はピイッと短く口笛を吹くと、シルバースター乗馬クラブからやってきた
長老の持ち馬であった白馬にひらりと飛び乗った。
ちょうどその頃、氷度笠も遠くに見え隠れする一筋の銀河の光を
追ってただっ広い空き地へ馬を飛ばしているところだった。
「やったぞ!」
彼がシロツメクサの咲き乱れる草地を、馬でめちゃめちゃに踏み荒らして
すーっと落ちていく銀河の光の塊をつかんだ時だった。
「待て!!」
「お前になど銀河の光を渡してたまるもんですか!!」
白馬に跨り、手綱を引き絞って、どうどうと馬を止めさせたが
叫んだ。
「女一人で来るとは見上げた度胸だ。いいとも、相手をしてやれ、ヤートット!!」
氷度笠は馬首を叩いて馬の向きを変えさせると、背後の空き地で
待機していた水兵達に命令した。
その言葉に、あっという間に湾曲した刀を振り上げて水兵達が草むらをかき分けて
襲いかかってきた。
は馬からぴょんと飛び降りると、サッシュから勢いよく氷柱の長剣を抜いた。
彼女は、水兵の振り上げた長剣の二振りを草むらを転がって避け、起き上がりざまに黒革のブーツで
水兵の顔面を思いっきり蹴り上げてやった。
そして、怒った水兵の長剣を受け止めて難なく横に流し、素早く彼らのわき腹にぐさぐさと氷柱の長剣を差し込んでやった。
「女といえども、我が配下の者達が適う相手ではなさそうだな」
「されば私が直接お相手致そう」
氷度笠は面白くなさそうに、口からぺっと氷の鋭い針を吐き出しながら言った。
が氷柱の長剣を死体から引き抜いて油断なく構えると、後ろからパカッパカッと軽快な
蹄の音が近づいてくるのが聞こえた。
「どうやらその顔じゃ銀河の光はまた外したようだったな」
「リョウマ!」
「、後は俺がやる、行くぞ!!」
リョウマは馬の手綱を勢いよく振り下ろし、馬首を叩いて駆け出させた。
それから両者の馬上での剣と剣のぶつかり合いは続いた。
馬上での決着がなかなかつかないので、両者は互いに馬から飛び降り、
さしで勝負に持ち込んだ。
リョウマの洋剣と氷度笠の刀が何度もぶつかり、鋭い火花が散った。
リョウマより氷度笠の方がスピードも剣術も優れており、彼は何太刀も肩や胸に浴びせられ
倒れたが、不屈の執念で立ち上がり、また切りかかっていった。
とうとう両者は一騎打ちに持ち込み、どっと走っていくともう少しでぶつかりそうなところで
互いに抜刀して相手を切りつけた。
リョウマは上体を崩してひっくり返ったが、氷度笠よりすんでの差で下方から腹部を切り裂いていた。
さらに氷度笠の右肩にはしっかりと投げナイフが突き刺さっていた。
「なぜだ?そこの女は手出ししていないはず・・そうか。もう一人伏兵がいた・・のか」
「うおっ・・」
氷度笠は驚愕の表情を浮かべて、腹を押さえて立ち上がろうとしたが、
背後からヒュンと風を切って、一片の鴛鴦斧が飛んできて左肩にぐさりと突き刺さった為、そこであっけなく
事切れた。
「ん?俺達・・まさかずっと寝てたのか?」
「もう大丈夫だ。リョウマとのおかげだよ」
一方、氷度笠を倒したことで毒針の呪いが解けたハヤテ達がモークのいる秘密の
地下室で目覚め始めていた。
「貴様ら五人に奴らは倒せん。それに貴様のその甘さ、いつかは命取りになるぞ」
「それからそこの生意気な氷の精とやら。どうもおせっかいな存在で悪かったな」
オレンジ色の夕焼けが美しい刹那、黒騎士は二頭の白馬の手綱を握る二人に
向けて捨て台詞を吐くと腹ただしそうに去っていった。
リョウマは納得のいかぬ顔で唇をかみ締め、はちょっと言い過ぎたかなと後悔していた。