達はふいに暗闇に投げ込まれた。
次に明かりが見えてきたと思えば、それは空中にぽっかりと浮かぶ
一本の蝋燭の光だった。
蝋燭はゆらゆらと揺れると、まるでついてこいとでも言うように
一軒の古い武家屋敷へといざなった。
鶴姫の「行ってみましょう」との一声で達は浮遊する蝋燭を
追って武家屋敷に足を踏み入れた。
そこで最初に見たものは衝立障子の奥でお琴を爪弾く奥女中の姿だった。
漆黒の髪を髷に結い、銀のかんざしを挿し、縦縞の紫色の着物を着た美しい奥女中の色気にのぼせた
セイカイは「最高にマブイわ」と一言呟いた。
それを聞いたは(案外、惚れっぽい性格なのね・・)と胸の中で考え、
鶴姫に告白したのも、自分を街で見初めて呼び止めたのも彼の性格のなせる業かと一人納得していた。
その謎の和服美人はセイカイ達に気づくと、口元に柔和な微笑みを浮かべ、
座敷へと皆を案内した。
しばらく六人を待たせた女は「何のおもてなしも出来ませんが、ごゆるりとお召し上がりください」と
六つの漆塗りの膳と酒を持って戻ってきた。
「でも、私達ご馳走になる理由が分からない・・」
「何、堅いこと言ってるの!ありがたく頂かなきゃ!」
鶴姫がお膳に盛り付けられた鯛の塩焼きなどのご馳走に目を見張るのをよそに、
セイカイはさっそくぐいと手を伸ばし、お膳に箸をつけていた。
その横では謎の和服美人がサイゾウにお酌をしていた。
(さっきの浮遊する蝋燭といえ、この人気のない山里に妙な武家屋敷。この女、妖怪に違いないわ・・)
は漆塗りのすまし汁のお椀に口をつけるふりをしながら、横目でサイゾウにお酌を
する女を睨んでいた。
それからいつの間にか、夜も更け、豪勢な料理をたらふく平らげた六人はぐっすりと眠り込んでしまった。
次に目が覚めたのは「何だよ、セイカイ・・俺は男だぞ・・」とむにゃむにゃ喋る
サスケの声がした時でその時はすでに遅かった。
和服美人はオッホッホと甲高い声であざけ笑い、皆、危険を感じていっせいに飛び起きて
戦闘の構えをとった。
だが、いつものように手足に力が入らず、六人そろってくにゃりと床に倒れてしまう始末である。
「料理の中に仕込んだ痺れ薬がきいてきたようだね!」
和服美人はエレキギターを片手に不気味に笑いながら言った。
「それじゃあ踊ってもらおうか、妖怪化け猫ロック!」
和服美人はエレキギターを派手にかき鳴らし、「ワン、ツー、スリー、フォー!」とリズムを口ずさんだ。
「ねこじゃ、ねこじゃ〜ねこねこじゃ〜♪」
途端に天井の照明がピンクや緑に変わり、六人は横一列にきりっと整列して、エレキギターのリズムに合わせて可愛らしく踊りだした。
和服美人は六人を躍らせるだけ踊らしてしまうと、エレキギターをかき鳴らすのを止めた。
六人がばたばと眠るように床にくずおれたのを確認すると、和服美人はもう一度高笑いしてついにその恐ろしい正体を現した。
「六人まとめてあの世へ送ってやるニャ〜!」
何と女の正体は妖怪化け猫で、長く鋭い爪を立ててこちらに向かってきた。
痺れ薬で一インチも動けないはずのサスケだったが、手に隠し持っていたまきびしを取り出すと
ぱっと化け猫の歩く前に撒いた。
鶴姫ともはじかれたように起き上がり、素早く龍手裏剣と鶴手裏剣を投げた。
まさかの手裏剣とまきびし攻撃に驚いた化け猫は痛さにうめいて、ひーひー言いながら
ふすまごと外庭に落下した。
「セイカイ達を頼む!」
サスケは印籠片手に二人の女の子達に痺れ薬で動けない仲間のことを任せた。
「化け猫に痺れ薬飲まされるなんてほんとにだらしない!」
「あんた達、少しは私とサスケとを見習いなさいよね〜」
手足の強烈な痺れに苦しむ大の男三人を抱えて帰ってきた鶴姫は
猫丸に据え付けてあるガスコンロで解毒薬を急須でわかしながらぶつくさ言った。
「いくら綺麗な女の人のご馳走だからって・・ちょっとは警戒してるのかと思えば、何で本当に食べちゃうのか・・ね〜」
猫丸のステップからのんびりと顔を覗かせたも、今度ばかりはセイカイの女癖の悪さを非難する有様だった。
それから鶴姫は、湯飲みに入れた解毒薬の漢方薬をトレイにのせてにこやかに現れた。
ありがたや天の助けと言わんばかりに三人の男達は次々に漢方薬に手を伸ばしたが、
あまりの苦さにげえげえ言いながら湯飲みを押しやった。
「苦いぐらい何よ、あんた達、男の子じゃない。ほらぁ〜飲んで!」
鶴姫はサイゾウの首にがっしりと手を回すと、彼の口元に強引に湯飲みを押し付けて怒鳴った。
「Be strong,You'll feel better soon.(我慢するの、すぐに良くなるから)」
「No,No,It is Bad!」
も、ものすごく苦くてのたうち回っているジライヤの表情を楽しむかのように
湯のみを徐々に彼の口元に近づけていった。
リリリッとポケット中で印籠が震えたので、鶴姫とが取り出してみると
一人化け猫と戦っていたサスケからの連絡だった。
「行かないと」
「あんた達、ちゃんと飲んでおいてよ!」
背後から男達の「鶴姫、〜!」コールが追いかけてきたが、
二人の女の子達はさっと顔を見合わせると印籠片手に駆け出した。
その頃、化け猫は街のペットショップ下の地下牢でさらってきた人間の子供を
よくとがれた刃物で調理しようとしていた。
今、まさに丸々と太った子供の首に肉切り包丁を振り下ろそうとした瞬間、
サスケの大型十字手裏剣が飛んできて化け猫の手に握られていた
刃物を吹き飛ばした。
折鶴変化、龍降ろしで自らが巨大な折り鶴、龍に変身して飛行した二人は
ひるんだ化け猫に体当たりして花びら状、つらら状に分散した。