話は戻って、今度こそ真面目にサスケが巨大化したセイカイの方に望遠鏡を
向けると胃の中で餓鬼憑きがピースサインを送っているのが見えた。
鶴姫は吐き出させるべきだと言い、その夜、男忍び三人とくノ一 一人に手伝って貰うと
巨大コショウをかついで凧に吹かれてセイカイの元へ上っていった。
だが、これははなから失敗で、セイカイは巨大コショウから飛散される大量の
粉に耐え切れず、誤って鶴姫の凧を叩き落してしまう有様である。
今度は忍法で街に最後に残ったローストチキンを巨大化させ、
その匂いに誘われた餓鬼憑きがセイカイの胃から飛び出てくるのを待つことにした。
当然、今度も失敗で餓鬼憑きは出てこず、セイカイ自ら真っ先にローストチキンに
手を伸ばしてしまう始末である。
「皆、本当にゴメン〜!俺が頼りないばかりに・・この通り謝るからもう一度チャンスをくれよ〜」
「お願いします!」
巨大化したセイカイはひたすら五人に平謝りしていた。
「あ〜っ、もう、うるさいわねっ!あんたが根性ないからこうやってまた皆で考えてるんでしょうが!」
鶴姫は怒りに任せて目の前のプラスチックテーブルを叩いた。
「そうだそうだ」とサイゾウもふくれて同調し、他のメンバーも難しい顔でセイカイを見上げた。
「俺、考えたんだけど・・」
しばらくたった後、セイカイは一つ提案した。
「鶴姫が俺のご馳走になってくれないか?」
「はぁ!?何なのよ、その提案は!!」
「セイカイ、お前、正気か!?」
「まさか、私達のこともそんな風に食べ物代わりに見てたの!?」
鶴姫、テーブルの上に両足を投げ出していたサスケ、は口々に非難の声をあげた。
「お願いだよ、鶴姫なら絶対に我慢出来る!食べたりなんかしない!」
セイカイはここぞとばかりに必死に頼み込んだ。
「だって・・だって・・俺、鶴姫のことが好きだから!!」
セイカイのこの爆弾発言に男性陣は面食らい、も「言っちゃった・・けっこう男らしいのね・・」
とぼんやりと呟いた。
一番びっくりしたのは鶴姫本人だ。
彼女はとっさにどう反応すべきかわからず、「ば、ばっかじゃない、そんなこと出来るなら、もうとっくに出来てるわよ!!」
とちょっと怒ったように言い返すと猫丸の中へ駆け込んでしまった。
夕暮れ時の中、鶴姫はこのもやもやした気持ちを晴らすかのように猫丸を飛ばしていた。
そして、彼女は突然、猫丸のブレーキをふむと、ドアを押しのけて途中下車してしまった。
「鶴姫!」
「鶴姫、どこへイクネ?」
「おい!」
「今は行かせてあげましょうよ。後は彼女が決めることだわ」
はバスのステップから飛び降りて駆け出そうとした男性三人を押しとどめて言った。
結局、、サスケ、サイゾウ、ジライヤ達は草場の陰から鶴姫の様子を見守ること、
鶴姫の作戦で飛び出てきた餓鬼つきを捕まえるサポート役に徹することにした。
翌朝早く潮騒の音が聞こえる岩場で、セイカイは巨大ハンバーガーに変装した鶴姫と向き合っていた。
彼女はもう一度だけ、信じてあげるとセイカイに言い、決死の覚悟で美味しそうなハンバーガーに化けていた。
セイカイは異常な食欲と鶴姫を想う気持ちの板ばさみで苦しんだが、すんでのところで踏みとどまった。
いちかばちかかけた最後の手段は成功し、見事食欲に負けた餓鬼憑きがセイカイの口の中から飛び出してきた。
すかさず、鶴姫を食わせてたまるかとサスケは鉤縄を投げ、餓鬼憑きにひっかけて引き離した。
セイカイの身体はあっという間に一寸法師のように縮んで、普段のサイズに戻り、仲間達は鶴姫バーガーの術を解いた鶴姫とともに
二人の無事を喜びあった。
その後、勝機が完全に逆転した達は無事に餓鬼つきを倒した。
厳しい波が叩きつけるごつごつした岩場ではセイカイがいつも通り、カツサンドをほお張っている。
セイカイは尻尾をちぎれんばかりに振る犬のように鶴姫に「今度、仲直りの印にデートしない?」
と誘った。
鶴姫は一瞬、にっこりと微笑んだが、すぐに「や〜だよ!」と何を考えているか分からない顔で断った。
セイカイはショックでへこみ、両手にカツサンドをつかむと、がつがつとやけ食いし始めた。
「ね、今度俺達もデートしない?」
鶴姫、セイカイのほのぼのカップル組を眺めていたサイゾウはこの場の空気に浮かされて
サスケの横にいたを熱心に誘った。
「はい?嫌〜!人の胸を勝手に覗くような人とは致しません〜!」
急に話を振られたは困惑していたが、つんと横を向いて
サイゾウをやきもきさせた。
「あっ、そうなの・・それは残念だなぁ・・今度、おわびにケーキおごろうと思ってたんだけどね〜」
だが、女の子にかけてはだてに遊んでいるわけじゃないサイゾウは別の蜜壷を使って
彼女を巧みに誘惑し始めた。
「嘘、ケーキ!?前言撤回!」
案の定、も女の子なので甘い物は魅惑的な蜜だったらしい。ころりと彼の策に落ちた。
「はぁ?ちょ、ちょっと待てよ、お前、誘惑に弱すぎるぞ!」
「そんなキュウニ、Meも聞いてないぜ!」
サスケとジライヤの驚愕する顔をよそに、サイゾウとは仲良く猫丸の中へ
入っていってしまった。
それから数日後、地元では神隠しが多発し、猫丸も何かに取り付かれたように国道を暴走していた。
「Oh,NO!サイゾウ、暴走Stop!」
ジライヤが手すりにしがみつきながら叫んでいる。
「何言ってんの、猫丸が一人で興奮して走ってんのよ、俺のせいじゃな〜いよっと!」
運転席でハンドルを握るサイゾウは達観しているのか、すでに正気を失っているのか
歌うように言った。
「そんな無責任な運転ないっしょ!!」
いつもはお気楽なセイカイもこの時ばかりは黙っていなかった。
「サイゾウ、前!!」
鶴姫にしがみついていたがたちまち悲鳴をあげる。
「わ〜っ!!」と彼がブレーキを踏んだときは遅かった。
車はとっくにセンターラインに寄り、反対車線にはみ出していたからである。
反対車線を曲がってきた黒の小型車の男も叫び声をあげ、皆はもう駄目かと半ば覚悟した。
だが、賢い猫丸がエンジンを最大出力に切り替え、車は次の瞬間、急上昇した。
「うぉう・・飛んじゃってるよ!」
サイゾウはがらりと運転席側の窓を開けて呟いた。
猫丸はすでに真っ白な千切れ雲の中に突っ込み、悠々と快適な空の旅をしていたからである。
そのまま、猫丸は急降下を決めると、どこかの山道脇の猫塚に衝突してようやく暴走をやめた。
「あ〜いってえ、今のでむち打ちになったぞ・・」
セイカイがバスから転がり落ちるように出てきて呻いた。
「サイゾウ、Youは免許ありますか?」
ジライヤもものすごく痛そうに顔をしかめて言った。
「こら!サイゾウの馬鹿野郎!お前にはもうハンドルは握らせねえ!」
サスケはかんかんに怒って、今回の運転責任者に食ってかかった。
「痛い痛い痛い!あ〜骨にひび入ったかもしれない・・」
はいっこうに反省の色がないサイゾウの前で、大げさに痛がってみせて非難した。