皆はずぶぬれになって流氷の海から岸へとあがった。

しばらく歩くと冬枯れた茶色の枝に可愛らしい桜のつぼみが芽吹いているのが見えた。

花はの魔法でどんどん咲き続け、あたり一面は

かぐわしい春の香りで満たされた。

その頃、ジェィディス女王は従者と捕虜であるエドマンド

を引き連れて森の中を歩き続けていた。


「このあたりはえらく暖かくなってきましたな・・」

ジナーブリックは滝が嬉しそうに雪解けの水を叩きつけている

小川を見やりながらぶつぶつと呟いた。

あたりは薄緑色の木々とさわやかな春風が芽吹き、雪解けがあちこちで始まっていた。

それを耳にしたジェィディスはたちまち眉間に皺を寄せ、

すごい目で余計なことを口走った従者をにらみ付けた。


の力だな・・あの娘め、あんな目にあってまでも、

 どこまでもこの私に逆らうというのか!」

ジェィディス女王は苦々しげに呟き、エドマンドは見えない力に

うろたえる白い魔女の姿ににんまりとした。


「ナル二アの女王にふさわしいのはどちらか思い知らせてやらなければ・・」

「来い!」

ジェィディス女王はエドマンドをぐいっと引っ張ると、再び

森の奥へ奥へと歩き続けた。




一方、達は歩き続けてようやくアスランの陣営にたどり着いた。


春の女神が一本だけ生えていた桜の木の側を通ると、それはドリュアド(木の精)

の形となってはらはらと舞い始めた。


真紅の軍用テントが立ち並ぶアスランの陣営には鎧兜をまとった

ナル二ア人たちが武器を鍛えたり、ラッパを吹いたりしていたが、

ピーター達が通りがかると、皆ぴたりとその手をとめて

その目は英雄を見るような羨望のまなざしへとかわった。







ピーターがアスランとエドマンドのことについて話しこんでいる間、


女の子たちは陣営の裏側の小川の水をぴちゃぴちゃさせて


水遊びをしている最中だった。



「ねえ、お土産にこっちの世界の綺麗な服沢山持って帰ろう。ね、いいでしょう?!」


「そうね・・ロンドンに帰れるのならね・・」


何事も現実的なスーザンは無邪気にはしゃぐルーシーや彼女と戯れる

妖精を見比べながらぎゅっと口元を結んで言った。


「きっと帰れるわ。この戦が終わったらね。何事も希望を忘れてはだめ。」


「ありがとう。そう思うことにするわ」


の優しげなスミレ色の瞳に見つめられてスーザンは

ほっと肩の荷が下りたような気がした。


「すきあり!」


バシャンと派手な水音が響いて、冷たい小川の水が二人に浴びせられた。


「やったわね!」


「お返しよ、そ〜れっ!」


やスーザンはしずくが滴る互いの髪を見て

げらげらと笑い出した。


そして、その小さな悪戯っ子目掛けて負けじと水をぶっかけはじめた。



びしょびしょになった黒髪をふこうと一本の木の枝にかけていた


布をとろうとした。


布がばさっと取り去られるや否や、そこには一匹の狼が立っていた。


スーザン、ルーシー、の絹を切り裂くような悲鳴があがり、


狼はじりじりと後ずさりを始めた三人にむかって迫っていた。


スーザンは恐怖に怯えながらもさっと目をこらし、少しはなれたところにある角笛に目をやった。


彼女はとっさに手でつかんでいた布を大きく広げると


目の前の狼目掛けてすっぽりとかぶせた。


は純金の杖を手に出現させると、もう一つの木立から姿を現し、

ルーシーに狙いを定めた狼めがけて素早く振った。




まぶしい純金の粉が飛び散り、あっというまにその狼は金の像にかえられていた。




「もうその手にはかからんぞ、妖精女王。お遊びはここまでだ」


怒った狼たちは目掛けて四方八方から飛び掛り始めた。


それを彼女は右に左にたくみ避けながら、上空に飛び上がり、一瞬の隙を狙って


また一匹を純金の像に変えてしまった。


「降りて来い。お前から先にかたづけてやる!」


薄い透き通るような羽をはためかせて、安全な木の上まで飛び上がった

を威嚇するかのように狼達はぎゃんぎゃん吠え立てた。



ちょうどそのころ、木の上に避難していたスーザンが吹いた角笛の音を聞きつけて、


ピーターが小川をじゃぶじゃぶ渡って駆けつけてきた。



おりしも、彼はがスーザンらを守ろうとしてスミレ色の薄いドレスの裾を


食いちぎられて、太ももが丸見えになっていること、妹たちががたがたと震えて木の上に


いることを一瞬にして見て取った。






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