「暖かいオニオンクリームスープですよ。さあ、ぐっとお飲みになって・・

 冷えたお体が暖まりますよ」


「いただきます」


優しいビーバー夫人が湯気の立つマグカップを持ってきてくれた

ので100年の眠りから覚めて何も口にしていない春の女神は

待ちきれんばかりに口をつけた。


「こちらのお嬢さんにはフィッシュ・アンド・チップスよ。ささ、どうぞ」

それがすむとビーバー夫人今は、木のテーブルにおとなしく着いているルーシーに、

あつあつの魚料理を持ってきて置いた。


「何はともあれ、本当に良かった。実は様の

 お目覚めに続き、すでにアスランが動き出している」


荒削りな黒い木のジョッキを片手にビーバー氏はおごそかに話し始めた。


「アスランって何者なの?」


「アスランって何者なの?だって・・冗談はやめてくださいよ!!」

「あなた・・この子達本当に何も知らないみたいですよ」


お茶の席につかずに部屋の隅にたたずみ、スープを飲み干すばかり

見つめていたエドマンドがいぶかしんでたずねた。


「アスランとは森の唯一の王」


「あの方こそ、ナル二アの真の王です」


ビーバー氏は夫人に促されて、この右も左も分からぬ子供たちに

説明してやることにした。


「しばらくお留守にされていたんです」


「でも、あの方は戻ってきた!」


「今も石舞台の上であなた方と様を待っておられます!」


「私たちとこのお姉さんのことを?」



ビーバー氏が熱っぽく言い終わったとき、ルーシーが不思議そうに言った。


「予言のこともご存知ないので?」

「あなた・・教えてあげれば」


「いいですか?アスランの帰還、タムナスの逮捕、秘密警察の狼ども、

 を100年の呪いから解放したのも、全てはあなたたちから始まった!」


「私たちのせいだと言いたいの?確かにピーターは女神様を助けたかもしれない・・でも他のことまでとなると・・」


スーザンが納得いかぬ顔でビーバー氏に反論した。



「とんでもない!あなたたちを責めてるんじゃない。とても感謝してるのよ」


ビーバー夫人は嬉しそうに言い直した。


「予言にはこうある。アダムの肉、アダムの骨がケア・パラベルの王座に着く時、

 悪の支配が終わる」


「古い言い伝えよ。二人のアダムの息子、二人のイヴの娘が赤い魔女を永遠の眠りから解き放ち、

 白い魔女を倒し、ナル二アに平和と春をよみがえらせると!」


ビーバー夫妻はにこにこ顔でそう言った。


「それが僕らとのこと?」


ピーターが毛布にくるまって、マグカップに口をつけている素晴らしい黒髪の女の子のことを

見やりながら言った。


「もちろん。すでにアスランが戦の準備を進めている!」


ビーバー氏は熱っぽく言った。


「戦い?冗談でしょう!?」


末っ子のルーシーが素っ頓狂な声をあげた。


「戦争に巻き込まれないように疎開してきたばかりなのに・・」

長女のスーザンが信じられないと言いたげに呟いた。


「何かの間違いだよ!僕たちを英雄扱いしないでくれ。確かにを助けたのは

 僕だ。でも、それはきっと何かの偶然・・偶然・・で・・えっと・・偶然じゃ・・ない・・かも」


「ちょっ、ちょっと、ピーター!言ってることがめちゃくちゃよ!?」


「ピーター、いったいどうしちゃったの!?顔赤いよ。熱あるんじゃない!?」



(だって・・あの顔見たらほっとけないだろ・・)


ピーターは妹たちがぎゃあぎゃあ騒ぐのなどどこ吹く顔で、


悲しそうな顔をしているを恥ずかしそうに見つめていた。


「おもてなしはありがとう。でも、もう行かないと」


これではらちがあかないと判断した賢明なスーザンは、強引にピーターの腕をつかんで椅子から立ち上がらせた。


「タムナスさんとこのお姉さんはどうなるの!?」

ルーシーが泣き出しそうな顔で二人を引き止めた。

「ごめんなさい。私達には無理よ。もう遅いから家に帰らなきゃ」

いつもは頼りになる兄が後ろ髪をひかれる思いで、を見つめて動かないので

スーザンがふっきるようにきっぱりと言い放った。

「エドマンド、帰るわよ!あれ、エドマンド?」

「いないわ!いつの間に?」


いつの間にか毛綿鴨のにこげ織のコートを着込んだ

ピーターの側にやってきて叫んだ。


「あ、ああ・・ほんとだ。エド、エド、あいつ・・どこに行ったんだ?」


ようやく正気に戻ったピーターが、兄の威厳を取り戻して言った。








(何でピーターばっかりなんだ?あの女の子・・僕が助けられたかもしれないのに)


寒さとやきもちで不満たらたらのエドマンドはこっそり、ビーバーの小屋を

抜け出て山間地帯を走っていた。


(いつだって兄さんは・・)


豪雪がとりわけ厳しいところまで登ってしまうとエドマンドは

息をはずませて向こうにたたずむ冷たくいかめしい「魔女の館」を見つめた。





そのころ、ビーバー氏、ピーター、スーザン、ルーシー、は残雪を蹴散らし

急に小屋から姿を消したエドマンドを探していた。



兄妹達が追いついた時はすでに一足遅く、エドマンドは魔女の館に吸い込まれるように入っていくところだった。


「エドマンド〜!!」

ルーシーが狂ったように叫んだ。

「大声を出さないで!姉さんの思う壺よ!」

赤い魔女ことが末っ子の口をあわててふさぎ警告した。

「いっちゃあいけません!!エドマンドはあなた方をおびき寄せる囮です!!」

こちらではビーバーが、必死に長男のピーターのコートをつかんでひきとめているところだった。

「白い魔女は予言どおりになるのをおそれ、あなた方を殺そうとしています!!」

ビーバーは決死の覚悟で真実を告げた。












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