハリーはバジリスクから目を瞑って必死に走って逃げている。
彼はつまずき、床で顔を思い切り打ち付けた。
はもう見ていられなくなって両手で顔を覆った。
「・・」
ハリーは床に倒れながら、今にも毒牙が体の上に突き刺さるかと覚悟した。
が、ハリーの上に何か黒い物体が落ちてきた。
組み分け帽子!!
ハリーはそっと目を開けて様子を伺った。
もおそるおそる目を開けてみた。
巨大な蛇が何かを追っかけている。
フォークスだ。
真っ赤な不死鳥が、大蛇の鎌首あたりめがけて飛んでいる。
バジリスクが何度も空をかんでいた。
ついにフォークスがバジリスクの目を鋭い嘴で突き刺した。
大蛇は断末魔の叫びを上げ、ハリーの方へ向き直った。
「殺せ!奴はお前の後ろに・・
わあっ!?」
リドルがバジリスクに命令を加えたその時、
小さなクリーム色の猫がどこからともなく現れ、リドルの目の前で二メートルもある巨大な
白虎へと姿を変え、彼に襲いかかって床に押し倒した。
「くそっ、どけ、どくんだ!」
不意打ちを食らったリドルは必死にあがいた。
白虎はリドルの首を食いちぎろうとものすごい勢いで噛み付いてきた。
リドルが間一髪、ハリーの杖を振って白虎をふっとばした。
「忌々しい獣め、僕に逆らうとどうなるかわかってるだろうな?」
吹っ飛ばされた白虎は多少ダメージを受けていたが、また立ち上がり、
牙をむき出して攻撃の構えを取った。
リドルの腕や首には無数のかみ傷が出来ていたが、まだ元気で杖をかまえ、
攻撃の姿勢を取った。
「ああっ!」
バジリスクの目を突き刺して
勝利の雄たけびを上げたフォークスがついでとばかりにリドルの頭めがけ、後ろから急降下爆撃をしかけて
すごいスピードで飛び去ったのだ。
リドルは思いっきり前につんのめって転倒し、その一瞬の
隙をついて白虎は、彼の頭の上をひゅうっと飛び越え、氷のケースの前に降り立ち、
閉じ込められている彼女を従順に見上げた。
「早くハリーのところに行って。あの大蛇をやっつける手助けをしてあげて」
はリドルに聞こえないよう素早く虎に指示を与えた。
白虎はさっと空中へ飛び上がると、蛇目掛けてぐんぐん飛んで行った。
その頃、ハリーは組み分け帽子から見事、グリフィンドールの宝剣を引き当て、
バジリスクと格闘していた。
蛇がやみくもに彼に襲いかかり、彼はなんとかよけているありさまでなかなか止めを刺せない。
ハリーはこちらに蛇が来るたびに剣を振り回し、激しく抵抗した。
大きな雄叫びが秘密の部屋にこだました。
ハリーは思わずそちらを見た。
バジリスクもだ。
次の瞬間、白虎がバジリスクに襲いかかった。
だが、二メートルと六メートルの体格差があり、虎もうかつに蛇に近寄れない。
それでもバジリスクの気はまたそれたようだ。
空中で弧を描いている白虎を狙っている。
だが、虎は長くは持たなかった。
さきほど、リドルから受けた腹の傷が致命傷となり、蛇の素早い攻撃を避けきれず、首をかまれてしまった。
が、白虎は最後に渾身の力を振り絞り、蛇の頭に思い切り噛み付いた。
そして、ウォーンと悲しげな声を上げながら床に激突し、ぴくりとも動かなくなった。
ハリーはあのどこからか現れた白虎が自分を助けて死んだのだと思った。
なら、やるべきことは一つだ。
ハリーは油断して、白虎に視線が釘付けになっていたバジリスクの口蓋目掛けて突っ走り、剣に全体重をかけて
突き刺した。
返り血がどっぷりと、ハリーの眼鏡や両腕を濡らした時、長い毒牙が彼の腕に突き刺さった。
「ああ・・」
焼け付くような痛みを感じながら彼はずうるずると崩れ落ちた。
その時だ。
は自力で氷のケースを打ち破り、ものすごい勢いで彼の元へ駆け寄った。
「私は、私は、何もできなかった!あの氷のケースの中でじっとしてるだけだった。」
は彼の側に膝をつき、大粒の涙をぽろぽろと落とした。
「何を言ってるの・・君はあの虎を僕のところへ向かわせた。そうだろ?なんとなくあの虎を見て君の友達だと
思ったんだ」
ハリーは次第に薄れていく
意識の中でにこりと彼女を見上げて笑った。
「いや・・こんな時にどうして笑えるの?馬鹿・・この
大馬鹿」
は喋ったが、最後の方は声が震えて言葉にならなかった。
「こうしていると何もかも
上手く行く・・、最後に僕の頼みを聞いてくれる?ゴメン、力及ばずで・・」
ハリーは弱弱しく微笑んで、彼女のしなだれかかった黒髪を優しくなぜた。
「何でも聞くわ・・言って頂戴」
は目を真っ赤に泣き腫らし、頷いた。
「笑って・・笑って、僕が眠りにつくのを見届けて・・」
そこでガクリと彼の頭が
横に傾いた。
「ハリー、置いてかないで・・いやよ、私を一人にしないで・・」
はわあっと嗚咽を上げて、彼のローブの上に泣き崩れた。
「ハリー・ポッター、彼は死んだ」
いつの間にかリドルが近づいてきて、彼の横に立っていた。
「この広い部屋には、君と僕だけだ。なら僕が生き延び、君が死ぬか、もしくは
両方が生き延びるか、その二択しかない」
「今の君に僕は殺せやしない」
「完璧な吸血鬼ならいざ知らず、半分人間である君にはね」
リドルは杖を彼女の喉につきつけ愛撫するような口調で警告した。
「あなたが出てきたのも全てこの日記のせいよ」
はここまでだと覚悟を決め、気が狂ったように笑った。 そして、側に落ちていた黒の革表紙の本を拾ってあてどもなく歩き出した。
「トム・リドル、服従か、 死かですって?私に 二つの答えを押し付けなくて けっこうよ。
あなたのような 最低男と一緒になるんだったら、私はここで死ぬからね」
「同感だ」
「ハリー!?」
後ろから音もなく近づいてきた彼にはひっくり かえりそうになった。
「不死鳥の癒しの涙だな・・ 忘れていた」 リドルはくやしそうに 上空を優雅に滑空している真紅の熱帯鳥をにらみつけた。
「と、いうことは・・」 リドルは冷や汗を浮かべた。 恐ろしい唸り声とともに、 不死鳥の力で生き返った 虎がリドルの目の前に 飛んできた。
リドルは杖を構えた。
だが、その顔は恐怖で 歪んでいた。 「チェック・メイト!」 はにやりと笑った。
「どうやらキングはクイーンの行動力を読み違えたらしいな」 ハリーも黒い笑みを浮かべ、
片方の手に握っていた毒蛇の牙ともう片方の手に握っていた日記帳をひらひらと振って見せた。
「やめろ、それだけは!」 あせったリドルの前に 白虎が行く手を塞ぐように 唸り声を上げ、立ちはだかった。
ハリーとは 息ぴったりに2人で牙に手をかけ、日記帳のど真ん中に 突き刺した。
恐ろしい悲鳴が秘密の部屋にこだまし、日記のインクがほとばしり、リドルは身をよじって悶え、そして消滅した。
「ミナ・ブラド・・なぜそんな非常な仕打ちがができる?僕を見捨てることが・・なぜだ!?」
その最期のほとばしるような 声に彼女はぎょっとして 息を呑んだ。
「なぜ、あなたが伯母さんの名前を?」
「ミーナ―――!」
その悲しげな断末魔は 彼女の記憶に後々まで 深く残ることになった。
「終わった・・」 ハリーが息をはずませ、床に くず折れた。
「ああ、神様、ありがとうございます!」 は手を組み、床に 膝をつき感謝の祈りを捧げた。
「ジニー、ジニー!」 ハリーはそれから再び目を覚ました彼女を起こし、 ことのすべてを話した。
「ああ、本当にごめんさい! ハリー、姉さん! 私が全部やったことなの!でも、聞いて!私の意思じゃない。リドルが・・彼が私に乗り移ってや
らせたの。 でも・・でも、どうやって あいつをやっつけたの?」
ジニーは安堵と驚愕のあまり 大好きなに 抱きついてたずねるばかりだった。
「日記帳にあった彼の 記憶を封じたんだ。 彼はもうおしまいだ。絶対に出てこないよ。 バジリスクもね」
「さあ、早くここを出よう」 彼はそういうと、日記帳の真ん中の焼け焦げ穴を彼女に見せ、頷いた。
「私、退学になるわ!」 の腕の中でジニーは しゃくりあげた。
「馬鹿ね。そんなことないわよ」 はグスンと鼻を鳴らしてジニーをしっかりと 抱きしめた。
「、あの白虎を忘れないで・・あそこで君を待ってるから」 ハリーはふと、出口の近くに目が行き、
そこでお座りの ポーズで待機している虎を 見つけたのだった。
「白い虎?なんであんなところに虎がいるの?」
ジニーが怯えたように言った。 「怖がらなくてもいいよ。 あの虎が、バジリスクとリドルから僕らを護ってくれたんだ。悪い奴じゃないよ」
ハリーはそういうと出口に近づき、お座りしている虎にそっと手を伸ばした。
白虎は気持ちよさそうに ごろごろと喉を鳴らした。
「さ、行こうか」 その言葉を待っていたかのように、フォークスがどこからともなく飛んできてハリーの 肩にとまった。