「トランプキン!」
はこの勢いに乗じて、彼女をも消そうとした兵士と
錫杖とスピレットで渡り合いながら悲鳴を上げた。
お互いの威信をかけて一歩もひかない二人を尻目にもう一人の兵士がやってきて、
鎖で固定された釣り合いおもりを長剣をそこここに当てて断ち切り、中庭へと落とした。
その反動で、城門がガラガラと大きな音を立てて閉まり始めた。
そうはさせるかと勇敢な一頭のミノタウロスが走り出て、落ち行く忍び返しのついた
城門を全体重をかけて支えにかかったが。
中庭で仲間たちを援護射撃していたスーザンもぴたりと矢を放つのをやめて、
戦況が自分達にとても不利になっているのを肌で感じていた。
「全員退却!」
とうとうピーターは悲痛な決断を下した。
「皆逃げろ、早く!」
ピーターは邪魔する敵を切り捨て、石段を飛ぶように駆けながら
寄り添うようにやってきたチーターに自らの命令を遂行するように叫んだ。
「スーザン急げ!逃げろ!」
ピーターは石段から飛び斬りをかけると、茫然自失の妹に声をかけた。
「早く彼女を頼む!安全な門まで!行け!」
ピーターは気が狂ったように叫び、通りかかった忠実なセントールの副官に命じた。
王の声を受け取ったセントールは、うろたえるスーザンに騎乗から片手を
差し出し、そのまま彼女を背中に乗っけて走り出した。
スーザンの黒っぽいスカートの裾がはためいた時、彼女は
思い出したように「カスピアンを!」と若き王子の名前を呼んだ。
「心配するな、僕が探す!」
ピーターは長剣を片手に闇に包まれた城内を疾走した。
「逃げろ!」
「ここはもう駄目だ、早く行け!」
その間にもピーターはすれ違うフォーンの男性や怒りの雄たけびを上げる
ミノタウロスらの肩を叩いて戦線離脱を勧めていた。
「妖精女王のお姿が先ほどから見当たりません!」
「お願いです!陛下を探して下さい!」
向こうでちょうど敵と剣を交えていた若いフォーンの男性が泣かんばかりに
走ってきてピーターの服の袖をつかんだ。
「分かった、君も逃げろ!」
ピーターは酷く取り乱しているフォーンの男性を落ち着かせると
速やかに避難するように計らった。
しかし、牢に幽閉されていたコルネリウス博士を連れ戻しに行っていたカスピアン
が偶然、側を通りかかり、じりじりと妖精女王を追いつめていた釣合い重りを落とした兵士に
体ごとぶつかっていくと、大理石の円柱から中庭へと突き落として危機を救ったのだった。
「ピーター王があなたを探している」
カスピアンはがしっと彼女の両肩をつかむと熱っぽく言った。
「私は博士を連れて厩に行く。あなたも一緒に」
彼は彼女の腕をつかみ、その言葉を言い終わらないうちに駆け出そうとした。
「そんなことは出来ません!仮にも私はナルニアの女王です。まだ城内にいる大勢の戦っている民を放っていけと?」
「あなたも一国の王子なら分かるはずです!」
は彼につかまれた腕を乱暴に振り解くと、二の句を告げぬうちに
軽やかな衣擦れの音を立てて走り去っていった。