夕闇が迫る中、楽しい時間をめいいっぱい過ごしたは「夜道は危険だから家まで送っていきますよ」
と申し出た蔵馬とともに歩いていた。
「蔵馬、の二人ですね?」
ほの暗いコンクリート壁の陰から黒っぽいモスリンのフードに身を包んだ女性が出てきて
声をかけた。
「誰だ?どうやら招かざる客のようだが・・」
とっさに蔵馬は片手を突き出し、を後ろに庇った。
「お忘れになったとは言わせませんわ。そこのお連れの方が倒した魅由鬼といえば思い出されるのでは?」
魅由鬼は黒っぽいフードを外すと、青白い髪の毛に囲まれた妖艶な顔を
あらわにしてにこやかに微笑んだ。
「いったい何の用なの?まだ私達に何か?」
はさっと戦闘の構えを取ったが、魅由鬼はくすくすと笑うだけだった。
「今日はあなた方と戦いに来たのではありません。戸愚呂様のお使いで参りました。
戸愚呂様は、あなた方を大変気に入られ、二ヵ月後に開かれる暗黒武術会のゲストにご指名なさってます」
「もし、俺達が断ったら・・」
蔵馬の目がたちまち危険な光を帯びた。
「あなたがた二人の命の保障は出来かねます」
「お二方とも賢明な方のようですから、そのような野暮な真似はなさると思いませんが・・」
「この大会には人間界代表として、他に飛影や浦飯幽助、桑原和真も招待されています」
「それから、そちらのお連れの方にはゲストチームの補欠メンバーとして参加して頂くよう
ある方から指令が出ております」
「黒幕は戸愚呂兄弟じゃないのね。じゃあいったい誰が私をそんなポジションに?」
冷静なはゆっくりと言葉を選んで尋ねてみた。
「さあ、それは伏せるようにとのことですので・・」
「あなたともう一度戦ってみたかったですわ。まだうら若い身ながら大変いい腕をお持ちですもの」
「とんだ災難が来たな」
魅由鬼が魅惑的な笑みを浮かべて立ちさってしまうと、今の会話を一部始終盗み聞きしていたであろう
飛影が別のコンクリート壁の陰から出てきた。
「あなたは・・飛影!」
はびっくりしてもうちょっとで後ろにこけそうになった。
「蔵馬はともかく、お前は大丈夫なんだろうな?」
黒っぽいコートをまとった彼はをじろりと一瞥すると尋ねた。
「分からない・・武術会なんて一度も出たことないもの」
「霊界探偵の父が生きていた時、剣の手ほどきを受けただけ」
彼の鋭い目つきに射すくめられ、は心底困ったように呟いた。
「フン、正直な奴だな。安心しろ。まだ二ヶ月あるし、お前の腕も女にしては悪くない。
あのつぶれ顔よりは磨きがいがある」
彼女より、頭一つ分背が低い彼はにんまりと笑った。
「ところで飛影、勝算はどうです?」
「さあな・・」
蔵馬は自分はともかく、魔界のことなど何も知らない彼女が災いに巻き込まれてしまったことを
案じていた。