その頃、ハーマイオニーは朝もやの中、深い眠りに落ちていた。

ハリーが二度自分を呼びつける声で目がぱちりと覚めてしまうまで。

「どこ?まさか何かあったの?」

ハーマイオニーはてっきり敵の急襲かと身構えたが、ハリーはそうでないと言い含めた。

「ああ、想像以上の何かさ。まさに上出来だね」

ハリーは淡々と言ってのけると、背後を振り返った。

そこにはに連れられて、佇む懐かしい赤毛の男の姿があった。

赤毛の男は、一番会いたかった顔を見止めると片手を上げて挨拶しようとした。

「実は彼が分霊箱を壊してくれたの!」

あきらかに女友達の危険な目つきに気付いたは、この場をほぐそうと

陽気な声を張り上げた。

「あら、そう!で、ちょっと、あなた!この大間抜け、覚悟なさい、

 ロン・ウィーズリー!」

次の瞬間、の制止も間に合わず、ハーマイオニーはひとっとびでロンの元に飛んでいくと
その胸倉をつかんで

締め上げていた。

「本当にその赤毛の下の脳みそは足りてるの?この底抜け、恩知らず、おたんこなす!」

ハーマイオニーは怒りのあまり、ロンの胸を突き放すと、地面に堆積していた枯葉を投げ

つけ、思いつく限りの罵詈雑言を浴びせた。

「私達から隠れて何週間も音沙汰なし!なのに「やあ!」一言だけですって?」

「どこまでふざければすむの?この馬鹿男!」

「ハリー、私の杖はどこ?昨日貸したでしょ?」

「知らないよ」

「隠したのね!出しなさい!一発呪いをかけてやらないと気が済まないわ!」

彼女は、しまいめにはロンのものであるナップザックの袋を振り上げて

半殺しにしかねん勢いだったので慌てて、とハリーは止めに入った。

「私の気が変わるとは思わないで。今回の件はしっかりと胸にしまっておくわ」

とうとうハーマイオニーはにさんざんなだめすかされて、ぷりぷり怒りながら

テントへと戻ってしまった。

それからロンは、ハーマイオニーにきちんと侘びを入れ、ここに戻る気になった

いきさつを話した。

本当は出立した直後から、後ろ髪を引かれる思いだったが、

戻りたくてもハリー達の居場所がつかめなかったこと、

クリスマスの朝、人さらいの目をかいくぐって空家で寝泊りしていると、

ポケットの火消しライターからハーマイオニーの声が真っ先に聞こえたことなどだ。



その夜、ハリーとロンは男同士で熱心に話し込んでいた。

「僕、彼女の作る炎が一番好きなんだ」

「まだ怒りは解けないのかな?」

「火消しライターの光に導かれて戻った話を繰り返せば機嫌を直すかもね」

ロンのおのろけにハリーは耳を傾けて相槌を打っていた。

彼らの目の前にはジャムの空き瓶でちろちろと燃えるハーマイオニーお手製の

明かりがあった。

それから、ハリーがロンが道中、人さらいから奪った杖でぼや騒ぎを起こすまで

静かな会話は続いた。



その破裂音ときな臭い匂いで飛び起きてきたには「今度は家を燃やす気!?」と

どやしつけられ、テントの外で見張りをしていたハーマイオニーには

不審そうな顔をされてしまったふがいない男二人であった。


翌朝、美しいイングランドの朝焼けの中を早々と四人は出立した。

広大なムアの丘を徒歩で登りながら、四人はルーナ・ラブグッドの住まいを目指した。

昨夜、ハーマイオニーがルーナの父親がフラーの結婚式に参加していた時、

馬鹿馬鹿しいほど目立つペンダントを首からぶら下げていたことを思い出し、

それが、ゴドリックの谷の墓石、吟遊詩人ビードルの本、ダンブルドアが

親友のグリデンバルドにあてた手紙に必ず記されていた印と繋がることを

解明したからだった。


天気は上々。親しい友人に会えるとなっての心は浮き立っていた。

「ああ、いかにもルーナらしい建物だぜ」

先頭を歩いていたロンが、小高い丘にぽつんと立っている逆三角形の風変わりな建築物を

指差して言った。

「そうね」

「ほんと」

後からやってきた三人も大いに納得していた。


「スモモ飛行船に触らないで下さい」

は木戸に打ち付けられたルーナの手書き文字を読み上げた。

彼女の頭上にはオレンジ色のほおずきみたいな飛行体がたわわに実っていた。

「スモモ飛行船だってさ。こんなこと思いつくのアイツ以外にいないぜ」

ロンが面白そうにに耳打ちした。

その間に勇敢にもハーマイオニーが金のテンプレートを打ちつけた木戸をノックした。

「何だ?この朝早くに?いったい誰だね」

すぐにドアが開けられ、中から白髪のやや怯えた形相の男が顔を出した。

「おはようございます、ラブグッドさん」

「ハリー・ポッターです。以前、ビルとフラーの結婚式でお会いしましたよね?」

ハーマイオニーはこの異様な風体の男に戸惑ったが、彼女の後ろから彼が

熱心に呼びかけた。

「突然、ごめんなさい。私、です。ルーナの友達です」

「ルーナから何か聞いていませんか?」

もこの友人の父親の警戒心を解こうと懸命になって呼びかけた。

「あ、ああ・・聞いてるよ。娘の一番のお友達のお嬢さんだね」

ゼノフィリウス・ラブグッドは寝巻きのローブをいじくりながら、僅かに

笑みを向けた。

それから、ルーナの一番のお友達である切り札が効いたのか、なかなか警戒心を

解かなかった父親はさっきとは打って変わってハーブティーでもてなしてくれた。

「ルーナが君のことをよく話してくれるよ」

「一度お会い出来ればと思っていたんだ。どんなお嬢さんなんだろうかとね。

 それがこんな形で実現するとはね」

ゼノフィリウスはまだ何かに怯えた表情をしていたが、娘の一番の友達の為に、

とっておきの笑みを用意して話していた。

「それで、ルーナはどこなのですか?会うのは久しぶりだから話したいことが

 山ほどあるんです!」

はここで何の警戒心もなしに、水色のマグを取り上げると

友人の父親が入れてくれた赤蕪色の飲み物をぐいと飲み干した。

ハリー達は目を見張った。

いかにも苦そうな匂いのする液体を一気に飲み干した彼女に

皆、目を丸くしていた。

「ああ、これは体が温まりますね。このお茶の薬草は何を使ってらっしゃるんですか?

 自家製なのですか?」

今や、三人とも、浮き浮きと彼に美辞麗句を並べ立てるにあっけに取られていた。

三人は苦そうな液体を飲み干した彼女が今にもゲーゲーやるのではと

気を揉んでいたのだった。

「ああ・・そう。そうなんだ!家の自慢の一品でね。

 薬草はガーディルートを用いるんだ。角砂糖を少し

 入れて飲んでみなさい。家に来るお客さんは皆、お代わりを求めるんだよ」

が二杯目のお代わりを遠慮なく貰ったことに、ハリー達は危うく

卒倒しそうになった。

だが、彼らは同時にルーナの父親が彼女に対してだけは

完全に警戒心を解いてしまったことを読み取っていた。

突如、ロンがううっと喉を鳴らした。

「ずびばせん・・考え事をしていて・・うっかり・・」

につられて、液体を飲み干してしまったロンはハーマイオニーに

背中を叩いて貰いながら苦しい言い訳をしていた。

「あの・・ところで、ルーナはまだお休みですか?」

が角ばった風変わりな部屋をきょろきょろと見渡しながら尋ねた。

「ああ、いや・・じき戻る。実はさっき、君達を喜ばせようと近くの川へ

プリンビー釣りに行ったんだ」


気のせいだろうか。は終始にこやかな笑みを称えていたが、どことなく

ゼノフィリウスの表情が曇ったことを見逃さなかった。






















































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