ルーピンは泣きじゃくっている を優しく防衛術の教室に招き入れた。
そしてそのまま奥の私室まで歩いていき、再びドアを開けた。
「ここに座って。お茶を持ってくるよ」
ルーピンはそう言うと、彼女を黄色いカウチに座らせた。
数分後、彼はトレイにマグカップを二つ乗せて戻ってきた。
「はい、これを飲んで。飲めば心が落ち着くよ。」
ルーピンは にカップを渡して、微笑んだ。
「ありがとうございます。これ、カモミールティーですか?」
「いいや、君のお父さんの国のお茶、ジャスミンティーだよ。」
「そうですか・・」
の隣りにルーピンはすっと腰を下ろした。
彼女は彼の笑顔にほっとしたのか、ジャスミンティーを一気に飲み干した。
「どう?落ち着いてきた?」
ルーピンは彼女の顔を覗き込んで優しく尋ねた。
「ええ。おかげさまで・・」
の顔にふっと笑みが広がった。
「じゃあ、聞いてもいいかな?何故、今夜はあんなところで泣いていたのかな?」
「それは・・」
は口篭もった。
「やっぱり私にはいいづらい事かな?」
ルーピンは彼女の曇った表情を見て、考え込んだ。
「あの・・私、今日聞いてしまいました。今日、ロン、ハーマイオニ―とホグズミードに行った時・・」
はルーピンにせきを切ったように今日の出来事を全て話した。
話しているうちに彼女の両の目からはぼろぼろと何リットルもの涙が頬を伝って流れ落ちた。
「どうして・・あまりにもひどすぎる事実です。ブラックが裏切らなければ、私の両親は生きていました!それなのに・・ああっ・・」
「 。泣きたい時は我慢せずに泣くがいいよ。泣いた方が気持ちがすっきりする」
はしゃくりあげ、ルーピンの差し出した腕の中で激しく泣きじゃくった。
ルーピンはあまりにも彼女が不憫で、また愛しくて彼女を両腕でしっかりと抱きしめ、彼女の髪をなぜていた。
ルーピンもまた、親友とかつて恋した女性にそっくりな彼女の狭間で激しくさいなまれていた。
「本当ですね・・泣いたら気持ちがさっきより、やや晴れてきました・・。」
ようやく彼女は泣くのを止め、彼の顔を見上げてにこりと微笑んだ。
「私はどう君に返答していいかわからない」
ルーピンはちょっと困ったように言った。
「なぜなら、先生はシリウスの免罪を疑ってるから、そして彼を信じているからでしょう?」
落ち着いてきた彼女は実に明確な答えをはじきだした。
「そうなんだ。でも、君の苦しむ姿を間のあたりにすると果たしてこのまま、彼を信じていいのか
どんどん疑心暗鬼にさいなまれていく。申し訳ないよ・・
こんなに苦しんでる君に何一つ慰めの言葉一つかけてやれないなんて・・」
ルーピンはがっくりとうなだれた。
「そんなことないです。悪いのは私でさっきの話で先生まで一緒に苦しめてしまって・・」
は彼に謝った。
「いいんだ、君が私に話してくれるだけでも嬉しかった。君はあまりにも多くの苦しみを抱えすぎている。
時には自分で持ちつづけずに、誰かに話して肩の荷を少しでも下ろすことが大切だ。」
彼は言った。
「ありがとうございます。ああ、暖かいわ・・こんなにホグワーツで暖かくなったのは初めて。でも、この暖炉の暖かさじゃないんです。
ああ、瞼が重い・・とても開けてられないわ。早く寮に戻らないと」
は自分の苦しみを彼に全て話してしまって安心したのか、さっきまでなかった眠気が急激に襲ってきた。
「よっぽど疲れてしまったんだね・・いいよ・・今日はクリスマス・イブだ。寮には帰って欲しくないな。
今日だけ、私の側にいて欲しい・・。今晩だけ」
ルーピンは既に抱きしめている腕の中で寝息を立てる彼女に語りかけた。
そして彼は自分達の座っていたソファ・ベッドを倒し、彼女をその上に横たえた。
「お休み、クイックシルバー(やんちゃ娘)さん。いい夢を見れたらいいね・・」
パチンと彼は指を鳴らし、全ての電源を落し、掛け布団を彼女の肩にかけてやった。
「ねえ、 。君はあまりにも無防備すぎて私は時々怖くなる・・」
ルーピンは彼女のばらばらに乱れた黒髪を撫でながら、呟いた。
「メリー・クリスマス。今年は私にとって最高のプレゼントになりそうだ・・」
そして、彼は床にパンパンに綿が詰まったクッションを叩いて枕にし、毛布を喉元までひっかぶると彼女の足元で横になって丸くなった。
しばらくすると二人の寝息が規則正しく聞こえてきた。
翌朝、窓から差し込んできた朝日では目覚めた。
「ああ、今何時かしら?」
寝ぼけた頭で彼女はいつも頭の上にある時計を探した。
「おはよう!今九時だよ。 」
「え?」
彼女の寝ぼけた顔の上に爽やかな、人なつっこい笑顔が飛び込んできた。
「ここ、どこ?」
「私の部屋だけど?覚えていないのかい?君は昨夜、疲れ果ててここでそのまま眠ってしまったんだよ」
「え、ああ、そうでしたね。どうもすみません。私、寝相悪くなかったですか?」
「いいや、おかげでいつもよりぐっすりと眠れたよ」
「え?」
「いや、何でもないよ」
朗らかに交わされる会話。ルーピンはこのまま時間が止まってくれればいいのにと思った。
「あ、そうだ、メリー・クリスマス。君からのプレゼント届いたよ!ありがとう」
ルーピンはここでさまざまにラッピングされたチョコを嬉しそうに袋から取り出して礼を言った。
「あ、ど、どういたしまして・・」
彼女はホグズミードで買った色々な種類のチョコレートをルーピンに送ったのだった。
「さてと、私からも君にクリスマス・プレゼントがあるんだ」
「ちょっと待っててね」
彼はにっこりと微笑むと、軽い足取りで部屋の奥に駆け込み、青いティンセルのリボンがかけられた淡いブルーの箱を持ってきた。
「これ、是非、君につけて欲しくて買ったんだ。中身を見たらとても元気が出ると思うよ」
「えっ、こんなものほんとにもらっていいんですか?」
はそういいながらも誘惑には勝てず、早速箱を開けてみた。
元気がでると保障したルーピンの言った通り、
箱の中からはのちっちゃな金鎖の先に二つの星がつらなったツインスターペンダントが出てきた。
二つの星の周りにはぐるりとキュービックジルコ二アがはめこまれていた。
「綺麗・・双子星ですね・・」
はきらりと上品な光を放つペンダントを掲げて呟いた。
「気に入った?」
彼は凄く嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、とても。それにこんな綺麗なもの・・ありがとうございます!ああ、最高のクリスマスだわ!」
は感激して、涙が出そうな程だった。
「つけてあげようか?」
ルーピンはそういうと、さっとペンダントの鎖の留め金を外し、彼女の細く白い首に手を回してつけてやった。
「よく似合ってるよ。選んだかいがあったなぁ・・」
彼は壁にかかっていた古びた鏡のところまで彼女を連れて行き、褒めちぎった。
その後、 はパジャマ姿に上にガウンをはおった姿で、足取りも軽く、女子寮に向かった。
「 !あなた、どこ行ってたの?私7時に起きたんだけどあなたは二時間も帰ってこないし、まあ、そんな格好で二時間も
うろついてたの?」
寮の私室のドアを空けると、血相を変えたハーマイオニ―がすっ飛んできた。
「え、ああ、外を散歩してたのよ。気分が晴れないから・・」
はギクッとして適当にいいつくろった。
「ところでそのペンダント、誰からもらったの?」
ハーマイオニ―が彼女の首もとで輝いているものを目ざとく見つけた。
「え、ああ、これ伯母様からだけど・・」
まさか、ルーピンにもらったなんて言ったら怪しまれるだろうと は思った。
なぜ、彼が生徒にプレゼントを贈ってきたのか聞きまくるに違いない。
「ああ、そうだったの。それ、とても綺麗で可愛いものだったからつい気になって・・とにかく早く着替えてらっしゃい。風邪引くわよ!」
ハーマイオニ―はホグズミードでの出来事で落ち込んでいた を気遣い、それ以上追求はしてこなかった。
は手早く着替えながら、ベッドの下に並んでいるクリスマス・プレゼントに目を通した。
伯母からの分、ハーマイオニ―、ロン、ハリーそして、ドラコからの分、フレッド&ジョージなどなど崇拝者からの
プレゼントは沢山あった。
「あら、この小さい包みは?」
が伯母から送られたクリスマス用のオレンジのセーターに手を通したとき、妙に小さいブルーの紙袋に入った包みに目がいった。
彼女は気になってかがんでその包みを開けてみた。
中には羊皮紙1枚と絹製の緑のバラの髪飾りが入っていた。
羊皮紙にはくっきりとインクで書かれている明らかに男性であろう、肉太の筆跡が眼に飛び込んできた。
メリー・クリスマス
この髪飾りは君のお母さんの遺品で私がずっと預かっていた。
君に返してもいい時期だと思う。
聖パトリック・ディにつけて欲しい。
羊皮紙に書かれてあったのはそれだけだった。羊皮紙や包みをひっくり返してみたが、肝心の贈り主の名が書いていない。
「誰なのかな?お母さんの遺品を今になって送ってくるなんて?」
彼女は髪飾りをあちらこちらから眺めてみた。
確かにこのデザインの髪飾りを写真の母がつけていたことは知っていた。
「ルーピン先生じゃないか・・伯母様でもないし、誰だろう?ダンブルドア先生にしてはこの筆跡は違うし・・ま、
せっかくだからもらっておこう。贈り主はきっと悪い人じゃないわ」
彼女はうきうきとしてさっそく、その髪飾りを頭につけ、パチンと留め金を止めた。
「 、ハリー達のとこへ行きましょうよ。」
ハーマイオニ―が女子寮の入り口で手招きしていた。
「メリー・クリスマス。二人して何笑ってんの?」
女の子達は男子寮の入り口を開けた。
ロンとハリーがちょうど送られてきた最高級の箒、ファイアボルトを眺めているところだった。
「まあ、ハリー誰がこんな高いものを?」
ハーマイオニ―は驚いて箒の側に移動した。
「ちょっと、その赤猫をここへ連れてくるなよ!」
ロンがスキャバーズをポケットに押し込んで怒鳴った。
「はいはい、あーいい子ね、クルックシャンクス。ほらほらお利巧だから少し外に出ててね〜」
はロンとハーマイオニ―の一触即発の危機を察して、彼女の腕からさっと赤猫を取り上げ、男子寮の外へ追い出した。
クルックシャンクスはしばらく怒ってドアの外でさんざん喚いていた。
「さっぱり分からないよ、カードも何もついてないんだ。」
ハリーがハーマイオニ―に説明していた。
「やだ、この箒、すごくカッコいいじゃないの!もう乗ってみたの?」
「いや、まだだよ、これから外に出て試し乗りしようと思ってんだ。な、そうだろ、ハリー?」
とロンは最高級の箒ファイア・ボルトを手にとって感嘆の声を上げていた。
「だめよ!まだ誰もその箒に乗っちゃいけないわ!」
ロンの言葉にハーマイオニ―は金切り声を上げた。
「なんでよ?誰だっていいじゃないの。こんな高〜い箒を送ってくれたんだからきっといい人に違いないわ!
ねえ、ありがたく受け取りなさいよ!」
「そうだよ、別に贈り主不名でもいいじゃないか。」
とロンはこぞってハリーに進言した。
「そうね、そんな高価なものをハリーに送って、しかも自分が送ったってことを教えもしない、何か怪しいと思わない?」
ハーマイオニ―がうさんくさそうに言った。
その時だ。
怒り狂った猫がドアに体当たりし、ドアが開かないことが分かると、今度はドアの横にあった小さな割れ目に頭を突っ込み、中に進入した。
「こら、クルックシャンクス!何で入ってきたの?」
すかさず が怒鳴った。
「こいつを、今すぐここから連れ出せ!ハーマイオニー!!」
ロンが大声を出した。彼に猫は飛びかかり、パジャマのポケットを物凄い勢いで引っかき始めた。
女の子達は慌てて、クルックシャンクスをロンから引っ剥がした。
赤猫はロンに意地悪な目をぎらりと向けたし、ハーマイオニ―はツンツンしながら、部屋を出て行ったし、
は彼に何度も謝っていた。
「ちくしょう!」
女の子達が出て行ってから、ロンはまだかんかんに怒っていた。
「あんまり元気そうじゃないね。そのネズミ」
ハリーが心配そうに言った。
「あのでっかい毛玉の馬鹿がこいつをほっといてくれれば大丈夫なんだ!!」
「しかも、あいつは一言も謝らずに、何で が謝るんだ?あったまくるぜ。あいつがこの部屋にクルックシャンクスを
持ち込んだんだぜ!」
ロンはカッカしながら、ハリーの目の前にやせ衰えて、あちこち毛が抜け落ちているネズミを突き出した。
「ルシウス・マルフォイが、訴えてきよった!」
禁じられた森の湖のほとりでハグリッドは、真っ赤に泣きはらした目をして叫んだ。
クリスマスの朝、ハリー達は久しぶりにハグリッドに会いに行った。
「ビーキーの件を危険生物処理委員会に付託した。やつら、処理屋の悪魔め!連中はルシウス・マルフォイの手の内だ!
奴を怖がっとる!もし、俺が裁判で負けたら、ビーキーはー殺されてしまう!」
「そんな、ビーキーは悪くないわよ!あの金髪なんてことを・・・OOX」
はハグリッドから渡された魔法省からの手紙を読んで、むかっぱらが立っていた。
「 、何て悪い言葉を!」
彼女がドラコのことを怒りのあまり、口汚く罵ったためハーマイオニ―が呻いた。
「ハグリッド、ダンブルドアはどうなの?」
ハリーが聞いた。
「あの鼻持ちならない・・OOXX」
「やめなさい!」
はまだ怒って思いつく限りの罵詈雑言を並べ立てていた。
「あの方は俺のためにもう十分過ぎるほどやりなすった」
ハグリッドはうめいた。
「ねえ、ハグリッド。あきらめちゃだめだ!」
ハリーが励ますように言った。
「そうよ!ハグリッド。裁判になるのなら有力な弁護を打ち出すのよ!」
ハーマイオニ―が励ました。
「どうやって?昔の裁判記録でも探すの?」
が腕組みしながら言った。
「そうだよ、ハグリッド。 のいうとおり、昔のヒッポグリフ事件の判例を探すよ。きっと図書館に
その資料があるはずさ!あきらめるなよ!」
ロンも声を励まして言った。
「お前さん達、ありがとうよ・・俺もできる限りのことはする!」
ハグリッドはうかない顔で礼を言った。
「ねえ、ハリー、 。まだブラックのこと追っかけようとか考えてないわよね?」
ハーマイオニ―が二人におずおずと尋ねた。
あのホグズミードから帰ってきた日、 二人はかなり殺気立っていて、誰もいなくなった談話室でブラックのことについて話していたからなのだ。
「ねえ、お願いだから、二人共馬鹿なことはしないで!」
とハリーの話を聞いていたハーマイオニ―が、懇願するように言った。
「そうだよ、ブラックのために死ぬ価値なんてないぜ!」
ロンもやっきになって言った。
「私やハリーは吸魂鬼が近づくたびに両親の断末魔を聞かなくちゃならないのよ!あんな生々しい声、簡単に忘れられないわ!」
は目に涙を浮かべて、ロン、ハーマイオニ―に言った。
「あなたにはどうにも出来ないことよ!」
ハーマイオニ―が苦しそうに言った。
「あいつはアズカバンでも平気なんだ。ファッジ大臣が言ってただろう?他の人には刑罰でもあいつには効果がないんだ!!」
ハリーがくやしそうに言った。
「じゃ、何がいいたいんだい?まさか、ブラックを殺したいとか?」
ロンが緊張して聞いた。
「馬鹿なこと言わないで!」
ロンの言葉にハーマイオニ―が悲鳴を上げた。
「ハリー、 。お願いだから冷静になって。ブラックのやったことはとってもひどいわ!
でも、ね、自分を危険にさらしちゃダメ!二人のご両親はあなたがブラックを追跡することをけっしてお望みにならないわ!」
あの時、ハーマイオニ―の目には涙が光っていた。
「ハーマイオニ―、安心して。私はもう馬鹿なことなんてしないわ。そのことより今はビーキーを助けることのほうが大事だもの。」
は首元でキラリと光るペンダントをちらりと眺めながら言った。
(大丈夫よ。これがあるとこではきっと全てが上手くいく。それにこれがある限り、私は馬鹿なことは出来ないわ)
そう彼女は思った。
「あら?やけにあっさり分かってくれたのね?何かいいことでもあったの?まあ、いいわ。分かってくれただけで」
そういうなりハーマイオニ―は、ギュッとを抱きしめた。
ツインスターペンダントは森からの日差しを受けてきらきらと輝いた。そして、それはハリーの目にも止まった。
「綺麗な双子星だね。よく似合ってるよ・・それ、クリスマス・プレゼント?」
ハリーがハーマイオニ―のさっきの質問から逃れるために、わざと話題を反らした。
「ええ、そうなの」
はとても嬉しそうにネックレスを摘み上げて言った。
「へ〜誰からのプレゼントだい?あっ、もしかしてハリーかな?」
ロンが横からからかった。
「残念だけど、違うよ」
すかさずハリーは否定した。
「あ〜そう、じゃ誰からだい?」
ロンは好奇心からしつこく聞いてきた。
「もう、誰からだっていいじゃない!!しつこいよ!」
は真っ赤になってロンのわき腹をどついた。
(誰からなんだろう?何かすごく気になるんだよね・・)
ハリーは彼女の首元で光るツインスターの贈り主が妙に気になって仕方なかった。
「これはどうかな?」
「駄目よ、マンティコアは皆が怖がって近寄れなかったら放免されたのよ」
「その点、まだビーキーは可愛いわね」
「1722年、あ、ヒッポグリフは有罪だ・・」
翌日、 達は図書館にこもっていた。
これからしばらくここでうんうんと本とにらめっこすることになるだろう。
「ハーマイオニ―、どういうつもりだ?マグゴナガルに告げ口しやがって!」
数日後、ロンが談話室でハーマイオニ―に怒鳴り散らしていた。
「私に考えがあったからよ!先生も私と同意見だった・・その箒は間違いなくシリウス・ブラックからハリーに送られたものだわ!」
ハーマイオニ―が負けずと言い返した。
ファイアボルトは数分前、寮に突然現れたマグゴナガル先生によって持っていかれてしまった。
ハーマイオニ―が送り主不明の箒のことを先生に進言し、マグゴナガルはブラックの事件もあるので箒に呪いがかけられていないか
分解して調べるとハリーに言ったのだ。
ハリーはハーマイオニ―が善意でやったことだと分かっていたが、やはり腹が立った。
ロンはカンカンに腹を立てていた。新品の箒をバラバラにするなんてまさに犯罪的な破壊行為だと考えているらしい。
も今回ばかりは流石に親友を許せなかったらしい。
ブラックのことで落ち込んでいたハリーにようやく笑顔が戻ってくるような出来事があったのに、彼女の余計なおせっかい
で彼がまた、落ち込んで馬鹿なことをやらかすんじゃないかと思わず、ハーマイオニ―に怒鳴ってしまった。
このことがきっかけで女の子達は、顔を合わせればツンとそっぽを向いて、口を利かなくなってしまった。
もハーマイオニ―も断固として、謝って和解しようという気はないらしい。
二人共自分の主張を曲げなかった。
そのおかげでハーマイオニ―はやがて談話室を避けるようになった。
三人 はハーマイオニ―が図書館に非難したのだろうと思い、談話室に戻るよう説得しようともしなかった。
やがて、年が明け間もなく皆が学校に集まり授業が始まった。
トレローニー先生の授業はできれば勘弁して欲しかったとハリーは思った。
先生は手相を教え始めたが、いちはやくハリーに生命線が極端に短いと告げた。
に関しては「まあ、あなたとてもいい線をもってらっしゃいますね・・類まれなる強運の持ち主・・あーら、恋愛線が
複雑にからみあってますよ・・ほほ・・これはどういうことでしょうね?これからが楽しみですわ」
と大真面目な顔をして彼女に告げるものだから、これにはどっとクラスの皆が噴出してしまった。
一方、防衛術の授業ではルーピンが「パトローナス・チャームの練習を木曜の夜八時からするよ」
と笑顔で二人 に告げてきた。
とハリーは歯をがちがち言わせながら、凍りのような廊下を歩いていた。
木曜日、パトローナス・チャームの練習の時間だ。
二人は四階の廊下を駆け上って、防衛術の教室の扉を開けた。
「いらっしゃい、待ってたよ」
ルーピンが螺旋階段の手すりにもたれてのんびりとやってくる二人を見ていた。
彼は の首元にあのツインスターが輝いているのを見ると思わず笑みがこぼれてくるのを隠し切れなかった。
「さて、パトローナス・チャームについて説明しようか。これはO・W・L試験を超える高度な呪文だ。これを成功させるのには
1人前の魔法使いでも難しい。だが、呪文が上手くいけば、パトローナスがでてくる。パトローナスとはいわばディメンターを追い払う者の
ことだ。これが君たちとディメンターとの間で盾になってくれる」
「パトローナスってどんな姿をしてるんですか?」
ハリーがルーピンに尋ねた。
「それは作り出す魔法使いによって千差万別だ」
ルーピンは言った。
「パトローナスを呼び出すには呪文を唱えるんだ。
それと、何か一つ、幸せだった思い出を浮かべることだ」
「わかりました」
二人はうなずいて、それぞれの幸福な思い出を考え始めていた。
「パトローナスを呼び出す呪文はこうだ。エクスペクト・パトローナム!」
ルーピンは言った。
「エクスペクト・パトローナム!」
二人は声をそろえて唱えた。
「じゃあ、そろそろこいつで練習してみよう」
ルーピンはそういうと、大きな衣装箱を引っ張ってきて、二人の前にドンとおいた。
「これは?」
が不思議そうに聞いた。
「まね妖怪。こいつは君たちを見るとたちまち姿を変える。じゃ、箱を開けるよ、いいかい・・1,2」
ルーピンはゆっくりと蓋を開けた。
ゆらりと吸魂鬼が箱の中から立ち上がった。
二人の方にするすると近づいてくる。ぞっとする寒気が二人を襲った。
「エクスペクト・パトロ―ナム!」
二人は同時に叫んだ。しかし、二人共視界が同時にぼやけてきた。
「エクスペクト・・エクスペクト・・・」
は深い霧の中へ落ちていった。母親の最後の断末魔、斧を振り下ろすような音が聞こえた。
「!あ、エクスペクト・エクスペクト・・」
ハリーは横で気を失った彼女の隣りで賢明に声を振り絞った。
が、その後すぐに視界は無くなった。
「ハリー、 、しっかり・・」
数分後、ルーピンが床に倒れた二人を助け起こしていた。
「すみません・・」
「二人共、これを食べて。それから、もう一度やろう。焦らずに。一回で完璧にやるのは無理がある。根気よく、根気よく」
ルーピンは二人に蛙チョコを渡しながら慰めた。
「ところで、二人の一番幸せな思い出は何か聞いていいかい?少し、気持ちをリラックスした方がいいと思ってさ」
ルーピンが二人の側にかがみこんで聞いてきた。
「僕は、初めて箒に乗ったとき、あの大空を飛ぶ何ともいえぬすがすがしさ・・」
ハリーは夢見るようにしゃべった。
「クイックシルバーさんは?」
ルーピンは彼女の気持ちをリラックスさせようとふざけて言った。
「クイックシルバーって?」
ハリーは不思議そうに聞き返した。
「彼女みたいなやんちゃ娘のことを言うんだよ」
ルーピンは面白そうに笑った。
「もう、からかわないでください!」
は真っ赤になって、ルーピンの肩を叩いた。
(何か、この二人って仲いいよね・・)
ハリーは密かにそう思った。
その日、結局、二人はパトローナスを作り出すことが出来なかった。
それから二人はすごく疲れきって、すぐにベッドに入ってしまった。
「お休み、 。」
はツインスターのペンダントを外すと、ナイトテーブルの上におき、照明を落とした。
猫は彼女のベッドの下で丸くなって眠った。
その晩、彼女は疲れていたのにも関わらず、妙な胸騒ぎを感じて目を覚ました。
「 ?」
おかしい、猫がいない。妙にその晩は気になった。
「 」
彼女はネグリジェのまま、女子寮のドアを押し、階下に猫を探しに行った。
猫は、いつも女子寮のドアの横の割れ目から自由に出入りしているからだ。
深夜の談話室は暗い。彼女は明りのスイッチに手をかけた。
「 、どこにいるのかな?」
彼女は談話室のテーブルの下を覗き込んだ。
その時、鈍い音がしてドアが開いた。
「誰?フレッド&ジョージ?ま〜た私を驚かそうとしてふざけてるんでしょう?もう、その手には乗らないわよ。
今そっちに行くからね!」
彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべると寮の入り口にすっ飛んでいった。
だが、入室してきたのはフレッド&ジョージではなかった。
「声を出すな・・」
真夜中の侵入者の正体は左手にナイフを持って、目をぎらぎらさせたシリウス・ブラックだった。
「い、いや・・来ないで・・」
は恐ろしくて声がでなくなった。おまけに足が動きにくい、彼女はそろそろとゆっくりと後ろに下がった。
シリウス・ブラックもナイフを持ったまま、彼女をじりじりと次第に壁の方に追い詰めてきた。
「あ・・・」
行き止まりだ。 は完全に逃げ道を塞がれた。
後ろは冷たい石の壁、前はナイフをぎらつかせる生ける骸骨のようなシリウス・ブラック。
「来ないで・・」彼女は小さく悲鳴を上げた。
乱れた彼女の黒髪が首や肩に落ちかかった。ネグリジェの広く開いた襟元を縁取っている繊細なレースが心臓の鼓動のせいで震えている。
「君が騒がなければ、危害は加えない・・約束しよう。 ・ 。」
ブラックは彼女のネグリジェ姿を上から下まで、じろりと眺めてから優しく言った。
「そのナイフは?ハリーだけじゃ物足りずに、私を切りにきたの?」
彼女は懸命に勇気を振り絞って、彼に声を震わせながら問いかけた。
「そんなつもりはない。それより君に聞きたいことがある・・この寮にネズミはいるんだな?」
シリウスは真剣な眼差しで聞いてきた。
「ええ、い、いるわよ・・でもそれが何の関係があるの?」
は歯をがちがち言わせながら答えた。
それには答えずにシリウスは素早く、震えている彼女のこめかみにさっとキスをして身を翻し、男子寮の階段を駆け上っていった。
「マグゴナガル先生〜!!」
やっと口が利けるようになった彼女は寮の入り口に走っていき、外へ飛び出した。