は見覚えのない天井のある部屋で目を覚ました。
イギリスのお屋敷やルーマニアの城の一番小さな部屋にも及ばない
質素な狭い部屋。
だが、すぐにウィーズリー家の「隠れ穴」で自分にあてがわれた小さな寝室だと思い出した。
隣に寝たはずのルーピンは姿が見えない。
ナイトテーブルに置かれていた手紙には彼の筆跡で「ご飯をちゃんと食べること」とだけ書かれてあった。
彼女は真っ白な綿入れの絹の部屋着を羽織ると、くすっと笑ってその手紙をナイトテーブルに立てかけなおした。
マッド・アイを失った痛手はまだ騎士団の面々に重くのしかかっていたが、
ビルとフラーの結婚式が目前にせまっていた。
「ハーマイオニーやルーナの結婚式で残念なのは、私は誰の付き人にもなれないってことね」
クリーム色のドレープのシャツにデニムのスカートをまとったが
銀のナイフやスプーンをせっせと磨きながら言った。
「まだだいぶん先よ・・それはそうと結婚式の写真送ってくれてありがとう。
あなたのウェディングドレス姿、とっても綺麗だったわ。ルーピンがお幸せそうで何よりね」
ハーマイオニーはいささか苦笑しながら言った。
だが、その和やかな会話も束の間、ウィーズリー夫人がせかせかとやってきてハーマイオニーに
何か別の仕事をいいつけてから引き離してしまった。
「あのね、。ママはね、四人が出来るだけ一緒にならないように計らってるんだわ。そうすればあなたたちの
出発を遅らせられるってふんでるの」
ウィーズリー夫人が完全に遠ざかるのを見送ってから、ジニーがひそひそと耳打ちして教えてくれた。
「そいつはあんまりいい考えじゃないな。だってさ、僕たちをここに足止めしてヴォローヴァン・パイを作らせている
間に誰がヴォルデモートを仕留めてくれるっていうんだい?」
そこへ仕事の合間に通りかかったハリーが銀器を磨いているジニー、に言った。
「僕らの臭いは三十一日に消えるんだ。ロンとも話したけど、あとここに結婚式を含めて五日間滞在しなければいけない」
飾りリボンやパーティ用の小物がしまってあるトランクを取りに屋根裏部屋に上がったとき、
ハリーはにこっそりと言った。
「実はここだけの話、リーマスにもしつこく聞かれたの。一人で何か危険なことをすることを考えてないかって・・」
「もしそうだったら抱え込まないで私に話してくれって・・」
「でも、ロンが、ハリー、はダンブルドアからあとの二人以外には話さないように言われてるって
説明した段階でもう聞かなくなったわ」
「リーマスと別れるのはとてもつらいし、出来れば何もかも忘れてフェリシティー伯母さんと三人でルーマニアで静かに暮らしたいわ。
でも、もう何ヶ月も前から計画してきたの。だからもうあとには引き返せない」
「ルーピンに黙って出て行くつもりなんだね?」
ハリーはあきらめたように言った。
「ええ。彼には簡単な手紙だけ残すつもり。だけど例の件とダンブルドア云々のことは一切言わないわ」
はきっぱりと言った。
階下に下りていくと、案の定、よろしくないことだと顔をしかめたウィーズリー夫人に
出くわした。
とハリーはおばさんに飾りリボンや小物が入ったトランク二つを渡して、再び言いつけられたそれぞれの仕事に戻っていった。
「フェリシティーか?」
「はい」
一方、こちらでは騎士団の仕事から密かに戻ったフェリシティーが足音を忍ばせて
勝手口から裏階段へと駆け込んだところだった。
「マッド・アイの遺体は依然として行方不明です。リーマスと私がすぐに回収に向かったのですが遅かったようです」
フェリシティーは周囲から目につきにくい裏庭への階段でキングズリーに報告していた。
彼女はヴァイオリンケースを小脇にかかえ、階段にデニムのスカートをついてしゃがんでいた。
「ご苦労だった、フェリシティー。おそらく奴らが自分達の犯行を隠すために始末したのだろう」
「それよりあの子達から目を離すな。ビクトール・クラムはどこにいる?」
「クラムは別の仕事で出ています。ですが、結婚式当日には警護に戻れるでしょう」
三日目のこと。はルーピンが騎士団の任務で帰ってこないうちに荷造りに取りかかった。
着替えと教科書、それに寒い地方に行くとなればクリーム色のコートもいる。
彼女は衣装箪笥からクリーム色のファーつきの手袋とカシミアのマフラーを取り出した。
これはルーピンが教会のオルガン奏者になったお給料でプレゼントしてくれたものだ。
「リーマス・・本当にごめんなさい・・一緒にいられたらどんなにいいか・・」
は手袋とマフラーを抱きしめて嗚咽をもらした。
彼女は思いを断ち切るように、それらを洒落たパープルのトートバッグに入れて教科書を仕分けし始めた。