「大丈夫?」
今しがた、水兵の首元に蹴りを入れたがしゃがみこんで
尋ねた。
そして、彼女は「古い釘が刺さったのでばい菌が入るといけない」と言ってのけると、
血が滴るハヤテの手首を掴んで氷のアースで傷口を固めてくれた。
「おお、すごいですね!」と親父さんが一瞬にしてハヤテの傷口を
固めたにお世辞を言ったが、彼女はどこふく風でそれを聞き流し、
「どうする?こうなったらヒュウガを待つしか・・」と呻くハヤテの方に
耳を傾けていた。
その後、全く聞き耳を持たない親父さんのせいで可愛そうな二人は
あっちこっちへとさんざん振り回されていた。
突然思いついた親父さんの作戦である高架上からヤートットの運転するトラックへの
豪快なダイブ、そのせいで危険なトラックの荷台の上での乱闘騒ぎ、そこから
敵のアジトである工場への強行突入へとさんざんな目にばかり合わされた。
「本当にうちのパパがそんなに活躍したの?」
赤毛の雌馬がぶるぶると毛を振るう乗馬クラブ。
無事に戦いを終えた七人は思い思いに時間を過ごしていた。
ようやくモークの接着剤が剥がれ、
もくもくと一人馬場を整備するハヤテに、親父さんの息子は不思議そうに尋ねていた。
「だけど、何かさんすごく機嫌が悪いみたいだよ。
どうもパパのせいみたいだけど」
親父さんの息子は、ロッジで「痛い!」と顔を歪め、刀傷の手当てを
ヒュウガから受けている氷の精霊の方をちらりと伺いながら呟いた。
ヒュウガは笑いながら、文句を垂れるをなだめているが、は親父さんの
無茶振りのせいで左足に思わぬ刀傷を食らったので憤懣やるかたない気持ちだった。
「でね、その親父さんときたらこっちが想像できないような無茶ばっかりやらかす!」
「尾行するから静かにしてろと言えば、一人駆け出そうとするし、そのせいで
ハヤテが古釘で左手首を怪我するし・・」
「きっと何かお前達の役に立ちたいと思って頑張り過ぎたんだろうな・・」
「悪かったな。俺がもう少し早くその場に着いていれば・・」
ここは荒雲岳。
オレンジ色の簡易テントの前で、焚き木を起していたヒュウガは、の左足に
巻かれた刀傷をじっと見つめながら、すまなさそうに呟いた。
二人はここで野営しながらこの前の戦いで傷ついた二頭の星獣の手当てをしていた。
「おーい、お二人さん」
時々、そこをリョウマが訪れて差し入れなどを持ってきてくれる。
「スレイプニルの具合はどう?」
「いまのところ、まだ静養が必要みたい」
「そうか・・俺はもう少しいい場所に移ったらどうかと考えてたんだ」
リョウマの放ったこの言葉を後々、は深く後悔することになるとは
知る由もなかった。
朝もやの中、うーんと大きく伸びをして起き上がったヒュウガは
「よく眠れたか?」と爽やかな笑顔を浮かべてゴウタウラスに声をかけていた。
「雁が乱れて飛んでる」
スレイプニルのけたたましいいななきでハッと目を覚ました
は不安そうに空を見やって呟いた。
「おはよう。お前も気付いたのか・・」
開口一番、ヒュウガは目覚めた彼女の側にやってくると今しがた感じた
不安を呟いた。
「急げ、獣どもはこの先だ!」
真っ白な甲冑に身を固めた敵の騎士の声が響いた。
「待て、海賊!」
コメツブユリが咲き乱れる草むらをぬって飛び出したのはヒュウガだ。
「おお、黒騎士か。お前の星獣をもらいにきたぞ!」
真っ白な甲冑の騎士は麻酔爆弾を運ぶヤートットの間を掻き分けて
宣言した。
「ふざけてるの?私達から何かを盗ろうなんていい度胸ね!」
「こいつは面白い。こんな山中に黒騎士と精霊が一緒とはな」
「精霊、お前の獣も是が非でも貰うぞ!」
だが、南の方から遅れてやってきたの登場は敵の騎士をいっそう
嘲笑わせただけだった。
今、荒雲岳では黒騎士と氷の精霊が力を合わせて雑魚兵を倒しているところだった。
ヒュウガの蹴りが転がってきた敵兵の首元に命中し、が鴛鴦斧で向かってきた
敵兵のカットラスを跳ね返し、背後にいた
もう一人の敵兵のみぞおちに鴛鴦斧の持ち手をぶち当てた。
ヒュウガはとっくに騎士転生を図り、ブルライアットの引き金を引いて
バンバン雑魚兵どもに狙いをつけて撃ちまくっていた。
形勢が逆転したのはその直後だった。
敵の白騎士がヒュウガのブルライアットそっくりな武器を取り出して
こちら目掛けて撃ってきたのだ。
驚きのあまり避け切れなかったヒュウガは、もろに弾け飛ぶ閃光を
胸に食らってしまう。
が即座に助けに行こうとするが、その前にそうはさせぬと雑魚兵が立ちはだかった。
「兄さん!」
「!」
そんな折、に狙いをつけた敵の白騎士のブルライアットを、
牙を放って分散させたハヤテ、
ヒュウガを庇うかのように草むらを掻き分けてリョウマ達が加勢に駆けつけた。
「皆、奴の攻撃に気をつけろ!」
左胸を抑えて立ち上がったヒュウガは苦し紛れに呟き、は「相手の武器をそっくり
コピー出来るみたい」とハヤテに素早く耳打ちした。
「兄さん、、今のうちにあいつらを止めろ!」
リョウマは身体ごと敵の白騎士にぶつかっていくと、にらみ合う両者をよそに
麻酔爆弾を抱えて星獣狩りを始めた水兵達を見止めて叫んだ。