あれから無事小豆洗いを倒し、いよいよの高校卒業を迎える日がやってきた。
濃紺の制服の胸には十字架をあしらった校章、卒業生だけがつける青いリボンをとめつけ、
卒業式に挑んだ彼女は誇らしげだった。
ここのところずっと体調が優れなかったお絹ばあちゃんも保護者席に
杖にすがりつつ見守っているし、何もかもいいことずくめだった。
卒業式が終わると校門の前でにぎやかに「卒業おめでとう」と
声をかけあう保護者、後輩の女子高生や卒業生仲間達の間をすり抜け、は両親失踪後、
自分を親代わりに育ててくれた祖母を伴ってゆっくりと歩き出した。
「よっ、、卒業おめでとう!」
校門の前ではオーガンジームーンライトの花束を抱えたサスケが待っていた。
「わぁ〜何これ!?びっくりするじゃない!」
その途端、次々と校門の陰から飛び出してきた四人の仲間から「、卒業おめでとう!」
「Congratulations on your graduation!(卒業おめでとう)」
と日本語や英語でやんややんやの祝辞を浴びせられ、四方八方から花束を頂戴したは感激してしまった。
実はが猫丸での妖怪退治の旅になかなか参加しなかったのは、病気がちの祖母が
自分の卒業式の晴れ姿を見たいと望んでおり、その切なる願いを適える為、出発を遅らせていたのだった。
「や、この年寄りのたった一つの願いを叶えてくれてありがとう」
「お前はもう好きな道に進んでいいんだよ」
「そんじゃ皆さん、孫を一つよろしくお願い致します。、これからえれぇことも
ごまんとあるだろうが、世のため、人のため、この方達と頑張っといで」
祖母は孫娘の肩に筋くれだった長い手を伸ばすと優しく語りかけた。
サスケ、サイゾウ、鶴姫、セイカイ、ジライヤはジーンと胸が熱くなるのを感じ、
この70歳を超えたの祖母に頭を下げた。
「で、どれがお前の婿殿だい?皆、なかなかいい男じゃないかえ」
一段落してから、祖母はいたずらっぽく目を輝かせてに耳打ちした。
「はい?えっ、お絹ばあちゃん、この人達はただの友達よ!」
このとんでもない爆弾発言には耳まで真っ赤になって否定した。
「おばあさん、それはこの俺です」
「いや、何言ってんの?俺だってばよ」
「No,No,Youタチチガウ、それはMeね!」
祖母の意味ありげな発言にサスケ、サイゾウ、ジライヤは調子に乗ってほいほい名乗り出て
をやきもきさせた。
「ホホホッ、あいかわらずからかいがいのある子だねぇ・・では気をつけて行っといで!」
「もうっ、何で幾つになってもあんなことばっかり言うのかしら?」
祖母を乗せた白塗りの高級車が行ってしまうと、ようやくほてりの覚めてきたはぶつくさ言った。
「いいじゃねえか、お前のばあさん、すごく面白いぜ。ところで俺が婿じゃ嫌か?」
サスケはにやにや笑い、の肩に手を置きながら真面目か冗談とも受け取れない顔で言った。
「な〜にいってんの!あんた達、女の子に対してほんっとに調子がいいんだから!」
鶴姫はふんっと鼻を鳴らし、の手を引くとサスケから引き離した。
「それより、ちゃんの卒業祝いに何か食いに行こうぜ。俺、腹へってさ〜」
「いいわね、じゃ、今日は私のおごり!パーッと食べに行きましょうよ!」
「マジで?おい、待てよ〜!」
「あんた達、早く来ないと置いていっちゃうからね〜!!」
、鶴姫、セイカイは仲良くプラタナスの坂道を下っていき、後ろで何やらもめていた
三人は慌てて駆け出して後を追った。
こうしてようやく忍びの衆の六人目として妖怪退治に加わることになっただった。
サスケ、鶴姫、ジライヤ、セイカイ、サイゾウ達は普段、猫丸の移動クレープ屋で生活費を稼いでいるらしい。
早速、も忍び仲間内で唯一のくノ一である鶴姫にクレープの作り方を教わっていた。
今日は彼女に頼まれて街に買い物に出ているところだ。
その帰り道、鶴姫に黙って勝手に遊びにいっていたサイゾウと出くわすはめになったが。
「ね、荷物全部持ってあげるから俺の服選ぶの手伝ってよ」
サイゾウはの手からさっと買い物袋を受け取ると、熱心に誘ってきた。
「え〜!鶴姫にバレたら叱られるわよ〜」
あまり気乗りのしない様子では渋ったが、サイゾウは「大丈夫、大丈夫だからって」
半ば強引にの手を引き連れ去ってしまった。
「どう?カッコイイ・・かな?」
「うーん・・別の方がいいかな。すみません、そっちのも見せてください」
結局なんやかんや言いながらも、サイゾウに一番似合うジャケットを選んであげているなのだった。
「本当にお客様はルックスもおよろしいし、スタイルもいいから何着ても似合いますよ〜」
髪の長いきつそうなブティックの女店員がさかんに誉めそやしてくる。
「でしょう?皆にそう言われて困ってんのよ」
否定しないサイゾウにちょっと苦笑いするだった。
「すごくカッコいいわよ。これが一番いいんじゃない?」
はベージュのスマートなジャケットを見て嬉しそうに言った。
「一、十、百、じゅ、十三万!?こんなにするの?」
だが、値札をちらりと見たサイゾウは色を失った。
「十三万、これぐらいなら大丈夫ね。買ったら?」
は彼の横からひょいと覗き込んでのんきに言った。
「大丈夫って?えっ、君、どんな金銭感覚してるのよ!?」
あからさまに嫌そうな表情を隠さないブティック店員の間をすり抜け、サイゾウは急いでを
連れて店を飛び出した。
「あんなに高いとは・・お金がないって結構つらいのよね」
安全な通りまで走ってきたサイゾウは寂しそうに言った。
「あ、そうだ、ちょっと止まってくれない?」
は何ブロックか先にブティックがあるのを見つけて彼を引っ張った。
さっきは寄り道するなとか何とか言ってた癖に、こういうのに弱いところはやっぱり
女の子なんだなあとサイゾウは一人にんまりとした。
「あ、これなんかいいんじゃない?」
ガラステーブルの上にきらきらと輝く髪飾りやカチューシャを一瞥すると、
サイゾウはのこげ茶色の長髪に似合いそうなものを手に取った。
「つけてあげるから鏡で見てみなよ」
サイゾウはさっと後ろに手をやると、の艶やかなこげ茶色の髪に赤い柘榴石の髪飾りを留めつけた。
「とてもよくお似合いですわ。お連れの方は彼女ですか?」
それを見た女店員もにっこりと微笑み、サイゾウに愛想良く聞いてきた。
「そんな・・違うんです、彼は友・・」
「何言ってんの?そうなんです。可愛いでしょ?」
きっぱりと否定するに、サイゾウはこれみよがしに肩に腕を回して抱き寄せた。
「これは鶴姫に。ラッピングもお願いします」
「えっ?自分のじゃなかったの?」
が、赤い柘榴石の髪飾りを手にしてレジカウンターに向かったとき、
何故この店に入ったのか教えてくれたので、サイゾウはちょっと驚いていた。